『おちょやん』第10週「役者辞めたらあかん!」
第47回〈2月9日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:中泉慧〉

鶴亀家庭話、初日
「あないな稽古でうまいこといくのやろか」と心配する千代(杉咲花)。「ほんまに問題なんは……千さんや」と一平(成田凌)。
【前話レビュー】史実では一平(成田凌)率いる鶴亀家庭劇のモデル「松竹家庭劇」は3年で解散
やる気のない看板役者の須賀廼家千之助(星田英利)、生真面目な東京新派劇の名門・花菱団の元トップ女優・高峰ルリ子(明日海りお)、すぐにセリフが節になってしまう元鶴亀歌劇団の石田香里(松本妃代)、なにかと見得をきる歌舞伎俳優・小山田正憲(曾我廼家寛太郎)……と芸風が噛み合わない俳優たちによって、鶴亀家庭劇の幕は開くのかと心配したら――開いた。
あっという間。展開早っ。第46回で稽古開始、第47回ではもう初日だった。まあ延々稽古のエピソードをやっても退屈な人には退屈であろう。人間は完成したものを好むものだから。
初日。まずは、元天海一座の須賀廼家天晴(渋谷天笑)、須賀廼家徳利(大塚宣幸)、漆原要二郎(大川良太郎)が短めの狂言をやって場をあたためる。女形だった要二郎が低い渋い声で二枚目役をやっている。これがお似合い。すっかり新たな面を開拓してよかった、よかった。
そして、いよいよトリの「手違い話」がはじまった。鶴亀株式会社の社長・大山鶴蔵(中村雁治郎)も観に来て、目を光らせる。
石田は「旦さ〜ん♪」とやっぱり歌うように語り、小山田はやっぱり歌舞伎調。とはいえ、稽古のときよりはクセが抑えめになっている。だが、場面はなんだか停滞気味。須賀廼家千之助(星田英利)は客席が飽きてしまっていることを感じ、袖に引っ込むと「あかんあかんあかん……」と大慌てでどこかに消えてしまう。
次の出番で千之助は思いがけない場所から登場する。そこからは延々台本にないことをはじめ、千代たちを面食らわす。最近、千代のオフ台詞(心の声)が多いことを感じていたが、ルリ子までオフ台詞で、「なぜ出てこないの?」と動揺を吐露する。

千之助の芝居、客に大受け
すっかり千之助劇場のようになった舞台。客席は爆笑で、観に来ていたみつえ(東野絢香)も大喜び。呼ばれてしばらく出てこないことで、客席を集中させ、そこから思いがけない場所から出てくることで驚かせる。千之助の間合いの巧さ。自分でボケて自分でツッコむなど、緩急自在。
普段苦い顔をしている千之助が舞台の上だと生き生き明るい。千代は感心するが、一平はこれは自分のやりたい芝居ではないと言う。舞台上で千之助がアドリブをはじめたとき、はじまった……という浮かない表情をしていたのが印象的だった。
『おちょやん』というお芝居に、さらに劇中劇をやらないとならないから出演者たちは大変だと思う。テレビドラマの仕草と舞台上の仕草は全然違うものだが、手練が集まって演じ分けている。とりわけ、元宝塚トップスターの明日海りおの舞台芝居はひとつひとつの動きが決まっている。あと、星田の体を使った動き。ふすまを破って飛び出てくるのとかすごいと思う。曾我廼家寛太郎のあたふたしたリアクションも最高だ。
カメラも、おそらくわざと、幕が引かれるとき、ぎこちなく引きにしていたと思われる。スタッフも劇中劇と実際のドラマとで撮り方を変えていて、大変だと思う。
「あなたみたいな人が大嫌いなのよ」
初日は成功したが、ルリ子が反発して出て行ってしまう。面白くない台本を面白くするのが役者と言う千之助に、本を書いたのは千之助ではないかと反論したルリ子。その通り! だからこそ、一平は本自体の完成度を高めようとしているのだ。脚本がよければ、ある程度の能力のある俳優たちがその通りにやれば、確実に面白い舞台になることはある。井上ひさしの舞台などはそうである。ルリ子が辞めたら、芝居が成り立たず、道頓堀にいられなくなってしまうと焦る千代。ルリ子は千代に「そうやってあっちにもこっちにもいい顔して誰彼好かれようとするあなたがいちばん嫌いだって言ったでしょ」と言ったが、千代にはピンと来ていない。実際、千代はそこまで八方美人ではないからルリ子の八つ当たりという印象も拭えないが、千代は目下、道頓堀しか行くところがないから必死というところもあって、ルリ子ほどの俳優としての矜持はない。だからルリ子を苛立たせる。

ルリ子の怒りを理不尽と思ってぷんすかする千代のもとに、誰かから花かごが贈られてきた。京都の撮影所にも贈られてきたことがあった。いやなことがあっても誰かが見ていてくれる。
名作演劇漫画『ガラスの仮面』の“紫のバラの人”(主人公のマヤを応援し、紫のバラをいつも贈ってくれる)のオマージュであることは間違いない。この花かごの人は誰なのか。父のテルヲ(トータス松本)か、一平かと思うが。弟のヨシヲという可能性も? こういう引きがあるとドラマを観る楽しさが増す。
鶴亀家庭劇のモデル、松竹家庭劇は、昭和3年にできて、昭和6年にいったん解散するも、7年には再興し、そのまま戦争を乗り越えて続いていく。この劇団の人気が上がっていくように『おちょやん』もここから盛り上がっていくことを祈る。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami