『おちょやん』第2週「道頓堀、ええとこや〜」

第8回〈12月9日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

『おちょやん』千代が勉強をはじめるきっかけになった、井川遥が演じていた『人形の家』を解説
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

井川遥、登場

大阪道頓堀編に入って、登場人物も増えて来て、にぎやかに。視聴率も18%台に上がった。

【前話レビュー】篠原涼子といしのようこが怖い そして見応えのあるドラマになる可能性を見た第7回

芝居茶屋の厳しい御寮人さん(篠原涼子)、そのライバルでやっぱりキツそうな御寮人さん(いしのようこ)、心が読めない女中頭(楠見薫)、同い年なのにいばってるいとさん(岸田結光)、口の悪い運命の少年(中須翔真)とたくさんのツワモノたちの圧をめけずに跳ね返していく弾力性の高いラケットのような主人公・千代(毎田暖乃)が頼もしい。


8回は「おはようさんでございます」と近隣の人に思いきって挨拶したら、明るく挨拶を返してもらって、笑顔で掃除をはじめるところからオープニングに入った。ほんの短いシークエンスだが、千代が徐々にこの場所に馴染んできていることがわかる。8回は、千代に大きな影響を与える女優・高城百合子(井川遥)も登場し、さに盛り上がっていくぞ……とわくわくしたら、衝撃の展開が待ち受けていた……。

運命の少年も、生粋の演技派

風呂代わりに水をかぶった千代を「カッパ」と呼んでからかった天海一平(オトナになると成田凌になる)は、人気劇団・天海天海一座の看板俳優・天海(茂山宗彦)の息子で二代目として将来を嘱望されている子役だが、芝居するのが好きでなく、仮病を使って舞台を休もうとする。

だがそれを、御寮人さんの母親・ハナ(宮田圭子)に見抜かれる。舞台上の演技よりも仮病の演技のほうが「よっぽどええお芝居」とちくり。

このくだり、7回のレビューで紹介した、一平のモデル渋谷天外の著書『わが喜劇』に記された“(道頓堀の芝居茶屋の)番頭は女で、古顔で、芝居のことなら幕の内外なんでも知っているコワいのが多かった。
”という一文を参考にできていると思われる。“芝居のことならなんでも知っている”ということはよく見ているということで、ハナが公演をじっと見ているカットがあった。

『おちょやん』千代が勉強をはじめるきっかけになった、井川遥が演じていた『人形の家』を解説
写真提供/NHK

『わが喜劇』にはドラマを楽しむヒントがいっぱい。天外の父で人気役者の初代天外は、大正5年12月、巡業先の名古屋の御園座に出演中、病気のために37歳で亡くなったとある。ドラマでも――。

突然、天海が千代にご祝儀をくれて、「なんやもう眠たいわ」とつぶやいたかと思うと、どっと地面に突っ伏してしまう。
その前の芝居で、

天海「わしもっと生きてたいんや」
一平「父上、はよう成仏してください」

とやっていたことが未来を暗示していた。天海は33歳だった。

天涯孤独の天外を引き取ったのが大阪道頓堀の芝居茶屋・岡島。その岡島の女番頭が毒舌で、天外に厳しかった。それが『おちょやん』では、(たぶん、シズの前に御寮人さんだったであろう)ハナの役割として書かれている。

『おちょやん』千代が勉強をはじめるきっかけになった、井川遥が演じていた『人形の家』を解説
写真提供/NHK

『人形の家』といえば、あの朝ドラ

千代がお使いのついでに見せてもらった演劇は『人形の家』。その主人公は、いま日本で一番勢いのある女優・高城百合子が演じている。
千代は彼女をかぐや姫かと思って、見入ってしまう。

文字が読めなくてもいいと思っていた千代は、『人形の家』の台本をもらったことをきっかけに、一平の力を借りて文字の勉強をはじめる。

偶然、千代に自立を促すことになった『人形の家』は、イプセン作、日本語に訳したのは島村抱月で、女性の自立を描いた先進的なお芝居で、ヒロインは、夫に、妻であり母である義務について言われると「何より第一に私は人間です」「自分でなんでも考えて明らかにしておかなくちゃなりません」と毅然と反論する。

このセリフは、のちのちの千代が俳優として自立していくことの暗示であると同時に、主として女性のドラマである朝ドラのテーマに即したものでもある。初期の朝ドラは、こういった先達の女性の自立を描いた作品に影響を受けていたことは明白で、『なつぞら』でも『人形の家』が上演されるエピソードを盛り込んでいた。

史実では、明治44年『人形の家』を日本初演。
翻訳、演出した劇作家・島村抱月と主演女優・松井須磨子はその跡、禁断の恋に走り世間を騒がせた。高城百合子のモデルは松井須磨子なのかは、これからの展開を楽しみにしたい。

井川遥は、現在再放送中の『純情きらり』では主人公(宮崎あおい ※先はたつさき)の姉役で出演している。この役はそれこそ、結婚して、夫に付き従う役割を強いられ離婚、看護婦として自立していく『人形の家』を地で行くような役だった。

その後、『半分、青い。』では、ピンクハウスのワンピースを着用する個性的なマンガ家のマネージャー役で出演、ここでは女の自立は完成していた。


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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

【放送予定】
2020年11月30日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥

主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」