『おちょやん』第6週「楽しい冒険つづけよう!」

第28回〈1月13日 (水) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

朝ドラ『おちょやん』だんない――悲劇の連鎖を断ち切って喜劇へ 千代が今後進む道が決まった第28回
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

千代が主役に

不調の山村千鳥一座の起死回生を狙った公演、人気の漫画の舞台化『正チャンの冒険』の前評判は上々。予約もこれまでにないほど入って、一同張り切っていたところ、主演の清子(映美くらら)が初日目前で捻挫してしまった。

【前話レビュー】心に闇を抱えた千鳥と千代 ふたりの闇は引き合っている

唯一、セリフを全部覚えていた千代(杉咲花)に白羽の矢が立つ。
道頓堀の天海一座のときもそうで、千代は代役運を持っているようだ。

芝居を甘く見るな、と千鳥(若村麻由美)はきつく言う。千代が下手なのは、本人もわかっている。でも、楽しみにしている人たちのためにやると決意する。そりゃあ、洋子(阿部純子)の息子・進太郎(又野暁仁)のためにも……と思うのは当然であろう。

千代だって道頓堀の芝居茶屋でたくさんの演劇を見てきたし、一回、舞台に上がった経験もあるし、芝居に大変さは重々承知、カラダで芝居をある程度は知っている。……と思ったら――

朝ドラ『おちょやん』だんない――悲劇の連鎖を断ち切って喜劇へ 千代が今後進む道が決まった第28回
写真提供/NHK

やっぱり下手だった

稽古できるのはわずか1日。清子が懸命に千代を教えるが、腹式発声の基礎もできていない。正面仁王立ちで棒読み。芝居が好きで8年も芝居を見てきても、こんなにできないってどうなんだろうと思うけれど、そこはドラマ。

千代が夜ひとり残って練習していると、千鳥がやってくる。どうやら差し入れを持ってきたようだが、否定する。まったく素直じゃない。
でも結局、持ってきた大福を全部自分で食べてしまった。正真正銘のドSか。

「いい加減飽きたわ」といったんは去った千鳥だったが、戻ってきて薙刀をふりながら腹筋を使って声を出す練習をさせる。そこから千鳥の特訓がはじまった。熱いスポ根ドラマみたい。

こうなったら千鳥が代役をやればいいのに。山村一座の看板俳優なのだから。きっとセリフもすぐ覚えられる気がする。でもそこはドラマ。千代がやらなくてははじまらない。いや、千鳥の矜持として、稽古をしっかりやっていないものはやりたくないのであろう。

いよいよ本番

そして朝が来て、公演初日。赤い帽子に、ブルーの上着と半ズボンで颯爽と登場する千代。
特訓が効いたのか、いい声が出るようになっている。お客の子どもたちは大喜び。

その様子を励みにして、芝居が進むが、クライマックス、山賊と闘うための聖なる短剣を楽屋に置いてきてしまった。そのとき、千代、すこしも騒がず。山賊と闘うのではなく、仲良くしようと持ちかける。

「今までつらいことばっかりやったかもわからへんけど、だいじょうぶ。だんない。きっとこれからもいいこともぎょうさんある。そやさかい、みんな一緒に楽しい冒険続けよう」

千代はアドリブで、客席に語りかけた。

唖然とする観客のなかで、監督(西村和彦)が立ち上がって拍手すると、皆一斉に拍手。さすが監督。空気を作るのがうまい。
進太郎も満面の笑顔。母との良い思い出になったことだろう。

朝ドラ『おちょやん』だんない――悲劇の連鎖を断ち切って喜劇へ 千代が今後進む道が決まった第28回
写真提供/NHK

千代のアドリブに込められた想い

たまたま、小道具の聖剣を楽屋に置いてきてしまったからとはいえ、闘うのではなく仲良くしようというのは、とてもいい流れになったと思う。いわゆる復讐の連鎖を断ち切るということだ。

27回で、千鳥は、実人生で酷い目にあってきたから、芝居で見返すと言っていた。そして、千鳥は、女性が男性に捨てられて尼になる悲劇ばかり演じていた。一方、千代は、敵にも手を差し伸べ、「今までつらいことばっかりやったかもわからへんけど、だいじょうぶ。だんない。きっとこれからもいいこともぎょうさんある。そやさかい、みんな一緒に楽しい冒険続けよう」と言って、物語を喜劇に展開した。

悲劇の連鎖を断ち切って喜劇へ。千代がこれから進む演劇の道が決まった瞬間といっていいだろう。どんなに辛い目にあっても、相手を恨まず、むしろ手を差し伸べ、そして、楽しい冒険を目指す。


千代の、芝居を超えた実感が人の心を動かすことも、天海一座の公演から二度目。千代のこの特別な才能がきっともうすぐ花開く。

ところで、徹夜で稽古して疲れて寝てしまった千鳥が、キューピー人形を握っていた。大事なものらしい。四葉といい、お人形といい、じつは乙女なところが愛しい。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■映美くらら(藪内清子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村亜矢子(シゲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井川遥(高城百合子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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