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『ナイト・ドクター』運命は変えられる――桜庭(北村匠海)の変化が感動的だった第3話
イラスト/AYAMI

桜庭瞬の意外な部分が明らかに『ナイト・ドクター』第3話

月9『ナイト・ドクター』(フジテレビ 系 月曜よる9時〜)は臨海都市にある病院の夜間専門の緊急救命で働く若者たちの群像劇。第3話は桜庭瞬(北村匠海)の回。第2話で「普通に生きられない人がいる。
世の中は不公平で満ちている」と人生諦めモードだった桜庭が、運命は変えられることに気づく。

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桜庭の「がんばりたくてもみんなと同じようにがんばれない」とテンションの低いモノローグからはじまって、第2話のラスト――朝倉美月(波瑠)が患者の斎藤篤男(赤ペン瀧川)に襲われているところに繋がる。目の前で美月が変質者にねじ伏せられていることに気づき、誰よりも早く猛然と助けに入る桜庭。変質者は単に女性の唇を奪うだけかと思ったら、もみ合いになって落ちた医療器具で桜庭を切りつける。桜庭、痛そうだった。

桜庭瞬、第一印象は明るいムードメーカーだが、ちょっと頼りないという感じがしたが、意外なところが目白押し。

1. 意外と頼もしい。正義感がある。緊急救命にやりがいを感じている。
2. 心臓に疾患がある。成瀬暁人(田中圭)がそれに気づく。
3. セレブ。
あさひ海浜病院の本院・柏桜会(柏餅に桜餅?)グループの会長・桜庭麗子(真矢ミキ)の息子だった。

負傷した息子を心配して会長があさひ海浜病院にやって来て、救命を辞めてイギリスに留学させようとする。

夜勤明け、心臓が悪いことを同僚に明かす桜庭。メインキャストたちの仕事が終わって帰る時が午前中であることが新鮮。たいていのドラマだと、仕事終わりは夜である。夜勤が通常の仕事だから睡眠不足なわけでもないだろうし、朝のさわやかな空の下、海を見ながら想いを語り合うのは意外といい感じである。夜だと思いつめてしまいそうなことも、朝なら前向きになれそうな気もしないでない。

とはいえ、この時点での桜庭はまだ後ろ向きで、「どんなにがんばっても、どうにもならないことってあるよね」と言って「おつかれ」と去っていくが、帰る場所は全員同じ。病院の寮である。

昼夜逆転しているナイト・ドクターたち。部屋着に着替えゴミ捨てに出た美月。ピンクのスウェット。
そのとき成瀬の靴がピンク。それをベランダから聞いている深澤新(岸優太)も薄いピンクのスウェット。仲良しか。

それにしても、各回、完璧に主人公が入れ替わって、それ以外の人たちは脇役に徹する構成になっていることは珍しい。よくあるドラマだと、美月か成瀬か深澤視点で統一して描きそうなものなのだが、彼らも自分の回じゃないと本当に脇に回ってしまう。ある意味、贅沢な作りである。俳優的には負担が少なくていいのかもしれない。これもひとつの働き方改革であろうか。

それぞれ主役で、それぞれちょっとずつ繋がっている。桜庭は子供の頃、救命医としての本郷(沢村一樹)の活躍を目の当たりにして憧れを抱いていた。そして桜庭は心臓移植していて、それが美月の母と関係がありそう。これは桜庭の第4の意外な点でもある。


「僕の心臓が飛び跳ねた」

桜庭は心臓を提供してくれた人の分まで生きなくてはいけないというプレッシャーを抱えている。「誰よりも清く正しく、自分の命を大切に生きなくちゃならないんだ」と自分に言い聞かせ、ものすごく勉強している。本来、お金持ちのお坊ちゃんで苦労を知らない桜庭が、不公平な世の中に敏感でいられるかと思いきや、逆に、世の中は不公平なものなのだと誰よりも先に諦めてしまう。

だがやがて、患者の息子の父への「生きていてほしい」という思いを目の当たりにして桜庭の心が動く。緊急事態が起きて、それまでだったら、深澤とふたり経験不足なのでビビって何もできなかったところ、勇気を振り絞って対処する桜庭の変化が感動的。「僕の心臓が飛び跳ねた」というセリフは、これまでずっと自分を苦しめてきた心臓が喜びで動いた瞬間を端的に表していて素敵だった。

第3話で注目したいことは、運ばれてきた患者が命の危機にもかかわらず手術を望まないのは、貧しさから保険料を払っていないため多額の医療費を負担できないからという事実。

生活保護を受ければいいのだが、そのためには自宅を手放さなくてはいけない。クモ膜下出血で運ばれてきた男性は自分の命よりも、亡くなった妻の思い出が残った家を大切にしようとし、息子も父の気持ちを優先しようとする。


厚生労働省のサイトを見ると、“預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却等し生活費に充ててください。”と書いてある。土地も家屋も収入もいっさいない人なら、単身者で15万円くらい、家族だったら30万円くらい(母子家庭で26万円)生活保護が受けられる。

その他、国民年金保険料、国民健康保険料、介護保険料、介護サービスの利用料金(介護扶助)、雇用保険料、住民税や所得税、固定資産税などの税金、医療費(医療扶助)、水道料金の基本料金、公営住宅の入居の保証金と共益費、NHKの受信料、公立高校の授業料、保育園の保育料、粗大ゴミの廃棄料金、出産費用(出産扶助)、働くために必要な技能の習得にかかる費用(生業扶助)、葬儀代(葬祭扶助)などは免除される。


これだけ見ると、ありがたい制度だが、家を持っていても働けなかったり収入を得ることができなかったりする人もいるわけで、持ち家が唯一の砦なのにそれを手放さないといけないというのはなんだか釈然としない。幸せになる権利とそれを守る制度の「幸せ」の尺度というものは人それぞれで、家を手放さなくても済む方法もあればいいのに。難しいとは思うけれど、税金や国民保険だけ免除とか、個人個人のオーダーメイドな補償を考えられる成熟した社会を望む。
(木俣冬)

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番組情報

フジテレビ 系
『ナイト・ドクター』
毎週月曜よる9時〜

出演:波瑠 田中圭 岸優太 岡崎紗絵 北村匠海
一ノ瀬 颯 野呂佳代 櫻井海音 梶原善 真矢ミキ 小野武彦 沢村一樹、ほか

脚本:大北はるか
音楽:得田真裕
プロデュース:野田悠介
演出:関野宗紀 澤田鎌作

制作著作:フジテレビ

番組サイト:https://www.fujitv.co.jp/NightDoctor/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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