
※本文にネタバレを含みます
ともさかりえが野毛山署に加わった『監察医 朝顔』4話
臨海の夜景に佇む茶子(山口智子)からはじまった『監察医 朝顔』第4話。車の運転席に座った若林(大谷亮平)が「今夜は帰さない」。山口智子にはトレンディーな感じが似合う。【前話レビュー】残された者たちの様々な想い描いた第3話
そこから一転して、いつものホームドラマ。万木家にはダンボールいっぱいの桃が送られてきている。つぐみ(加藤柚凪)とジャムを作ろうと約束する朝顔(上野樹里)。鍋いっぱいのコーンスープも美味しそう。
流水音がしてトイレから出てくる平(時任三郎)。『朝顔』のすごいところ、トイレ描写があるところ。いや、ドラマでトイレのシーンはちょいちょいある。だが、それはたいてい職場。普段は憚(はばか)られるちょっとした内緒話的なことを話す場としてトイレは重宝する。家庭内ではわざわざトイレ描写はない。個室だから。ところが『朝顔』では当たり前に人がトイレを使って出てくるところを描く。
「トイレ入るよ」と断る、家庭にはトイレがひとつしかないから譲り合うという気遣いのリアリティーをわざわざ描き、『朝顔』はホームドラマなのだと改めて強調したところで、平の勤務する野毛山署の強行犯係に桑原忍(ともさかりえ)が配属してくる。苗字からわかるように、桑原(風間俊介)の姉である。信用金庫からの転職という意外性。桃は忍から送られたものだった。
「この管内は平さんのご親戚じゃないと採用されないのかね?」と伊東(三宅弘城)が素朴なツッコミ。そのあと、事件が起こって、そこに朝顔がやってきて、忍と挨拶を交わし、「親戚、多すぎませんか」と沖田(藤原季節)が念押しのようにツッコむ。
たしかにちょっと不自然な展開。平、朝顔、桑原という家族で警察関係者というだけでも濃密なところ、さらに忍が加わって、徹底したホーム×刑事ドラマ。もしも一家がみんな刑事だったら的なシチュエーションドラマになって来た。そこは『ルパンの娘』っぽい。
男はつらいよ
事件は、ウェブデザイナー坂井亜衣(椚ありさ)・24歳の窒息死。キャミソールで亡くなっていた。自殺か病死かと思われるなか、首を締められた可能性を朝顔が発見。自殺? 病死? 他殺?
亜衣の妹・美優(高梨臨)は恋人の岸川(松岡広大)が犯人ではないかと言うが、彼は亜衣と美優の仲が悪かったと証言。合鍵をもっているのはこのふたり。どちらかが嘘を言っているのか――。
帰宅しても事件の話が止まらない朝顔と桑原。仕事もプライベートも境界なし。平も、洗濯したタオルをたたみながら話に加わる。こんな親たちの会話をぼんやりとずっと聞いて育つ幼いつぐみはどんな大人になるのだろう。
『朝顔』の家事描写がほっこりすることは確かながら、4話まで観て、ちょっとしつこい気もしてきた。前作は、朝顔と桑原のデート場面などもあったので目先が変わったが、第2シーズンは家の場面ばかりなのだもの。
ホームドラマが売りとはいえ、家族全員あまりにも家事に協力的なのも単調に感じる。なかにはさぼる人とか不器用な人がひとりくらいいてもいいのではないだろうか。
だが、ここで平と桑原が男ふたりで刑事ドラマについて会話するところで、家事に協力的な男たちの心の内がすこし見える。刑事ドラマの影響で刑事になった桑原。でも姉(忍)に、大事な刑事ドラマの録画を勝手に全部捨てられた過去がある。平も昭和の伝説の刑事ドラマ『太陽にほえろ!』のマカロニ刑事が好きで影響されているらしい。それを桑原とだけの秘密にしようとする。
男性だって家事もやり、女性に寄り添わないといけないとされる現代、男性たちが我慢していることもあるのだろう。男はつらいよ。この回のラストの男ふたりの食卓シーンの背中がいい。
最後に用意されていた驚きの展開
舅と娘の夫の穏やかな関係のなかで、桑原は平に仙の浦にいつ行くか、そっと訪ねる。忍が配属になったことで、平が辞めやすくなっていた。家族の穴を家族で埋めるってことか。平に代わって女性刑事が入ることも、女性の時代である。忍は結婚20年、子育ても一段落してやりたいことをやろうと思いきって刑事になったがんばり屋さん。茶子「桃から生まれた桃太郎になってもらいます」(桃太郎のかつらをかぶせる)
忍「ありがとうございます」(笑顔)
桃太郎のかつらかぶるのをこんなに喜ぶなんて大物。またひとり、変わっているけど優秀な女性が増えた。『七人の秘書』(テレビ朝日)も人気なことだし、そのうち『七人の女刑事』が誕生するかもしれない。
さて、ウェブデザイナー死亡事件。大家が容疑者として浮上してきたが、忍は首をかしげる。そして朝顔は事件の真相に気づく。「現実は厳しいですね」と茶子の辛いセリフ。
亜衣の死の直前の出来事を朝顔は読み解く。親しい人が亡くなる前に予兆みたいなものがあったとあとでわかったとき、なぜ気づけなかったのかとか、もっと話をすればよかったとか、残された者は後悔し続ける。
残された者に「あなたはこれからなんだよ」と励ます忍を見て、朝顔は母・里子(石田ひかり)のことを思う。
できた桃のジャムを携えて、朝顔はつぐみとふたりで仙の浦の祖父・浩之(柄本明)の元に向かう。
家庭描写ばかりで飽きてきた視聴者の心を見透かすような展開が用意されていた。さすがです。
【前話レビュー】『監察医 朝顔』残された者たちの様々な想い描いた第3話
【関連記事】『監察医 朝顔』が現代的なドラマである所以は生活のディテールを丹念に描いている点
【関連記事】『監察医 朝顔』1話 傷を抱えながら人々の“生きた証”を残す朝顔が愛された理由
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami
※次回5話のレビューを更新しましたら、以下のツイッターでお知らせします。
お見逃しのないよう、ぜひフォローしてくださいね。
【エキレビ!】https://twitter.com/Excite_Review
【エキサイトニュース】https://twitter.com/ExciteJapan
番組情報
フジテレビ『監察医 朝顔』毎週月曜よる9:00〜
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/asagao2/