『おちょやん』第6週「楽しい冒険つづけよう!」

第29回〈1月14日 (木) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

朝ドラ『おちょやん』華丸命名「ムービングサースディ」あっという間に山村千鳥一座ターン終了
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

楽しい冒険続けよう

2週間ぶりに道頓堀の芝居茶屋・岡安の人々が登場し、にぎやかだった29回。

【前話レビュー】だんない――悲劇の連鎖を断ち切って喜劇へ 千代が今後進む道が決まった第28回

千代(杉咲花)が舞台『正チャンの冒険』で小道具の聖剣を忘れたときに放ったアドリブ「今までつらいことばっかりやったかもわからへんけど、だいじょうぶ。だんない。
きっとこれからもいいこともぎょうさんある。せやさかい、みんな一緒に楽しい冒険続けよう」がたくさんの人達の心を救った。

このアドリブセリフは、その後の公演にもそのまま起用されて、子どもたちに大人気。「楽しい冒険続けよう」と観客も一緒に叫ぶようになった。洋子(阿部純子)の息子・進太郎(又野暁仁)もこのセリフに元気づけられ、父の元へ帰って行った。正チャン帽までもらって。

新聞の劇評でも千代の演技が褒められていて、嬉しくなった千代は、岡安に電話する。電話には率先して出ないが、千代からだと知った途端、「千代」「千代」「おちょやん」と電話に群がる。ちらっと一平(成田凌)も出てきて、気にしているふうなのが可笑しかった。

何もかもうまくいって、さあ、これから、と思ったら――

朝ドラ『おちょやん』華丸命名「ムービングサースディ」あっという間に山村千鳥一座ターン終了
写真提供/NHK

山村千鳥一座、解散

千鳥(若村麻由美)は「私も冒険したくなったの」と一座を解散することを決めた。どんなときでも笑顔でいる千代と、笑顔になれない自分を比べ、一から出直そうと考えたのだ。千鳥は自分を見下した人達を見返そうと思って、いつの間にか見下す側になっていたことを恥じる。

えっ。
本当に見下していたのか。とびっくりした。見下したふうに見せて、鍛えていたのかと思っていたのに。

不幸につぐ不幸を経験したことで自己愛ばかり肥大して、他人のことを考える余裕がなくなってしまった千鳥は、千代に出会って目が覚めた。それでも、憎まれ口は止まらない。

千鳥「次に会うときにはあなたの困り果てた顔を見るのを楽しみにしてるから」
千代「それは」
千鳥「いやがらせに決まってるでしょ」

笑い合う千代と千鳥。この爽やかさはまるで、海で殴り合って、わははと笑い合うみたいな熱血ものの世界観。その一方で、四葉のクローバーの押し花を千鳥が千代に贈るのは、乙女。

少年性と乙女性が混ざっている『おちょやん』。制作統括も脚本家も演出家も男性で、クリエイティブの中核に女性がいないところになんとか乙女感を入れていこうとする努力が見え隠れする。

朝ドラ『おちょやん』華丸命名「ムービングサースディ」あっという間に山村千鳥一座ターン終了
写真提供/NHK

男性色のなかに乙女感を入れる努力

乙女感といえば、かぐや姫エピソードとビー玉も最たるもの。
月が千代、太陽が高城百合子(井川遥)で、闇夜が千鳥。「ひとりひとりが千鳥さんが輝かせた星なのかもしれません」というナレーション(桂吉弥)もちょっとイイ話にするにあたって乙女感を意識しているように聞こえる。


太陽でも月でもない千鳥。でも彼女の暗闇は星を輝かせるのである。千鳥が厳しく育てた俳優たちみんながスターになれればいいけれど……。いきなり一座解散とは、みんな困るじゃないかと思ったら、それぞれの行き先の手配はしていく千鳥。千代には、鶴亀撮影所の所長を紹介してくれた。

展開、早い『おちょやん』

さて、朝ドラでは木曜日はことが動くから「ムービングサースディ」と言っていたのは『あさイチ』の華丸。確かに、29回は大きくことが動いた。動きすぎて、早くも山村千鳥一座ターンは終了。週が変わる前に撮影所ターンに移行するとは目まぐるしい。

子供時代2週間。道頓堀時代2週間ときて、京都のカフェーと山村千鳥一座編はまるまる2週間もない。コロナ禍(昨年の分)で『エール』が短縮したように、『おちょやん』も少しずつ短縮されているのではないかと思ってしまう。とはいえ、だらだらと停滞するよりはいい。


千代のモデルの浪花千栄子の自伝のタイトルは『水のように』だが、水は水でも溜まった水ではなく、さらさらと流れる川のような千代の人生。かなり急流である。

故郷と家族を捨てて帰る場所のない千代であったが、岡安の人々は彼女を心配してくれていて、新聞に載ったとき真っ先に報告できる相手となった。ホームドラマの朝ドラが、『なつぞら』(19年)に続いて、血のつながらない、精神的なつながりとしての家族の可能性を描いている。

『なつぞら』はもうひとつの家族がすぐにできて愛情こめて育てられたけれど、『おちょやん』にはもうひとつの親切な家族はいない(岡安は完全に家族というわけではないので)。たったひとりで冒険を続けていく。家族のいない人達も世の中にはいるという多様性に朝ドラも目を向けはじめている。

働く洋子の代わりに進太郎と遊んでいたのがカフェー・キネマの監督(西村和彦)で、進太郎が広島に戻る時、ものすごく名残惜しんでいたことも、血はつながってなくてもみんなで子どもを育てるあたたかい可能性を物語っている。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■映美くらら(藪内清子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村亜矢子(シゲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若村麻由美(山村千鳥役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天外(守衛・守屋役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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