
※本文にはネタバレがあります
さすがに半年間は…『24 JAPAN』最終回
朝倉麗(仲間由紀恵)のスーツのジャケットの柄が血まみれに見えてならない……。総選挙前夜に起こった総理大臣候補(麗)を狙うテロ事件を追う24時間をリアルに24時間で描いた大ヒット海外ドラマの日本版『24 JAPAN』(テレビ朝日系 毎週金よる11時15分〜)がついに最終回を迎えた。半年前に放送された第1話の冒頭は23時18分09秒。
半年間かけて描いたのは24時間――わずか1日ということに今更ながら驚く。1話、1時間で、こんなにも濃密なことが起こるとは。1時間の間に必ずと言っていいほど人が死に(しかもたいてい唐突に死ぬ)、24時間で死屍累々。最初は総理大臣候補を狙うテロと思ったら、それが7年前に獅堂現馬(唐沢寿明)が関わった「夜のとばり」作戦と関連していて、だから現馬とその家族が執拗に追い詰められる。
『24』は社会的に大きなテロ事件を背景にしながら、実はとてもドメスティックな人間関係の物語である。娘・美有(桜田ひより)が死んだと聞かされた現馬はテロ組織のリーダー・ビクター林(竜雷太)とその息子のアンドレ・林(村上淳)に復讐を図る。でも実は、ビクターは「夜のとばり」作戦によって家族を亡くしていた。それが今回の凄惨な事件の発端である。
さらに、現馬との攻防によって、再び娘が死んでいる。でもこれ、自分の身を守るために娘を犠牲にしたのだった。
テロリストや国家的な任務を任された者の身内になると大変である。現馬の妻・六花(木村多江)が民間人なのに巻き込まれて、人質になるは、娘を守るために文字通り体を張るは、記憶喪失になるは、妊娠が発覚するは、夫の浮気相手と対峙するは……半年間くらいの長期の渡る出来事にしか思えない。でもたった1日なのである。
そして、そんな濃密な六花の1日の終わりは、ネタバレしていいでしょうか――
“死”であった。
現馬が六花を助けようとたどりついたときには、胸を撃たれてうなだれていた。不謹慎だが六花、この一日で一生分生きたといえるだろう。
「いい家族みたいな顔して、笑っちゃうわ」
そして、六花を殺した人物が、第1話から謎だったCTUの内通者である。この人物の正体が本家でも日本版でも最大のびっくりポイント。筆者は本国版をすでに視聴済みなのでにやにやしていたのだが、知っていてもやっぱり、わかる瞬間は楽しい。歌舞伎の「待ってました!」の名場面を見るような気持ちを味わえた。そんな、裏切り者を、ネタバレしていいでしょうか――
水石伊月(栗山千明)だった。
現馬の部下であり、元愛人、有能で最も信頼できる人物と思われていた伊月が最初からずっと現馬を裏切っていた衝撃。
いったい彼女はどういう目的でこの任務についているのか気になってならないのだが、六花を殺してしまうあたりは、単なる痴情としか思えないところが、このドラマの真の魅力といっていいだろう。本妻・六花をひたすら守り続ける現馬、第二子を妊娠した六花の絆を目の当たりにさせられて苛立ちが募っていく。
「いい家族みたいな顔して、笑っちゃうわ」(伊月)
家族を殺されたビクターが現馬を追い詰め、家族の絆を見せつけられた伊月(ビクターの部下ではないらしい)は六花に見せしめを行う。極めて小さな単位の諍いが、多くの人立ちを巻き込んで国家的な事件に拡大していくのだからおそろしい。
ハニートラップ恐ろしい
さらに、総理大臣選挙に関しても、揉め事の元は家族関係。子どもの事件を隠したいことからはじまって、最大の理解者であるはずの夫・遥平(筒井道隆)が麗の足を引っ張っていて、秘書・秋山(内村遥)にハニートラップを仕掛けさせる。秋山がじわじわと麗の小心に忍び込もうとするエピソードはざわざわした。
そもそも現馬も伊月のハニトラに引っかかったともいえるし、人間のちょっとした隙に悪意は潜み込み増殖していく。週刊誌発のネットニュースを読むみたいなわかりやすさと、本国の高予算のクオリティーと、24時間一気に観ることの魔力がかつての人気の秘密だったのだろう。
日本版もオンエアはテレビ朝日開局60周年記念作にしては振るわなかった印象だが、配信で一気見するとハマるんじゃないだろうか。
それでも、スタッフ、キャストの完走した健闘は讃えたい。ラストは、本国版と違って、伊月が仕掛けた爆弾の爆破に、現馬が巻き込まれる。すでに死んでいる六花を連れて逃げ、「一緒に帰ろう」と最後まで家族思いだった現馬。本国ではこのあと、主人公は度を越した乱暴者になっていっておもしろいのだけれど。
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番組情報
テレビ朝日系『24 JAPAN』
毎週金曜よる11:15〜
※放送終了
第1話〜24話まで全話配信中
https://www.telasa.jp/series/10964
番組サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/24japan/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami