『おちょやん』第3週「うちのやりたいことて、なんやろ」

第11回〈12月14日 (月) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

『おちょやん』千代が将来について考える第3週の始まりに、杉咲花の良いところをたくさん挙げてみる
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

杉咲花、まぶしい笑顔で登場

2週間にわたって放送された子役(毎田暖乃)編が終了し、千代が杉咲花に成長した。

【前話レビュー】誰やおっさん!ずぶ濡れの海原はるか師匠の衝撃

大正13年、千代17歳。もう“おちょやん”(小さな女中さん)ではなく、芝居茶屋・岡安のお茶子としていい働きをしている。
季節はめぐり、幼いおちょやんが、かめ(楠見薫)にまたしごかれている。

すっかり仕事を覚え、周囲とも打ち解け(乞食たちとも仲良くなっている)、頼もしい限りだが、来年、数え年で18歳になると年季が明ける。

ご寮人さん・シズ(篠原涼子)に今後はどうする? と聞かれ、進路に悩む千代。サブタイトルは「うちのやりたいことて、なんやろ」で、第3週はオトナになりかかっている千代が将来について考えるエピソードになりそう。

このまま岡安で働くこともできるが、あとで後悔しないように、どうしたいか考えるようにというシズの発言は、千代のことを思ってのこと。いいご寮人さんで良かった良かった。

杉咲花は声がいい

杉咲花の声は澄んで弾んで、聞き心地がいい。
動きもいい。表情もいい。こまねずみのような速度で道頓堀の人混みをかいくぐって走る。

乞食に「きょうは一段とかわいいなあ」とよいしょされると、「朝からそないほんまのこと言わんといて」と返す言い方も、軽やかに響き、嫌味にならない。こういうの、じつはすごく難しいところだ。

ライバル店のお姉様方にいけずを言われても負けてない。
いけず返しをからりとする。地頭がよさそうな、打てば響く感じもいい。
声がきれいなので、強気に出ても、下品に聞こえない。むしろ健気に見える、得な人だ。けっこうきついことを言い、悪い目つきをしても、愛嬌がある。

『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(18年 / TBS系)で、貧乏だけど明るく前向きなヒロインを演じていたとき、杉咲の明るさとガッツは朝ドラ向きだと筆者は思っていた。

だが最近の朝ドラは、同じパターンにはまることを警戒し、毎回、試行錯誤している。すこしおとなしいヒロインとか、ややオトナのヒロインとか、やんちゃなヒロインとか、いろいろなヒロインを描いている。そんななかで千代は、久しぶりに、朝ドラの初期のパターンである、明るく元気で爽やかなヒロインだと思う。

『おちょやん』千代が将来について考える第3週の始まりに、杉咲花の良いところをたくさん挙げてみる
写真提供/NHK

芝居が好きな千代

千代は芝居好きになって、覗き見が習慣になっていた。そのため、芝居に一家言ある。

ある日、見ていた、早川延四郎(片岡松十郎)の芝居(主人公が舅を殺害してしまうお話『夏祭浪花鑑』)に鬼気迫るものを感じたら、引退興行であることを知る。

終わったあと、化粧前で白塗りを落としているときの延四郎の思いつめた顔は、明るく楽しげなドラマのムードとは別物。
なぜ、わざわざここを描くのか。そこにとても惹かれる。

2週の9話で、千代が届け物を頼まれて間に合わなかったエピソードも、引退して国に帰る俳優への贈り物だった。残念ながら千代が寄り道してしまったために手渡されることがなかった。さらりと描かれていたが、志半ばで道を降りる人も世の中にはいるのである。千代はこれから。まだスタートラインにも立ってない。

『おちょやん』千代が将来について考える第3週の始まりに、杉咲花の良いところをたくさん挙げてみる
写真提供/NHK

乞食かと思ったら、高城百合子…さん

引退する人もいれば、なにがしたいかまだわからない人もいる。乞食をやっている人もいる。

乞食の人たちは、あまった食べ物をもらって生きている。千代がお弁当の残りを届けに行くと、そこに、乞食かと思ったら、高城百合子(井川遥)がいた。『人形の家』のノラを演じて、千代を夢中にさせた女優である。なるほど「乞食に施しは受けない」というセリフが芝居がかっている。


なぜ人気女優がこんなところに……。彼女の気まずそうな表情がおもしろかった。

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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥

主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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