『おちょやん』第15週「うちは幸せになんで」
第71回〈3月15日(月)放送 作:八津弘幸、演出:小谷高義〉

テルヲが来た
“朝ドラ史上最低の父”と言われているテルヲ(トータス松本)がまたしても千代(杉咲花)を訪ねてやって来た。【前話レビュー】千之助と万太郎、一平と父、一平と千之助の関係が修復 バンザーイ!バンザーイ!
お金にだらしない父を嫌って、親子の縁を断ったつもりの千代だったが、テルヲは娘に執着している。千代を心配するシズ(篠原涼子)に「道頓堀から出ていってほしい」と言われても、「悪いけどな、わいはこれからも千代のそばにいる」と頑として聞く様子はない。
テルヲは肝臓の病気にかかって、死期が近づいているらしい。それを知らない千代。血の繋がりとは切っても切れないものなのか。テルヲにもいいところがあるのか。気になる週はじめだった。
ここでいったん、テルヲのことを振り返っておく。
◯千代の幼少時、養鶏所を営んでいたが貧しく、子どもたちに苦労させた
◯後妻・栗子に子どもが生まれるため、千代を道頓堀に奉公に出す
◯千代の年季明けに訪ねてきて、借金のかたに、劣悪な労働環境の店に売ろうとする
◯京都に逃げた千代を追いかけてきて、千代の着物や貯金に手を出す
◯弟のヨシヲもテルヲの生活力の無さのためにヤクザ者になるしかなかった
子どもを作っても育てる力のないテルヲ。自分のことだけでもせいいっぱい。それでもなんとか生きて来たが、髪はすっかり白くなった。酒の飲み過ぎで肝臓はぼろぼろになり、死期が近づいている。
とはいえ、千代に「もうすぐ死ぬさけえ、しゃあない、今までのことは許したる」と情けをかけられたくはない。病気のことを知らせず陽気に振る舞う。

宗助、動く
これまで千代は、なんだかんだ言って、テルヲに情を見せてきた。だが、さすがに堪忍袋の緒が切れていて、「どなたさんですか」と素っ気ない態度をとる。父に対して心が冷え切って見える口調の千代。表情がまったくない。ここへ来て、
宗助(名倉潤)
が動く。岡安の入婿で、これまでずっとのほほ〜んとした飾りのようだった彼が、同じ父として、男として、テルヲを放っておけないところを見せる。千代の家にわざわざ話に来る積極性を見せる宗助。でも千代は「お父ちゃんちゃいます」と冷たい。むしろ、宗助のことを「旦さんがほんまのお父ちゃんやったらよかったのにな」と言うほどだ。
千代の家を出て、千代と宗助が歩いていると、乞食仲間に加わっているテルヲと遭遇。乞食は「来るもんは拒まず」と言う。かつて、道頓堀から追い出されたテルヲに対してこの寛容さ。
「また千代泣かすようなことしたら、わし承知せえへんさかいな」とテルヲにきつく言う宗助だったが、急にお腹が痛くなって「死ぬ」と言い出し、テルヲが病院まで運んだ。
宗助は結石で心配なかったが、テルヲが肝臓を患っていることがわかる。病院で咳き込み、血を吐いたところをシズに目撃され、その場で診療。病状をシズが立ち聞きする。
この流れを見ると、宗助は、父や男の共通点を使って、テルヲの病気を展開させる役割を担ったことがわかる。急に、宗助が痛いと倒れ込む。彼を運んだ病院で、急にテルヲが咳き込んで血を吐く。
はてさて、この脚本はこれでいいのだろうか。目的は、テルヲの病気がわかって彼の心情を見せること。そのために、同じ父である宗助が居ても立っても居られなくなる。そしたらテルヲの前でたまたま病気になって、テルヲが病院につれていくことで、珍しく善行を行われる。
宗助の病気と死の恐怖をまず描き、テルヲの病気と死を重要に描くことで、出来事を強調。一見、うまくできている展開。シナリオ教室の先生の評価を聞いてみたい。

黒衣、大活躍
乞食と一緒に道端に座っているテルヲ。暖を取るための新聞に、五・一五事件(犬飼首相が暗殺された)の記事を見つけ、「この先 日本は大丈夫かいな」と心配を口にする。「あんたが心配したんは日本の将来やない、千代ちゃんの将来やろ」と黒衣(桂吉弥)。テルヲの意外な部分を黒衣が説明してくれた。これまで“朝ドラ史上最低の父”を謳ってきたが、ここへきて、いいところもあった人になりかかっている。「役者同士一緒になったとてうまくいくわけあらへん」と千代と一平に忠告したことも、なかなか鋭い勘ではあった。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■坂口涼太郎(曽我廼家百久利役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仁村紗和(節子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■南谷峰洋プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami