
Disney+(ディズニープラス)で配信されるマーベル・スタジオによるオリジナルドラマ最新作『ロキ』の配信が、6月9日から始まる。これが困ったことに、どういう内容になるのかてんで予測がつかないのである。
【関連レビュー】「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」紫色のおっさん宇宙の果てから絶望と共に飛来!覚悟しろ
屈折に屈折を重ねたイタズラの神、ロキ
ロキはマーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)の映画/ドラマに登場するキャラクターである。もともとは北欧神話のイタズラ好きの神であり、コミックのキャラクターとしては、同じく北欧神話に登場する雷神ソーを主人公とする『マイティ・ソー』に悪役として登場する。MCUでは2011年公開の『マイティ・ソー』に、主人公ソーの弟として初登場した。元来がイタズラ好きのトリックスターという神様なので、MCUでのロキの行動も自由奔放。ジョークや皮肉を連発しつつ相手を騙し、捕まえたと思ってもスルリと逃げ去るという厄介なヴィランである。
一方で「実はソーの父であるオーディンの息子どころかアスガルド人ですらなく、氷の巨人ラウフェイの息子をオーディンが拾って育てた」という重めの過去を背負った、屈折した弟キャラであるという美味しい設定も乗っているのが魅力のキャラクターだ。

今から考えると重い雰囲気の映画だった『マイティ・ソー』では、数々の悪巧みを使い、アスガルドの次の王というよりただの気のいい兄ちゃんだったソーを翻弄。あと一歩のところまで追い詰める。さらに、初めてMCUのスーパーヒーローたちが集結した『アベンジャーズ』では、チタウリの軍勢を率いてニューヨークを襲撃。シリーズ通して屈指の悪役ぶりを見せるも、けっきょく敗北してアベンジャーズに拘束され、最後はソーとともにアスガルドへと送還されていった。
その後、『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』では育ての母であるフリッガをダークエルフに殺されたことからソーと共闘しつつ、最後にはソーを騙してアズガルドの王オーディンになりすますことに成功。
続くマイティ・ソーシリーズ3作目の『マイティ・ソー バトルロイヤル』でも止むを得ずソーと共闘することになる。当初は食えない悪役として登場したロキだが、筋肉バカの陽気な兄貴と皮肉屋で頭脳派の弟というコンビがいつしか定着。

そんなロキにとって最大の転機となったのは、現状シリーズ最大の戦いとなった『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』である。『ラグナロク』以降、ソーやアズガルドの民と共に宇宙を漂流していたロキは、『インフィニティ・ウォー』冒頭でサノスの襲撃を受け、なんとそのまま首を折られて死亡!
さすがのロキももう終わりか……と思いきや、アベンジャーズのメンバーが過去に戻った『エンドゲーム』では、2012年のニューヨーク決戦後に拘束された状況で再登場。さらにトラブルを利用して、テレポーテーション能力を使える物体テッセラクトを奪取。その力を使い、何処ともなく消え去ったのである。
というわけで、MCUのタイムラインを順番に辿ってきたロキは『インフィニティ・ウォー』で死亡。しかしアベンジャーズが二度目の介入を行なった2012年のロキは姿をくらませているということになる。現状生きているロキはこちらなので、ドラマ版ではこの2012年から姿を消したロキが主人公になると思われる。

MCUドラマ共通のテーマは受け継がれるか?
『ワンダヴィジョン』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』と、二作続いたディズニープラスでのMCUドラマ配信。コロナのせいで映画の公開スケジュールが乱れたせいもあるが、結果的に『エンドゲーム』でケリがつかなかった人々の姿を追った作品が続くことになった。なんせ『インフィニティ・ウォー』でのサノスのせいで全宇宙の生命体の数が半減。その5年後に戦われた、失われた生命を取り戻すための激闘を描いたのが『エンドゲーム』である。長きに渡ったMCUの現状での総決算的な作品であり、見事な大団円だった。
だがしかし、『ワンダヴィジョン』も『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』も、その大団円からこぼれ落ちた人々の物語である。超常の力を持つ自分を真摯に愛してくれたヴィジョンを失ったワンダの悲しみは全く癒えていないし、偉大なるキャプテン・アメリカを喪失したファルコンとウィンター・ソルジャーは新たな秩序を求める混沌とした世界で苦しみ抜く。
語り口は全く違うものの、二作続けて同じテーマが続いたということは、MCUはサノスとの戦いの後遺症としっかり取り組むつもりがあるということだと思う。

という観点で考えると、気になるのは『ロキ』に登場するロキは2012年のロキであろうという点である。なんせ2012年のロキは『アベンジャーズ』の直後。まだアスガルドが壊滅することもサノスによって自分が殺されたこと全宇宙の生命体が半減したことも知らない、フレッシュで元気いっぱいに謀略をめぐらせていたころのロキなのだ。
つまり、MCUのオリジナルドラマシリーズで初めて、「サノスとの戦いによる喪失を経験していない人物」が主人公を務めることになるということである。
まだまだ呑気だった2012年から直送されてきたロキが、サノスとの戦闘を経て、現実的な社会問題を意識した重いテーマを扱うようになったMCUに帰ってくる……。現状明かされている情報では2012年から逃げ出したロキが"時間の流れを守っている"という組織TVAに捕まり、「自分が改変してしまった現実を元に戻す」という任務を命じられるというストーリーになるという。

相変わらず陰謀を画策するわTVAからは「あいつを信用するな」と散々に言われるわ……というあたりはいつものロキっぽいが、それ以外のことはいまいちよくわからない。
だがしかし、ロキはサノスとの戦いで「自分が死ぬ」という最大の犠牲を払ったキャラクターの一人であることから、サノス戦の後遺症というテーマもおそらく多少は取り扱うはず……。いや、わかんないな、なんせ相手はあのロキだし……。
という感じで、一体どうなってしまうのか、ロキの行動と同じく予測がつかないドラマシリーズ『ロキ』。エキレビ!では各話ごとにレビューしていく予定なので、楽しみにしていただければ幸いである。
(しげる)
作品情報
『ロキ』Disney+(ディズニープラス)にて6月9日(水)16時より日米同時配信
(C)2021 Marvel
Disney+(ディズニープラス)
>はじめてなら初月無料でお試し
>月額770円(税込)ですべての作品が見放題
【関連レビュー】ベショベショに泣いた!「アベンジャーズ/エンドゲーム」10年の月日を載せてアベンジャーズ最後の戦いへ
【関連レビュー】「マイティ・ソー バトルロイヤル」ポップでバカな雷様の冒険譚、80年代的にギラギラ感に酔え
【関連レビュー】「TIGER & BUNNY The Beginning」と「アベンジャーズ」日米ヒーロー映画を比較
しげる
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。
@gerusea