『おちょやん』第17週「うちの守りたかった家庭劇」

第81回〈3月29日(月)放送 作:八津弘幸、演出:原田氷詩 〉

朝ドラ『おちょやん』戦争が激化し福助に召集令状が……道頓堀に暗い影
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

戦争激化して重くるしくなる

黒地に白で「連続テレビ小説」と出て、戦況が悪化していく様子が綴られた。

【前話レビュー】寛治の心を溶かした、家族に恵まれなかった一平と千代の「俺の家の話」

洋楽から日本の曲(軍歌、愛国歌謡)へ――レコード針のアップが凶器のような不安感を煽る。この感じ、名演出家・安達もじりを思い出すが、誰?と思ったら、原田氷詩。
『スカーレット』でもインサート用のモチーフ選びのセンスの良かった人だ。回るレコードの中に戦争の映像が映し出されるのも印象的。登場人物たちのアングルもちょっと違うところを探っているのも良かった。喫茶・福富の外側も観たことのないアングルで撮っていて、岡安の隣にも祠があることがわかった。

店の外で腰を曲げてガンガンで火を焚いてる菊(いしのようこ)の老いと諦念、そこに並んで座り、「岡安、閉めることにしましたんや」と報告するシズ(篠原涼子)の背中合わせの語り合いに得も言われぬ風情があった。先日、『プロフェッショナル 仕事の流儀』で庵野秀明監督が、アニメは「アングル」と言っていた。アニメじゃなくてもアングルは大事。

戦争もののA面とB面

道頓堀のにぎわいも減って、家庭劇の集客もまばら。最初は愛国もので潤っていた家庭劇だが、愛国ものばかりで飽きが来ているが、それしかやれない。弱音をはく劇団員に千代(杉咲花)は発破をかける。

一平(成田凌)もふさぎがちで、千代が「もっとびしっと締めてもらわないとあきまへん」と言うと(千代のほうがびしっと言っている)、「今から俺が何聞いても『ええで』言うてくれな」とへんなことを言い出す。

一平「こないな時やのに芝居やっててええねやろか」
千代「なんでそないなこと」
寛治「ええで、ええんですて」

おいおい、ここは千代が「ええで、ええんですて」じゃないのかい。寛治(前田旺志郎)が肯定するのかい。
主人公は千代だし、一平のいちばんの理解者は千代ではないのか。「ええんですて」と肯定したときの寛治の笑顔がヒロインみたいで千代の立つ瀬がない。

寛治が、百久利(坂口涼太郎)にいじられているときは無邪気な少年のようで、こういうときはいっぱしの青年みたいだし……。年齢的には招集されるくらいの年齢のようだ。でも目が悪いから招集されないと説明がされた。

いまのところ、家庭劇の人たちは招集されていないからすこし気楽に見える。百久利だけは招集されたもののすぐに戻ってきていた。一方、福富は……。

朝ドラ『おちょやん』戦争が激化し福助に召集令状が……道頓堀に暗い影
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』戦争が激化し福助に召集令状が……道頓堀に暗い影
写真提供/NHK

福助(井上拓哉)はジャズが演奏できないことを嘆き、軍歌が「嫌い」と言う。兵隊の慰問でも軍歌を演奏したくないと抜けたので目をつけられたのではないかとみつえ(東野絢香)。福助に召集令状が来た。

福助は、千代の家に、栗羊羹を持って「(みつえと一福を)よろしう頼んます」と頭を深く下げる。
この場面では将棋崩しをやって福助は崩して負けてしまい、間の悪い者であることが示唆される。井上拓哉が一見頼りないけどそれなりに芯のある人物を熱演している。

『エール』から戦争ものが続いている。それも戦争と娯楽芸術と関係を描いたものが。2020年が戦後70年だったからだろうか。『エール』では軍歌、愛国歌謡を作って作曲家として大成した人物を描き、『おちょやん』では軍歌を嫌って見せしめのように招集されてしまう人物を描き、2020年度前期と後期で、A面、B面のように、両方を描いてバランスをとったといえるだろう。でも福富は軍歌で稼いでいるという皮肉も。

劇場閉鎖もあるかもしれないと東京の噂を大山社長(中村雁治郎)に伝える万太郎(板尾創路)。こんなときこそ芝居で「お国の役に」と強気の大山に、いい役者になるはずだった者が出征していく、「やってられまへんな」と口惜しそうにつぶやく。

ほかの芝居茶屋が潰れても守り続けて60年の岡安も閉まることになって、全体的に重苦しい回だったが、猫だけが救いであった。

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■板尾創路(須賀廼家万太郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■曽我廼家寛太郎(小山田正憲役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■坂口涼太郎(曽我廼家百久利役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■井上拓哉(富川福助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■楠見薫(かめ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■土居志央梨(富士子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■仁村紗和(節子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■中村鴈治郎(大山鶴蔵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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