『おちょやん』第11週「親は子の幸せを願うもんやろ?」

第52回〈2月16日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:大嶋慧介〉

朝ドラ『おちょやん』心揺らす橋の上の恋 親が敵同士のみつえと福助が相思相愛に
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

話は意外な方向へ――

第11週は、お芝居ターンを休んで恋愛ターンに入ったかと思ったら、恋愛ターンにお芝居ターンが絡んでくるという凝った構成になっていた。

【前話レビュー】一平がみつえにフラれたシーンに現れた製作陣の配慮

岡安の長女・みつえ(東野絢香)の恋を応援するため、千代(杉咲花)は一芝居を打つことにする。脚本は、一平(成田凌)


『ロミオとジュリエット』に代表される、親が敵同士の男女の悲恋物語は、ひとつの定形。何度となく見てきたそういうお話を、芝居仕立てで展開するのは、よくある話を新鮮に見せることができる。

みつえに縁談が舞い込んだが、彼女は福富の福助(井上拓哉)と相思相愛の仲になっていた。

岡安と福富には因縁があり、芝居茶屋としてライバルで、ご寮人のシズ(篠原涼子)菊(いしのようこ)が犬猿の仲。そうはいっても福富が芝居茶屋から商売替えしたいまなら、なんとかなると、千代はふたりの恋を応援しようと張り切る。

ところが、商売が違ってもシズと菊の関係は変わらない。旦那同士が仕事の相談でこそこそ会っていることすら許さないふたりは子どもたちの恋も許さない。シズの剣幕を見て千代は困ってしまう。

千代と一平

このエピソードには、恋の話のみならず、母とは何かという問いも含まれている。みつえを愛するがゆえに福助との結婚を認めない母の想いとは何なのか? 千代にはわからない。幼い頃の母親の記憶はほんの少ししかないうえ、父親のテルヲ(トータス松本)は親の愛情の欠片もなく、千代には親の気持ちがよくわからないのである。

そんな話を一平にすると「親かて人間や」と冷めた視点で語るが、彼もまた母親がわからない。だからこそ、芝居を通してそれを知りたいのだという。


一平は常にクールで斜に構え、一見覇気がなく感じられるが、芝居に対する情熱は静かに燃えている。俳優の瞬発力で乗り切る喜劇が受けている時代に、物語(脚本)で見せる新しい演劇を目指そうと日夜、勉強して脚本づくりに励んでいるのだ。だが、彼が書いた“母親”について書いた芝居は、千之助(星田英利)に認めてもらえず、日の目を見ていない。

なんとも切ないのは、そんな一平の想いを千代はスルーして、みつえのために芝居の脚本を書いてくれと頼むことだ。51話の千代は、一平がみつえの気持ちも知らず弄んでいると思い込み、「鈍いやっちゃなあ」と呆れるが、黒衣(桂吉弥)に「千代ちゃんにだけは言われたない」とツッコまれていた。

一平は、千代のことがなんとなく気にかかっているように見えるが、千代は一平に友情以外の感情を未だ持っていない。その微妙な距離感が静かにドラマを温めている。

朝ドラ『おちょやん』心揺らす橋の上の恋 親が敵同士のみつえと福助が相思相愛に
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』心揺らす橋の上の恋 親が敵同士のみつえと福助が相思相愛に
写真提供/NHK

いざ、本番

一平は千代に押し切られて寸劇を書き下ろす。これだって千代の頼みはつい聞いてしまうのだと思う。夢中になる仕事があるとき、好きじゃない子の頼みだったら絶対聞かないであろう。

どこからともなく拍子木の音が鳴り、お茶子たちが集まって、芝居がはじまる。みつえがチンピラに絡まれているところを福助が助けて大怪我したという設定で、シズの前で芝居をして見せるが、みんな慣れないのでわざとらしくなってしまう。幸いシズは芝居だと気づかず、うまくいくかと思いきや、かめ(楠見薫)は緊張して台詞を忘れてしまう。
そこも千代がプロンプ(台詞を忘れた俳優に教える)したりして、なんとかうまくいくかと思ったら……。

シズはとにかく福富を目の敵にしている。突き詰めるとそれは、芝居茶屋・岡安の経営がうまくいっていないからかとも思う。さっさと商売替えした福富に嫁にいかせるなんて女の意地が許さないのではないか。

橋の上の恋

親の愛情がわからない千代と一平。回想で、ふたりが橋の上で泣いている子供時代のシーンが出てきた。親に大事にされない孤独を感じてふたりが各々泣くこのシーンは『おちょやん』屈指の名場面であり、千代と一平の固い結びつきを表している。

この同じ橋の上で、みつえと福助も交流してきた。最初は、たまたま橋の上で語り合い喧嘩して、福助のトランペットを河に投げ入れていたみつえだったが、久しぶりに再会したとき、彼はトランペットが格段に上達していた。人間、やる気になればできないことはないということを体現した福助にみつえの心は動いた。

恋には吊り橋効果というのがあって、揺れているドキドキを恋のドキドキと勘違いするという。この橋は揺れてはいないけれど、どこか非日常の緊張感があって、心揺らすのだ。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース

■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仁村紗和(節子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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