
※本文にはネタバレがあります
キスシーンがすべてを浄化『先生を消す方程式。』最終回
『先生を消す方程式。【前話レビュー】口あんぐり。このドラマはこれまでの田中圭を消す方程式。に挑んでいるのではないか
スピンオフならぬフライングドラマ『頼田朝日の方程式。―最凶の授業―』で授業の予行演習をしてきた成果がついに。
高校生のとき、いじめられっ子だった朝日が、親切にしてくれた教師・静を慕うあまり、彼女を階段から突き落として昏睡状態に陥れた詳細を説明。
勇気―正気=恐怖
もっともらしい方程式を提示して、静にある種の陵辱をしながら(ソフトにしてあるけど陵辱以外の何ものでもない)、義経(田中圭)をいじめ抜く。静に「キスしちゃった」とか言って、義経の神経を逆なでする。
でも義経は、
人生×愛すること=地獄
という方程式で、朝日に対抗。
恐怖 VS 愛
恨んでない、「愛してる」と刀矢(高橋文哉)、弓(久保田紗友)、薙(森田想)、力(高橋侃)たちに語りかける義経。どんなことをされても生徒たちに向き合って、愛をもって接する。それは静に教わったことだった。
明らかに異常な朝日、渾身の愛の義経。ふたりの教師の間に立った多感な十代の生徒たちは、すっかり義経派に。
刀矢は朝日を刺すが、防刃チョッキに阻まれる。何度も何度も繰り返される地獄を終了させるため、義経は自ら、静の生命維持装置を外す。
義経、朝日の行末は――
人質の静が亡くなってしまえば、義経には怖いものはない。ここから屋上に移動。義経は朝日を、
「全力でお前をいじめる」
「これは復讐じゃない。生徒から先生へ……生徒からお前への教育だ」
「孤独に苦しめ。孤独に生き続けろ。それは地獄だ」
などと責め、朝日が改心するかと思いきや……義経の心臓が動いていないことに気づくやいなや、踵を返して、「お前を消す」と強気に。そこへまさかの――。
落雷にて絶命する朝日。
だが、まだ終わらない。ゾンビになった義経は、山に静を埋め、ひっそりと生きて(死んでるけど)いこうとするが、また落雷によって、静が復活する。
「これからはふたりで、死んだまま生きよう」
そして、指輪、そして、プロポーズ、そして、キス。
第1話以来、久しぶりに『先生を消す方程式。』の考察を脚本家自ら答え合わせする生配信SPを見たら、1話のキス(静が義経に「行ってきますのチュウ」をねだるも、彼女の事故によりできないままになった)を回収したと言っていた。
コロナ禍の日本で「まさか」のことが起こることが誰にとってもリアルになったこと、人と触れ合えず、誰もがいつウイルスに侵されるかもわからない不安のなかで、だからこそ誰かと共に生きたいと思う心が強くなっていること。そんなことを『せんけす』から読み取らせることは容易である。
田中圭のラブシーンの巧みさは「過程」にある
『せんけす』はつまるところラブストーリーだったのだということを決定づけるのは、義経のキスの本気度。ただ唇と唇を重ねるのではなく、静の上唇を喰むようにして、そこから下唇へ……と段階を丁寧に経て見せることで、相手をとても大事にしている愛情が伝わってくる。田中圭の巧さは決め画(原画)でなく、過程(動画)を見せることなのだ。キスシーンの名シーンといえば『ロングバケーション』の最終回があるが、それに並ぶ、いいキス。それによって、ここまでの茶番チックなことがすべて浄化されてしまう最大奥義。その点においては脚本も演技も考え抜かれている。

そんな田中圭のある種のこのドラマへの責任のとり方も立派だったが、拮抗するようにすごいのが松本まりかのゾンビ演技。地面から這い出てきて、上体を激しく前かがみにして、足を一歩一歩、確かめるように前に進めながら、左右、順番に、調整はかるようにカラダを起こしていく動きが、蘇ったカラダ感にあふれ、笑っちゃうほど鮮やか。身体表現の確かさに目を瞠った。さらに、絶叫のパワーも。
前述の考察する動画には、脚本家の鈴木おさむが出演していて、「松本まりかにゾンビになってほしかった」と語っていた。最初から、二部構成で、後半は義経が死んで、ゾンビとなることは決まっていたそうだ。
事務所には、その企画をあらかじめ伝えていたが、田中圭当人には、義経が死ぬことを知らずに撮影に入っていて、あとから説明したら、おもしろいと言っていたとも鈴木は語っていた。
おもしろいと思う気持ちもわからなくはない。ありきたりの学園ものや恋愛ものをやるくらいだったら、ここまでぶっ飛んでいたほうが、やっているほうはその瞬間瞬間を楽しむことが可能であろう。いかにもな善人の、いかにもなセリフを言うだけよりは、ゾンビになったり、学校を走り回ったりするほうが気は楽そうだ。
朝日をとことん悪く、とことん可笑しく演じた山田裕貴にしても、元気盛り、持て余す若いエネルギーをここまで爆発させることができて、悪い気分はしないであろう。刀矢を演じた高橋文哉の、集中力と発散力の優秀さもよくわかった。
考察動画では、朝日に心理的に操られてしまう心とカラダの関係性を論理的に考えて動きに生かしていたことを語っていた。まじめに取り組んでいたことに感心した。
物語を超えて、その人自身がいかにおもしろく輝けるか、その瞬間を作り出すことに長けているのが鈴木おさむなんだなと思う。動画配信中、放送を見つめている目は鋭くてびっくりした。この作家なりの、ここは絶対外せない部分があるのだろうなと思った。
『せんけす』に粗い部分が多々あったことは否めないが、テレビ番組の最低限のところ(俳優を輝かす)は守れていた。もう一度書いておく、『せんけす』は土曜の深夜に、演技巧者たちが集った、ドラマの解放区であった。
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番組情報
テレビ朝日系『先生を消す方程式。』※放送終了/2021年3月31日にDVD-BOX発売
公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/houteishiki/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami