『おちょやん』第3週「うちのやりたいことて、なんやろ」
第14回〈12月17日 (木) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

「恩返し」って半沢直樹か
3週のサブタイトルは「うちのやりたいことて、なんやろ」で、千代(杉咲花)は女優になりたいという心の内を発見するのかと思ったら、そうでなく、「“恩返し”がしたい」だった。半沢直樹かよ! と可笑しいような、拍子抜けしたような。その反面、千代、いい子だなと思う。【前話レビュー】好きな気持ちも菓子も噂もやめられないとまらない 人間の本能のおかしみ描いた13回
念のため説明すると、今夏爆発的人気を誇った『半沢直樹』(TBS)で人気セリフ「倍返し」に代わる「恩返し」が誕生していた。『おちょやん』の脚本家・八津弘幸は『半沢〜』の第1シリーズの脚本を書いた、いわば、半沢人気の功労者のひとりである。原作小説には一回くらいしか出てこない「倍返し」を極めて印象的に使ったことが成功の鍵のひとつになった。
八津は今夏の第2シリーズには参加しておらず、「恩返し」は別の作家の考えたもの。それを惜しげもなく使用するところがすばらしい。『半沢』と『おちょやん』どっちの脚本が早くできていたかはちょっとわからないけれど。時期としては『半沢』は本来4月に放送予定がコロナで撮影が中断し7月放送に変更された。『おちょやん』は6月クランクイン直後に撮影が中断している。
朝ドラヒロインを見る視聴者の気持ちを代弁するセリフも
早川延四郎(片岡松十郎)にシズ(篠原涼子)宛の手紙を渡してほしいと頼まれた千代(13回)。一度は断るが、延四郎の人柄を知るとむげにもできない。千代から手紙を差し出されたシズは、延四郎との過去の思い出を話す。
出会いは千代と同じくらいの年令のころで、岡安を継ごうと張り切ったもののうまいことできないシズを、延四郎が救ってくれた。
「ちょっとくらい鈍臭いほうが私はほっとするて。
延四郎がシズに言ったというこの言葉は延四郎のシズへの気持ちと同時に、視聴者の朝ドラヒロインへの気持ちでもあるだろう。“鈍臭い”子が“がんばって一人前になっていく”のを見るのが大好き。
千代も、子供の頃、しょっちゅう転んだり、失敗したりしていたが、その姿を私たちは応援していた。成長した千代はだいぶしっかり者になったけれど、世間を知らず、自分のなりたいものもわからない発展途上。やっぱり応援したくなる。
鈍臭いかどうかはさておき、千代は一所懸命だ。延四郎のおかげでいまのシズがあって、あくまで「恩人」と言い、手紙を破ってしまうシズのことが、気になってならない。
「自分がどないしたいのか、もっとよう考えなはれ。そうせな後悔する」とシズが千代に言ったことを「あれはご寮人さんご自身のことやったんのとちがいますか」と延四郎に会いにいくよう強く勧める。
千代の熱意に押され、シズはようやく決心して延四郎に会いに行くが――。
「恩返し」だけでなく「歌舞伎」の魅力も
延四郎は、13回で千代に、歌舞伎俳優は家柄重視で、外から入ってきた者はいい役がつかないので、東京に活路を求めたという話をする。それが久々に大阪に戻ってきたのは、大阪に「ご恩返し」しようと思ってのことで、ここでもまた「恩返し」。延四郎の名演技として12回にも登場した、歌舞伎の名作『夏祭浪花鑑』。
本水のなか、泥だらけで逃げ惑う舅を執拗に追いかける鬼気迫る主人公・団七九郎兵衛(延四郎がやっている役)。『おちょやん』ではそこと、そのあとの、泥と血にまみれたカラダを井戸水で洗う、これまた主人公の激しい苦悩の名場面も登場。ホンモノの歌舞伎俳優が、ホンモノの歌舞伎俳優の監修で作られた場面はなんだかお得な気分。
今年、歌舞伎はコロナ禍で休演を余儀なくされた公演がたくさんあった。『半沢直樹』で市川中車こと香川照之、市川猿之助、片岡愛之助、尾上松也などが活躍して、歌舞伎の演出なども取り入れた演技が大人気で、歌舞伎が注目されるという現象が起きた。
『おちょやん』も、ツケを使った演出(13回)をやったり、劇中劇をふんだんにやったり。
14回でも、延四郎の芝居と、岡安でシズたちが働いている場面とをカットバックするところは、祭りと殺人が同時進行しているようでもあって、歌舞伎へのリスペクトを感じる。これには根拠があって、須賀廼家千太郎(星田英利)と万太郎(板尾創路)のモデルになっている曾我廼家五郎、十郎の、五郎は歌舞伎俳優に師事していた。千代の芝居の源泉は歌舞伎にあるともいえるのである。
主人公なのに説明セリフ
千代がシズに真剣に進言した理由は、岡安のライバル芝居茶屋・福富の長男・福助(井上拓哉)が、最近は興行の形態が変わり、芝居茶屋が潰れていて、 岡安だって危ないと聞いたから。このまま、延四郎に会わずに終わった挙げ句、お茶屋も潰れたら、我慢が無駄になって散々と思って、なんとしてでも後悔の根をつんでおこうと考えたわけだ。
「岡安にずっといてたいとか芝居が大好きやとかいろんなことがごちゃまぜになってもうわけわからへんかったけど」と言う千代。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』【放送予定】
2020年11月30日(月)~
<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami