『おちょやん』第16週「お母ちゃんて呼んでみ」

第78回〈3月24日(水)放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠 〉

朝ドラ『おちょやん』表現の自由を奪われた時代 小暮と高城百合子はソ連への逃亡を計画していた
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「人形の家」再び

雪の降る夜、千代(杉咲花)の憧れの女優・高城百合子(井川遥)と千代の初恋の相手・小暮真治(若葉竜也)が訪ねて来た。

【前話レビュー】千代をお母ちゃんと呼ばない謎の寛治を考察 そして結婚していた小暮と百合子が怪しい

「私には神聖な義務がほかにあります」とかつて千代が魅入られた百合子の十八番『人形の家』を再現する千代と百合子。千代の芝居がまったく進歩してないのが笑える。
これが当時の百合子の芝居のマネと考えれば変わってなくても納得できる。となると、百合子が下手(言い方…)ってことになるのだが、百合子は年をとり経験を積んで、すこしセリフの言い方に変化があった。もっとも遊びでやっている場面なので目くじら立てることもない。それより、百合子と小暮が特高に追われていることが心配でハラハラさせられる。

北への逃避行

<北へ行くのね>と歌ったのは『あまちゃん』。『おちょやん』では百合子が「北へ向かうの」と言う。やりたいことをやるためにソ連に亡命しようとしていたのだ。

京都撮影所にいたときはそんなふうに見えなかった小暮が、特高に追われていた。

「この世にはいくらがんばっても日の目を見ない人がたくさんいる。そういう人たちを励まし勇気づけられるような作品をつくりたい。芝居の力で一生懸命生きてる人が平等に報われる、そういう世の中に変えたいんだ」

一平(成田凌)に誠実に語る小暮。最初は映画だった小暮がいまは演劇で世の中を変えようとしていた。一平の表情は小暮の気持ちに共感しているように見える。


小暮の書いた本にはがんがん検閲が入っている。「いまこの国では私達のやりたい芝居はできないの」と諦め顔する百合子に、千代は家庭劇に来ないかと誘う。当然、「最低なお芝居ね。戦争に乗じてお涙ちょうだいするような客に媚び売るような芝居、私はしたくないの」とむっとする百合子。

「受ければそれでいいの?」千代に問う百合子は、一緒にソ連に行かないかと誘う。

「うちは喜劇役者だす。せやさかい、お客さんに喜んでもらえたらそれでよろしいねん」
「せやさかいソ連にはいきまへん」

思想的なことやソ連に行くことを、久しぶりに(8年くらい?)会ったさほど仲良いわけでもない者たちが、たった3分で語り合う、まさにインスタントラーメン。そこは『澪つくし』の律子(桜田淳子)くらい、職人がスープを作るように描いてほしいけれど、民放の一話完結の連ドラばかり書いている作家は、どうしてもエピソードが1話分のゲストキャラの分量の描き方しかできなくて食い足りない。

もっとも、今回の場合、小暮と百合子が持っているある種の思想が、令和の今はこの程度の認識だということであって、ドラマがまさに時代を映す鏡になっているともいえるだろう。

朝ドラ『おちょやん』表現の自由を奪われた時代 小暮と高城百合子はソ連への逃亡を計画していた
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』表現の自由を奪われた時代 小暮と高城百合子はソ連への逃亡を計画していた
写真提供/NHK

たとえば、昨今は映画『罪の声』が格差社会に喘ぎ社会改革を目指す者たちの行った犯罪によって未来ある子どもたちが犠牲になった側面に着目してヒットした。あちらを立てればこちらが立たないもので、いまは社会改革しようとする人たちに寄り添うよりも、引いた視線で見る時代なのである。

「芝居の力で一生懸命生きてる人が平等に報われる、そういう世の中に変えたいんだ」とか「うちは喜劇役者だす。
せやさかい、お客さんに喜んでもらえたらそれでよろしいねん」などと聞こえのいいセリフが並ぶ。ドラマ版の半沢直樹のお父さんが貧しさで事業の可能性を失い絶望したことが半沢直樹の「倍返し」の復讐の規範になったように、医者である小暮の父が貧しい患者の診療を打ち切って生きる権利を奪ったことが小暮の行動規範になっている。

そんなエピソードがまるで乾燥したかやくみたいに気持ち入っている。国境を超えてソ連へ愛の逃亡する話なら、南北の境を超えたラブストーリー『愛の不時着』に迫るほどの浪漫と切実さを込めて書いてほしい。

どっちかってゆーとサスペンス

すこし雪の積もった翌日(雪の美術は素敵)、一平が、熊田(西川忠志)に呼ばれて、小暮が特高に追われているらしいと聞いてくる。ほどなく荒木(千葉哲也)たちがやって来て家のなかを捜索。

一平と千代は百合子たちを匿うが、1階、2階と荒木は見てまわり、2階の押入れに目をつける。高まる緊張感! 一平、千代はどうやって特高をまくのか。そして、さっきまで話を盗み聞きしていた寛治(前田旺志郎)がきっと何かしら行動するに違いない。木・金で痛快な展開を期待。主題歌の<笑顔を諦めたくないよ>の「笑顔」を「ドラマ」に入れ替えて歌いたい気持ちで毎日観ています。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(小暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■千葉哲也(特高・荒木役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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