
マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)関連配信ドラマ最新作の『ロキ』。第1話は今までのMCUを大きく上回るスケール感の前振りでありつつ、80年代の冷戦後期を思わせるディテールが目を引いた。
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70億人の弟ロキ、時間軸の外で逮捕!
『ロキ』の物語は、『エンドゲーム』の中盤で描かれた2012年のニューヨークから始まる。アベンジャーズに捕獲された直後、時間を飛び越えてやってきたトニー・スタークのミスによって、「2012年のロキ」はテッセラクトを手に入れる。その力によってロキが行方をくらませたことは、『エンドゲーム』でも描かれていた。姿を消したロキがたどり着いたのはゴビ砂漠。しかしそんなロキの前に、時間を操る謎の武器で武装した兵士らしき集団が現れる。兵士たちは神であるロキを「変異体」と呼び、力を一切発揮させないままテッセラクトごと収容、発光するドアのような出口から姿を消す。

ロキが連行されたのは、薄暗い役所のような建物だった。着ている衣服を没収されて囚人服のような衣装を着せられ、大量に書類を書かされ、有機体であることを証明させられるロキ。どうやら自分は裁判にかけられるらしい。そこで流れてきたのが、ロキを逮捕した組織TVA(Time Variance Authority)の紹介ビデオである。
なんでもTVAのビデオによれば、異なる宇宙が並存していた時代に宇宙同士の覇権をかけた大戦が発生しかけたという。それでは全ての宇宙が破滅してしまうので、全てを知るタイムキーパーたちが多元宇宙を一つの時間軸に統一、「神聖時間軸」と名付けた。
しかし、時空を操作して神聖時間軸以外のルートへはみ出そうとする違反者である「変異体」は後を絶たず、変異体を野放しにしておくと異なる宇宙が大量発生し、また時間軸が乱れてしまう。
というわけでTVAに取っ捕まったロキ。本来の時間軸のロキは『インフィニティ・ウォー』の冒頭でサノスに殺されてしまっている。図らずも別の時間軸にはみ出してしまったロキは、この後どうなっちゃうのか……というのが1話の内容だ。

なんせこのドラマ『ロキ』のロキは、いろいろあって兄であるソーとも多少打ち解けて性格がちょっと丸くなった神聖時間軸のロキではない。チタウリと組んで地球を侵略してやろうと思っていた頃の、調子に乗った自信家のロキである。
もうこの時点のイケイケなロキが、ドタバタするのを見ているだけで十分お腹いっぱいである。いきなり裸に剥かれるロキ。自信満々に神の力を使おうとして空振りに終わるロキ。時間がめちゃくちゃゆっくり進む棒で顔面をぶっ叩かれてスローモーションで吹っ飛ぶロキ。
なんせ『インフィニティ・ウォー』の冒頭で秒殺されて以降、ここまでヘラヘラしつつシバかれまくるロキを見るのは久しぶりである。

冷戦期東側を思わせるディテールにも注目
今回の新規要素として強烈な印象が残ったのが、TVAとそのデザインである。今までのMCU作品には全く登場していない組織だったが、実はスーパーヒーローたちの存在する時間軸を外から監視していたという。その立ち位置は今までのMCU作品の枠組みを大きく押し広げるものだ。しかしこのTVAに関するデザインが、なんだか妙にレトロなのである。等間隔に並んだ薄暗い電球や、ウッドパネル風の壁面。オレンジを基調にしたインテリアに、オープンリールのテープレコーダーっぽい機材。TVAの説明をするビデオにしても、なんだかざらついた質感だしアニメの雰囲気も古臭い。
細かいポスターから大きな石像を中心に巨大建築物が並ぶ窓の外の風景まで、どうも70~80年代のデザイン、それも冷戦期の東側諸国のデザインをトレースした上で多少現代的に調整したような不思議なビジュアルなのだ。
近年、80年代前後の後期冷戦期をフィーチャーした作品が、ジャンルを問わず断続的に製作されている。アメコミ映画でも『ワンダーウーマン1984』はタイトルの通り1984年が舞台だし、ゲーム『Call of Duty:Black Ops-Cold War』も80年代初頭のレーガン政権期を舞台としている。『アトミック・ブロンド』はベルリンの壁崩壊直前を扱っていたし、冷戦は直接関係ないものの『バンブルビー』だって同時代を描いている。
冷戦後期、レーガン政権時代を扱ったコンテンツは、今や世界中で大モテといっても過言ではないのだ。

今回の『ロキ』のTVA周りのデザインは、そんな状況に対して天下のMCUが「ちょっと軽くやってみますか……」と乗り出してきた感がある。なんせ天下のMCU、「80年代を舞台にロキが活躍するドラマ」なんて単純なことはしない。時空を超越した監視組織のインテリアや機材やディテールが80年代東側センスという遠回りを仕掛けている。
しかし一方で「人知れず各年代に工作員を送りこみ、自分たちの痕跡を消しながら調査をかけ、変異体と戦う」というTVAのあり方はほとんど諜報組織と同じ。冷戦期のスパイ戦的エッセンスを話の本筋に組み込んでくるあたり、マジで頭が良すぎて怖くなってくる。
というわけで、ひとまず第一話は序盤の状況説明を、ロキのドタバタを交えつつやったという感じ。この後MCU版冷戦スパイ活劇になっていくのか、それとももっと大規模な時空をめぐる冒険になるのかは微妙に読めないところがあるが、ひとまず『ロキ』を見ておかなくては今後のMCUの流れや内容を把握できなくなりそうな重要作なのは間違いないだろう。次話の配信が楽しみだ。
(しげる)
作品情報
『ロキ』Disney+(ディズニープラス)にて配信中
(C)2021 Marvel

Disney+(ディズニープラス)
>はじめてなら初月無料でお試し
>月額770円(税込)ですべての作品が見放題
◆配信スケジュール(全6話)
※毎週水曜日 16:00配信開始
第1話:6月9日(水)
第2話:6月16日(水)
第3話:6月23日(水)
第4話:6月30日(水)
第5話:7月7日(水)
第6話:7月14日(水)
しげる
ライター。岐阜県出身。元模型誌編集部勤務で現在フリー。月刊「ホビージャパン」にて「しげるのアメトイブームの話聞かせてよ!」、「ホビージャパンエクストラ」にて「しげるの代々木二丁目シネマ」連載中。プラモデル、ミリタリー、オモチャ、映画、アメコミ、鉄砲がたくさん出てくる小説などを愛好しています。
@gerusea