
20年前、日本中の子供たちを夢中にした「おジャ魔女どれみ」の新作映画『魔女見習いをさがして』が11月13日(金)に公開する。プロデューサーの関弘美氏はインタビューで「おジャ魔女どれみ」愛を爆発させる一方で、「葛藤もあった」と本音をのぞかせる。
しかし映画はそんな現実を感じさせないくらい、ドキドキワクワク感に満ちている。20年の月日が経っても私たちをときめかせてくれる、魔法のような“どれみワールド”にはどんな秘密が隠されているのか。関氏に話を聞いた。

マーケティングを重ねた結果、共感できるキャラクターと物語ができあがった

――まずは、映画『魔女見習いをさがして』誕生の経緯を教えてください。
昔のテレビシリーズは3〜8歳の子をターゲットに作ったアニメなんですが、あれから20年経つということは、当時の視聴者だった世代の人たちが20代になったことも意味します。
であれば今度は大人になったその世代の人たちに向けて新たな「おジャ魔女どれみ」を作ったら面白そうだなと思い、今作の制作に着手しました。最初はどれみちゃんたちが大人に成長した設定で新作を作るという案もあったんです。なので、皆さんが今、どんな内容を観たいのか、というところで葛藤もありました。
だけど、思い返せば「おジャ魔女どれみ」を作ろうとしていた20年以上前、私たち制作スタッフ(当時30代)の子供時代と比べ、その頃の3〜8歳の子供を取り巻く環境はだいぶ変化していました。そのため3〜8歳の児童を対象にマーケティングを行ったんです。

そしたらその子たちが悲しいと感じる瞬間は「友達と喧嘩したとき」「ペットが死んだとき」とか、不思議だなと感じる瞬間は「遠い所に住んでいるおじいちゃんおばあちゃんとピポパ(電話)を使えば話せる」とか、私たちの子供時代の心情と変わらないことが分かって。
時代が変わっても子供の感受性は変わらない。
――今作の主役は「おジャ魔女どれみ」を観ていた20代の3人の女性ですが、性格も個性もバラバラで、どのキャラクターもすごくリアリティを感じました。
今の20代の女性のリアルを知りたくて、アニメ制作時と同様にマーケティングをしたんです。例えば22歳のソラは「おジャ魔女どれみ」のアニメは観ていたけど多分最後の1年くらいしかリアルタイムで観ていない世代で、27歳のミレはおそらく最初からアニメを観ていた世代、20歳のレイカはリアルタイムではもう終わっているけどその後の配信や再放送でファンになった世代。
今ここで挙げたのがリアルな「おジャ魔女どれみ」のファン層なんです。そして3人のキャラ設定を細分化するために20代女性のマーケティングを行いました。

20代女性の間でどれくらい経済格差が広がっているかについてや、大学の進学率と奨学金制度の利用率も調べたんです。そしたら大学に行く約半分の学生が奨学金を利用していることも分かりました。また(2017年当時で)初婚の平均年齢が29.7歳、第一子を設けるのが30.1歳。
でもこれはあくまで平均の数字なのでもっと早く結婚している人もいれば、第一子を産む平均年齢が上がっていてもおかしくありません。けどマーケティングの結果、そういうリアルな数字が出てきたので、それらのデータに基づきながら主役の3人のキャラクターや性格を練り上げていきました。
――森川葵さん(ソラ役)、松井玲奈さん(ミレ役)、百田夏菜子さん(レイカ役)が今作で主演を務めていますが、この3人のご印象は?

キャスティングをするときにまず監督と“これだけは絶対”と決めていたのが、「『おジャ魔女どれみ』を観ていた人から選ぼう」ということでした。なぜかというと、そういう人たちなら台本を読んでいても「あ〜ここわかる!」って作品の世界に没入しやすいから。
だから『おジャ魔女どれみ』好きを公言している方のなかから、監督と誰がいいか相談しつつ、普段のお芝居の雰囲気や声の感じを材料に決めさせていただきました。その結果、広い役の幅をお持ちの森川さん、年上感の中に優しさが出せそうな松井さん、辛い状況でも明るい声で場を和ませてくれそうな百田さんの3人が浮上し、お願いしたんです。

――皆さんプロの声優さんと思ってしまうくらい違和感がなくお上手でした。
試写を観に来てくれた人のなかにはこの3人が抜擢されていることを知らず、最後エンドロールで彼女たちの名前を見て驚く人も少なくありませんでした。
主役の3人が本当に「おジャ魔女どれみ」のファンでしたから、どれみちゃんたちの声や呪文を聞いただけでその場で泣き出してしまうくらい感動されていて。
プロデューサーとしてもこういう場面に立ち会えるのは嬉しいことですし、彼女たちが生粋の「おジャ魔女どれみ」ファンだからこそ、この映画にさらなるリアルさと感動をもたらすことができたんだと思います。
これからは“推し”の繋がりからなる小さなコミュニティが大事になる時代

――関プロデューサーは先程どれみちゃんたちを大人に成長した設定で新作を制作する案もあったとおっしゃっていました。ファンとしては正直こちらの物語も観てみたいところですが、今後そのような作品を制作する可能性というのは……?
20年前の小さいどれみちゃんだからこそ可愛いと思っていたのであって、彼女たちが大人になって悩みを抱えてしまう姿を見たくないファンもいるかもしれない。そう考えると今回の新作で誰を主役にするかの判断はプロデューサーの立場として1番難しいところでした。
――いろんな考えを巡らせた結果、 『おジャ魔女どれみ』繋がりで出会った3人の女性を主役にした新たな魔法の物語ができあがったと。
そうですね。
それはアニメに限らず応援しているスポーツチームやアイドル、ゲームとかもそうですよね。知り合いのカープ女子に聞くと球場で年に1回しか会わない友達もいるらしいのですが、でも今はそれが普通のことなんですよね。
SNSで繋がっているから頻繁に会わなくてもすぐに同じ話題で盛り上がれるし、好きなものが一緒だから理解も深めやすい。『魔女見習いをさがして』もそれと同じように考えてもらえれば分かりやすいと思います。今回行った20代の女性へのマーケティングでも、会社や学校とは別で好きなもの同士で繋がっているお友達がいるのが普通だという事実をあらためて認識しました。

――おっしゃるように今は会社など普段属しているコミュニティとは別の“推し”繋がりの友達がいるのが普通になってきています。20年前に「おジャ魔女どれみ」を通して多くの子供たちに推しを提供してきた側として、今後の推し文化はどのように発展していくとお考えですか?
今すでに皆さん推しがひとつではなくなってきていると思うんです。アニメならこれ、スポーツならこれ、アイドルならこれ、みたいな感じで小さなコミュニティをたくさん持つ時代がこれからやってくると感じていますし、何ならSNSのアカウントを使い分けたりしてもうそうなっていますよね。
例えばAのコミュニティでは堂々とオタクっぽい自分でいれて、もう一方のBのコミュニティでは応援しているスポーツチームの試合のときに激しく泣いたり叫んだり感情を剥き出しにすることもできる。これって本当の自分を解放できるすごい時代が来ているんじゃないのかなと思っているんです。学校や会社が大きなコミュニティなら推しの繋がりは小さなコミュニティです。
でもこれからはこの小さなコミュニティがきっともっと人生で大事になってくる。『魔女見習いをさがして』に出てくる3人は住んでいる場所や育った境遇もバラバラだけど、好きなアニメが一緒だったという繋がりから出会い、旅に出て、互いの絆を深めていきます。まさにこれって小さなコミュニティだからこその特徴だし、若い人には自分の推しを大事にしてほしいですね。
これからは親子で「おジャ魔女どれみ」を楽しんでもらいたい

――20年以上前に世の子供たちに推しを与えてきた立場として、今どんな気持ちですか?
昔『おジャ魔女どれみ』のファンだった子たちが、今こうして20代になりまるで親のような目線で喜びを感じています。それと同時に当時のファンだった子たちとまた人生のどこかで繋がれるといいなと思っています。「皆さんが30代になって子供が3〜8歳になったとき、今度は親子で『おジャ魔女どれみ』を観てくれますよね?」って(笑)。
でもその頃には女の子だけじゃなく、男の子も気軽に観れるようになっていたらいいなって。20年前はまだ男の子も堂々と「おジャ魔女どれみ」を観ていると言いづらかったみたいなんですが、最近はそういうのも自由に言える世の中になってきているし、男女問わずファンが増えてくれたら嬉しいです。

――最近は親子で推しが一緒って珍しくないですよね。
「ドラゴンボール」がまさにそれですよね。下手すると親子三世代で「ドラゴンボール」のファンっていうのも珍しくないですから。だから「おジャ魔女どれみ」もそういうタイトルになってくれたらいいなというのがプロデューサーとしての思いです。
――最後に最新作の公開を楽しみにしているファンに伝えたいことは何でしょうか?
映画のタイトルは『魔女見習いをさがして』となっていますが、でもこれは当時の「おジャ魔女どれみ」に携わったスタッフが集結し、尚且つそのチームに若い力も加わって20年前の放送時と同じアプローチで作った作品です。

もし、「おジャ魔女どれみ」を観たことがなくても、ひとつの青春映画として十分楽しめる内容になっているので、歌だけ聴いたことがある、ちょこっとだけ観たことある、くらいの人も是非ご覧いただきたいです!
作品情報

『魔女見習いをさがして』
公開:2020年11月13日(金)全国公開
配給:東映
声の出演:森川葵 松井玲奈 百田夏菜子(ももいろクローバーZ) 千葉千恵巳 秋谷智子 松岡由貴 宍戸留美 宮原永海 石田彰 浜野謙太 三浦翔平
原作:東堂いづみ
監督:佐藤順一 鎌谷悠
脚本:栗山緑 音楽:奥慶一
キャラクターデザイン・総作画監督:馬越嘉彦
プロデューサー:関弘美
アニメーション制作:東映アニメーション
映画公式サイト:https://www.lookingfor-magical-doremi.com/
(C)東映・東映アニメーション
ストーリー
「ねえ、大きくなったら何になりたい?」
教員志望でありながらも、自信をなくして進路に戸惑う大学生・長瀬ソラ(名古屋)
望んだ仕事についたものの、職場になじめず葛藤する帰国子女の会社員・吉月ミレ(東京)
夢に向けて進学費用を貯めるも、ダメ彼氏に振り回されるフリーター・川谷レイカ(尾道)
年齢も性格も住んでいる場所も……なにもかもが違う三人。しかも、それぞれ思い描く未来が見えず、人生に絶賛迷い中! そんな彼女たちを引き合わせたのは“おジャ魔女どれみ”!?
かつて魔女見習いたちが集っていたMAHO堂――鎌倉にある洋館での運命的な出会いをきっかけに、三人は飛騨高山・京都・奈良と「おジャ魔女どれみ」ゆかりの地を巡る旅へ!笑って泣いて支え合って、かけがえのない時間を過ごした三人は改めて気づく、いつもどれみたちがそばにいてくれたことに。そして魔女見習いたちに背中を押され、踏み出した先に、素敵な世界が広がっていた――。