『おちょやん』第15週「うちは幸せになんで」
第74回〈3月18日(木)放送 作:八津弘幸、演出:梛川善郎〉

「赤の他人ですわ」
まだ木曜日。なので、テルヲ(トータス松本)はまだ亡くならず、千代(杉咲花)との関係も解決しない。【前話レビュー】借金取りにボコられるテルヲ、千代の涙…金曜日にスカッとする結末があることを願う
東京の有名な演劇雑誌から家庭劇が取材を受けていると、外が騒がしい。
今度は、「あいつに指一本でも触れてみい! 全員あの世へ道連れや。怖いものなしや!」とテルヲが大暴れ。結果、ボコボコにされる。肝臓がんで余命わずかなわりにはカラダがしっかりして重量感あって、借金取りと互角に闘えそうに見えるが、まあ仕方ない。これが例えばリリー・フランキーだったら、心底、ボロボロになった人物を演じてくれたことだろう。
大乱闘になって、警察が止めに来る。さすがに見逃せず、外に出て来た千代のことは「知らんのかいな。あの人は女優さんや。あねきれいな人がわしみたいな男の身内てなこと、ありえへんやろ。……赤の他人ですわ」と他人のフリ。
「赤の他人ですわ」と涙を飲んで他人のフリをする切ないすれ違いは昔の演劇によくあるパターン。千代の時代に好まれる演劇と重ねてドラマを作っていることは以前から見てとれる。
そのアイデアはいいけれど、演劇とドラマの見せ方の違いが如実に出てしまう。舞台だと、「赤の他人ですわ」で、照明が変わったり、カーン!と音が入ったり、間をすごくとったりして、強調することで名場面になる。でも映像だとそんなことしたら臭みになるので、リアルな感情にフォーカスが当たって、どうにもハマらない。
テルヲの写真
3日後。テルヲは傷害罪で警察に捕まっている。出るには身元引受人が必要だが、身内がいないと言い張っている。千代は考え事して日常の作業がおろそかになってはいるものの、決して行こうとしない。実の父には会いに行かないが、父代わりのような宗助(名倉潤)の見舞いに行く。そこは個室のきれいな病室で、大人数いる荒んだ留置所のテルヲとは大きな差である。

宗助は、テルヲの病気を発覚させるためにただ急に結石になっただけではなく、徹底してテルヲとの対比になり、テルヲがいかに千代を心配していたか、伝える役割も担う。
一平(成田凌)は一平で、撮ったテルヲの写真を千代に見せる。まさに「破顔」。にっこにこの良い表情が、千代には憎らしいが、情も湧いてくる。
良い話にしているけれど、どう考えても、テルヲは毒親で、千代は縁を切っていいところが、周囲が妙な同情心でおせっかいするものだから、切りきれない。
「うちはずっとあんたを恨み続ける」
けっきょく面会に行くが、今さら良い顔しないでほしいと、突き放す。「せめて最後くらいおまんの力になりたいと思ったんだけどな」とツッコミどころ満載のことを言いつつ、最後にと「わいとサエのもとに生まれてきてくれて、ほんまおおきにな」と、生まれてきた子が本当にかわいく思った、あたたかい感情のあったときのことを語る。そして「うちがあんたを捨てたんや」の奉公に出るときのことを後悔してもしきれないと頭を下げる。
どんなにひどい人でも、子どもが一瞬かわいく思えたこともあるだろうし、最後に謝りたい気持ちもあって、それを否定してはならない。……でも、本当にそうなのか?
揺れる心を抑えて、千代は「うちはずっとあんたを恨み続ける」とバリアを張る。許してしまったら、恨みで憎悪の炎で生きてきたこれまでの人世をどう考えていいかわからなくなる。けっきょく、テルヲは自分の都合で動いているのである。若くて元気なときには自由に放蕩して、衰えたら、謝る。
千代はかつて自分がひどい目に合わされたことを並べ立てる。
◯栗子さんを連れてきた
◯借金
◯鳥のモノマネをさせたこと
◯千代を捨てたこと
◯お金を持ち逃げしたこと
◯ヨシヲまで奪った
鳥のモノマネを未だ恨んでいるところが根深い。

『おちょやん』は週単位のエピソードのクライマックスになると、良い感じのセリフで、良い雰囲気にまとめあげる力技を発揮する。成績の良い営業マンのトークを聞いているような才能は買うけれど、子どもを育てられない親の問題は、口当たりよくまとめてしまうと、実際の世の中で浮かばれない人がいるのではないかと気がかりだ。
だからこそ金曜日にどうまとめてくれるか。『おちょやん』が名作になるか、凡作となるか、真価が問われる分かれ目である。
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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■坂口涼太郎(曽我廼家百久利役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■蟷螂襲(小次郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■南谷峰洋プロフィール・出演作品・ニュース
■三戸なつめ(竹井サエ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■粟島瑞丸(記者役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土平ドンペイ(記者役)プロフィール・出演作品・ニュース
■トータス松本(竹井テルヲ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami