『おちょやん』第17週「うちの守りたかった家庭劇」
第83回〈3月31日(水)放送 作:八津弘幸、演出:原田氷詩 〉

笑いで苦境を乗り越える
<どんな今日も愛したいのにな>になかなかなりそうにない日々。出征していく人たち、芝居茶屋も劇場も閉鎖、空襲、家庭劇解散……と気持ちがふさぐ出来事の数々。こうして並べると、15分でこんなに! と驚いてしまう。【前話レビュー】出征にあたり坊主頭にした役者・井上拓哉の誠実さ
『おはよう日本 関東版』の朝ドラ送りは高瀬アナのいしのようこのコンサートに行った話。『あさイチ』の朝ドラ受けは昨日から新司会者になった鈴木奈穂子アナが「岡安に続いて、家庭劇も、解散」とアナウンサーらしい簡潔な情報を口にした。近江アナの朝ドラ受けに足りなかったのは情報を簡潔にまとめることだったことに気づかされた。
そのあと、華丸が「か・い・さ・ん」――映画『セーラー服と機関銃』の「か・い・か・ん」とボケて、アイドル話にもっていくことで、奇しくも、高瀬アナのいしのようこが初めて見た芸能人だったという話と繋がった。意識的なものかわからないが見事にイメージの連鎖が起こった。またこれは花車当郎と千代が突然話を繋げていくエピソードとも重なって見えた。どんなときでも機知があれば乗り越えていける。機知のひとつが笑いである。
福助、出征する
福助(井上拓哉)が出征していった。その前に、一平(成田凌)が家族写真を撮る。福助をずいぶん引っぱるなあというのと、一平がこの前、写真を撮った人はテルヲ(トータス松本)で、それが遺影になったのでなんだか不吉な気持ちがする。岡安、おしまいの日
「おしまいの日がやってきました」(黒衣 / 桂吉弥)の「おしまい」という言葉がかわいい。「あんたら、老けたなあ」
「わてらみんなのせいやな」
シズ(篠原涼子)のセリフが可笑しい。「芝居茶屋に湿っぽいのは似合わへん」との理由から、お茶子たち集めるといきなり「老けたな」で、いろいろ語って、最後の給金を渡しながら、今さら、お茶子たちの個性を振り返るシズ。これまでつかず離れずといった感じで出ていたお茶子陣もこれで本当に退場か。ただし、かめ(楠見薫)だけは残る。この人は楔のようなものだから必要である。
しみじみした後、シズは「あんたらがこの岡安の歴史そのものなんだす」「みんなこのわての力不足だす」と謝って、お茶子がそんなことないと言うと、「せやな。ほな、わてらみんなのせい、いうことでよろしいわな。は〜、これで肩の荷がおりました」とケロリ。さっさと出ていき〜と追い立て、戸をピシャリと閉める。もちろん、哀しくて悔しくて仕方ないわけだが、それを見せたくないのが道頓堀のご寮人さん魂。姿勢は老けているが、このへんのケロッとしたいたずらっ子みたいな幼い表情は篠原涼子そのものだった。なにをしても暗くなりきらないのがこの人の良さである。
こんなとき、宗助(名倉潤)は驚くほど本当になんにもしない。それがこの人の個性なのだけれど……。名倉潤だから、なにもしなくても、なんとなく印象に残っているのだ。
百久利も出征、塚地登場
大劇場も閉鎖され、道頓堀の灯が消えた。「鬼畜米英が来よったら、みなわしが笑い死にさせたるわい」と威勢のいい千之助(星田英利)だが、空襲警報が鳴った途端に我先に逃げる。空襲警報で逃げ惑う人たち、防空壕のなかでのギスギスした不安感……などやはり戦後71年目。略さず描こうという考えなのかと思ったら、花車当郎が千代相手にしゃべくり漫才を繰り広げ、皆の気を紛らわせる。最初は、千代のことを「花子」と人間違いする単なるおじさんかと思わせて、花子を牛と言い出してすこし頭がおかしいのかとドキリとさせるが、全然正気、ギスギスした空気を変えようとわざとやっていたのだ。塚地武雅がプロなので、千代との会話の間合いがよく、笑いを引っぱり出していく。
最近、千代の役割が主人公らしくなかったが、花車の登場によって、ようやく生かされそうな雰囲気。ほげたのうまい千代だけに、花車の話にどんどん合わせていく。花車当郎は今後、重要な役割を果たすことになるらしいので、期待したい。
一回、招集されて戻ってきた百久利(坂口涼太郎)だったが、満面の笑顔で再び出征していく。
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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■いしのようこ(富川菊役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■塚地武雅(花車当郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■明日海りお(高峰ルミ子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■曽我廼家寛太郎(小山田正憲役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■坂口涼太郎(曽我廼家百久利役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
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■宮田圭子(岡田ハナ役)プロフィール・出演作品・ニュース
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番組情報
連続テレビ小説『おちょやん』<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
作:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami