『おちょやん』第4週「どこにも行きとうない」
第18回〈12月23日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

借金2000円、いやがらせ続く
父・テルヲ(トータス松本)の作った莫大な借金2000円(当時は莫大な金額)を千代(杉咲花)に肩代わりさせようと、借金取りの赤松(さけもとあきら)が岡安にやってきて、いやがらせをはじめる。【前話レビュー】あかん! 千代が「ろくでもない料理屋」に売られてしまう! それ、どんな料理屋?
事情を知らない千代は最初、唐辛子を入れた酒を出し「死にとなかったらはよかえり」と啖呵を切った(任侠映画のようでカッコよかった)が、いやがらせは、千代に借金を返させるための行為だったことがわかって、たちまち元気がなくなってしまう。
それから、借金取りのいやがらせはエスカレート。
朝の珈琲が苦く、胃が痛くなりそうな、理不尽な状況。
シズ(篠原涼子)は毅然と状況を受け入れている。自分のせいでこんなことに……それが千代には辛い。シズの話をそっと聞いているとき、花を手前にうなだれた千代のカットが哀しくも美しい。
代わりに、ライバル店・福富が繁盛しはじめた。
福富の長男・福助(井上拓哉)はトランペットがやりたいから店が繁盛すると困るとすっとぼけたことを言って、岡安のみつえ(東野絢香)を怒らせる。
「あの子がこれまでどんだけしんどい思いをしてきたんか…うちらにはきっと一生わからへんわ」と千代のことを真剣に心配するみつえ(従来の朝ドラだとヒロインがこういうことを考える側)に、あまりに無神経な福助。みつえはまたトランペットを川に投げ捨てる。「え〜また〜ちょっと〜」と喚く福助。そしてまた使えない傘を差し出され……。
借金取りのねちっこい仕打ちに比べたら、みつえの千代への想いと、福助の情けなさとで、ややほっとする場面ながら、冷静に考えると、この場面も暴力的なことを笑っていて、胸を痛める人もいそうである。
18回は登場人物が全員、ピリピリ。ほっとできるのは、オープニングの主題歌と、子猫の画が愛らしいアニメーションのみ。<笑顔をあきらめたくないよ♪> ほんにほんに。
「笑いとれたらなんでもよろしいんですか」
天海一座でも衝突が起こっていた。一平(成田凌)は、本番中、芝居を変える千之助(星田英利)についていけず、失敗ばかり。叱られると、「笑いとれたらなんでもよろしいんですか」と反抗するが、「わては喜劇役者や。おまえは何者じゃ。笑えん喜劇に何の意味があるんじゃ」と、喜劇役者としての激しい矜持を見せる千之助の勢いに、返す言葉がない。ストレス解消に、芸妓遊びに精を出していると、ハナ(宮田圭子)には「役者辞めたほうがよろしいなあ。あんた、芝居愛してへんやろ」と言われてしまう一平。
ハナ、いつも音もなく現れ、ズバリと本質を突いてくる。このドラマの神。

「千代ちゃん、あかん!」
ある日の風呂帰り、またしてもテルヲが現れて、千代に助けてほしいとすがる。「お父ちゃんかてなにされるか。おまん、それでええんけ。寂しいないんけ」
このセリフ、最高にイラッとする。この自分本位な人間を表すセリフを考えついた才能を讃えたい。
お茶子仲間の玉(古谷ちさ)や女中見習いの里子(奥野此美)たちが千代をかばうと、「こないええ子たち巻き添えにしていいんけ」とさらにイラッと値をあげてくるテルヲ。
ついに千代は岡安を出ていくことを決意する。あまりにもつらい天海もとい展開。
里子はテルヲに、千代はこの8年、帰るところがないから道頓堀から一歩も出なかった。そんな千代がこんな父でも迎えに来て帰れる家ができたと喜んでいたと訴えかける。残念ながらそんなことで心が動くテルヲではないのだが……。
この切々とした場面で思ったのは、千代が、岡安に恩返しがしたいから年季明けてもここで働くと決めたのは、もちろん恩返しの気持ちもあっただろう。でも、岡安を出ても帰る場所がなかったからだったことも手伝っていたのだと千代がますます不憫になる。
お芝居も好きで、俳優をやってみたい気持ちもきっとあるだろうけれど、自由に好きなことがやれるのは、帰れる家(支えみたいなもの)があるからなのだ。その根本的なものがない人たちが、この世の中にいることを忘れてはいけない。千代の境遇には、現代にも通じる問いかけがある。

千代の気持ちを受け入れて、黙々と仕事を続けるシズ(千代がどれだけ働いたら2000円稼げるか計算していたらいいなあ)を心配する宗助(名倉潤)。
「だんない、なるようになりますがな」(宗助)
なるんか!
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田 凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仁村紗和(節子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』【放送予定】
2020年11月30日(月)~
<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami