なぜ、北村匠海は「今」なのか　キャリア14年、ブレイクの理由を探る

クールに見えて熱い情熱を秘める男・北村匠海の魅力

新型コロナウイルスの影響もあり、忘年会も見送り、実家にも帰らずで迎えた昨年の年末。ぼんやりとテレビを観ながら1年を振り返る中で、ふと思い当たったことがある。

「今年はやたらと北村匠海を目にした気がするな」

それもそのはず、2020年の北村は映画5本、ドラマ4本に出演。そんなそばから「ベンザブロック(R) プレミアム」のCMも流れてきて、数えてみると4社のCMに起用されていた。

しかし、だ。北村のことはもう何年も前から知っているのに、なぜ今なのか。その理由を改めて探ってみることにした。

まずは簡単なプロフィールを紹介しておこう。1997年11月3日に東京都で生まれた北村は、現在23歳。小学3年生のときにスカウトされたのを機に、芸能界に入った。ここ数年の活躍ぶりからフレッシュな若手俳優と思っている人も多いかもしれないが、実はそのキャリアはすでに14年にのぼる。

子役の頃から多くのドラマや映画に出演するほか、NHK『みんなのうた』で放送された「リスに恋した少年」で歌手デビュー（08年）を果たすなど幅広い活動をしてきた北村。ドラマ『鈴木先生』（11年／テレビ東京系）や『ゆとりですがなにか』（16年／日本テレビ系）でのインパクトある役柄に加え、映画『ディストラクション・ベイビーズ』（16年）でのヤンキー役など、作品ごとにさまざまなキャラクターを演じてきた。


だが、なんといっても、その名を広く世の中に知らしめたのは、17年公開の映画『君の膵臓をたべたい』（通称「キミスイ」）だろう。女優・浜辺美波とW主演した本作で彼が演じたのは、主人公である「僕」。友人や恋人など人との関わりを必要としない「僕」が、浜辺演じるクラスメイトで、膵臓の病気のため余命1年を宣告されている山内桜良と出会い、彼女と交流を持つことによって成長していく姿を、北村は繊細な演技で見事に表現した。

なかでも、桜良が亡くなった後に1人むせび泣くシーンは、観る者の感情を揺さぶると同時に、映画史に残る名場面と言っても過言ではないと思う。この作品で彼は「第42回報知映画賞 新人賞」「第41回日本アカデミー賞 新人俳優賞」「おおさかシネマフェスティバル2018　新人男優賞」を受賞。その演技力が高く評価された。

“わたるん”で「キミスイ」の「僕」＝北村匠海のイメージを打破

「キミスイ」の「僕」＝北村匠海というイメージが定着しつつあった中、それをいい意味で崩したのが翌18年に放送されたドラマ『隣の家族は青く見える』（フジテレビ系）だった。

このドラマの中で北村は、眞島秀和扮する広瀬渉の恋人・青木朔を好演。恋人のわたるん（愛称）に上目遣いで甘えるといった今でいう“あざとさ”もありながら、妊活中の主人公・奈々（深田恭子）が落ち込んでいるときにさりげなく声を掛けるといった思いやり、また、朔が抱えてきたものの大きさを滲ませるような大人びた表情など、1人の人間の機微を彼はまたしても見事に演じ上げた。特に渉といるときのかわいらしさは抜群で、2人のカップルは“わたさく”の愛称で視聴者に愛された。


すでに気付いた人も多いだろうが、北村匠海という役者は、人間が内包する細やかで複雑な感情を表現するのが非常にうまい。上記の作品以降も、映画『十二人の死にたい子どもたち』（19年）では、いじめにあい、その主犯格の子を殺害した過去を持つノブオ、映画『影踏み』（19年）では山崎まさよし演じる主人公・真壁修一の双子の弟で、15年前に母の無理心中の道連れで死亡し、それ以来、修一の頭の中に棲み付いている（ゆえに、劇中では修一にしか見ることができない）啓二など、難役に挑んできた。

一般的に10代から20歳前後にかけてのイケメン俳優と言えば、学園ものや青春ラブストーリーで“全校の女子生徒が憧れる先輩”とか“ヒロインとの甘酸っぱい恋のお相手”といった役を演じるのがお決まり（極端な話ですが）。けれども北村の場合、あれほど整った顔をしていながら、そういった潮流には乗っていない。

もちろん、映画『春待つ僕ら』（18年）や『思い、思われ、ふり、ふられ』（20年）といった青春ものへの出演もあるが、そこでも一点の曇りもないキラキラしたキャラクターとは決して言えず、どこか影のある役を演じている。それはなぜか――やはり彼の卓越した演技力にあると言っていいだろう（さらに個人的には、彼の印象的な三白眼、少し猫背なところが、どこかミステリアスで内向的な雰囲気を増長しているように思う）。


余談になるが、これまでに彼が演じてきた役だと映画『勝手にふるえてろ』のイチ役も推したいところ。主人公のヨシカ（松岡茉優）が10年間片想いをしている相手というのがイチなのだが、このイチの人間性がまぁまぁヒドい（もちろんキャラクターとして）。けれども、ヨシカに対してどんなに非情な態度をとろうとも、それが決してゲスく見えないどころか、「ヨシカが10年間好きでい続けたのもわかる気がする」と思わせる説得力を持ってスクリーンの中に存在していたのは、何より北村の演技の賜物だったと思う。

2020年が北村匠海のターニングポイントに

確かな演技で着実に役者の道を歩んできた北村にとって、20年は間違いなくターニングポイントとなった1年と言っていいだろう。昨年は新型コロナウイルスによってエンタメ業界も大きな打撃を受けたが、冒頭で紹介した通り、数々の映画やドラマに出演した。

なかでも、初の単独主演となった映画『とんかつDJアゲ太郎』では本格コメディに初挑戦。劇中ではとんかつの被り物やレコードを身につけ全身タイツで踊ったり、タンクトップ姿で渋谷の街を走り抜けるなど、これまで見たこともない演技（と風貌）で新境地を開拓した。

かと思えば、森山未來、勝池涼とともにボクサー役に挑んだ映画『アンダードッグ』では、体重を10kgも減量。シャープな肉体に加え、撮影前から入念に練習を重ねたというハードなボクシングプレーで、過去に秘密を持つ龍太の“陰り”を体現してみせた。さらに、ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』（TBS系）では“ドケチ節約男子”である板垣純を、コミカルかつ愛嬌たっぷりに演じたことも付け加えておきたい。20年は、まさに北村の役者としての懐の深さを見せつけられた1年だったように思う。

音楽でも実力を発揮

そして、もう一つ忘れてはいけないのが、一発録りのパフォーマンスを切り取るYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』で披露した「猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜」の存在だ。役者と並行する形で北村は2011年よりダンスロックバンド DISH//のメンバー（北村はメインボーカルとギターを担当）として音楽活動も行っている。実は彼、歌も相当うまいのだ。

実際、歌唱力と歌声がつまびらかになるこの企画で彼の歌に魅了された人は多く、現在その再生回数は9100万回以上にのぼる（1月18日現在）。この出来事を機に、DISH//にもさらに注目が集まり、昨年は『ミュージックステーション』（テレビ朝日系）や『CDTV』（TBS系）といった多くの音楽番組に出演したのに加え、年末の『第62回 輝く！日本レコード大賞』（TBS系）では「猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜」が優秀作品賞を受賞した。


ちなみに、DISH//はリーダーを務める北村のほか、矢部昌暉(Cho,Gt)、橘柊生(DJ,Key)、泉大智(Dr)の4人組。メンバーはバンド結成以前より所属事務所の新人＆若手俳優集団で構成された恵比寿学園男子部「EBiDAN」時代からの仲（泉は17年の加入だが、EBiDANの活動で3人とは交流があった）。

気心知れた仲間と大好きな音楽を奏でるバンドでの北村は、役者の顔とはひと味違った表情を見せている。ミュージシャンの顔をもっと知りたい人は、2月24日にリリースされる4枚目のフルアルバム『X』をチェックしてみよう。


また、役者としても映画『あやしい彼女』（16年）や『サヨナラまでの30分』（20年）で歌声を響かせているので、こちらもおすすめだ。

演じる役ごとに表情を変え、バンドのライブでは時に熱いシャウトを爆発させることもある北村。人間誰もが静と動の両面を持っているのは当然ではあるものの、果たして彼の素はどちらに近いのだろうか。その答えは「どちらも北村匠海そのもの」のように思う。ちょっとズルい答えなのは百も承知だが、実際取材などで彼に話を聞いていると、表向きは穏やかで落ち着いた印象ながら、口にする言葉に必ずと言っていいほど内に秘められた情熱や意志の強さが表れるのだ。

また、多趣味でもある彼は、一度ハマったものに対する熱の入れ方もハンパじゃない。俳優仲間の村上虹郎の影響で始めたというカメラは、成人した記念に自ら企画した個展「北村匠海 20歳記念展 -ハタチワタシ-」で作品を披露（個展では、もう一つの趣味である自作のイラストなども展示）したほか、近年はカメラマンとして撮影される側から撮影する側になることも。

さらに、スパイスにハマって自宅でスパイスカレーを作りまくったり、自らの撮影と編集でショートムービーを作ったり、ときにはサウナやキャンプに行くこともあるそうだ。忙しい日々のどこにそんな時間があるのだろう？と思うが、彼のこうした寸暇を惜しんで物事を探求する性分は、役者と音楽活動の両面においてプラスの働きをしているのではないかと想像する。


とはいえ、人前に立つときは、ハイでもローでもなく常にフラットな状態でいる印象が強い北村。そんな彼が珍しく感情を表に滲ませたことがあった。それは、念願だった『ミュージックステーション』に初めて出演したときのこと。バンドを代表して1人でマイクの前に立った彼は、緊張のためか「猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜」のラストの歌詞を飛ばしてしまった。その瞬間、彼の顔に浮かんだ悔しさと自分自身に対する怒りが入り交じったかのような表情を目にしたとき、人間臭くてすごくいいなと思った。

きっと、彼にはこれまでも人知れずこうした思いをすることがあったのだろう。けれども、それをおくびにも出さず、ましてや声高に吹聴することもなく、自分の中で咀嚼し、それをバネにして一歩ずつ歩みを進めてきたのではないだろうか。というのは、あくまでも推測にすぎないが、こんなふうに観る者があれこれ想像を巡らしてしまうことこそ、彼が人を惹き付ける魅力の持ち主である証であるように思う。

そんなことを考えながら締めくくった20年だったが、一夜明けた21年元旦。さっそくテレビで北村を見かけた（『芸能人格付けチェク！2021年お正月スペシャル』に出演）。今年は1月21日スタートのドラマ『にじいろカルテ』（テレビ朝日系）に出演するほか、映画『砕け散るところを見せてあげる』（4月9日公開予定）や主演映画『東京リベンジャーズ』（7月公開予定）も待機中。それぞれの作品でまた新しい役柄に挑戦しているとのことで、21年もやっぱり北村匠海から目が離せなさそうだ。
（片貝久美子）

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★「北村匠海」出演作品★
思い、思われ、ふり、ふられ（2020年）
サヨナラまでの30分（2020年）
HELLO WORLD（2019年）
ぼくらの7日間戦争（2019年）
グッドワイフ（2019年）
OVER DRIVE（2018年）
影踏み（2018年）
恋と嘘（2017年）
君の膵臓をたべたい（2017年）
仰げば尊し（2016年）
ディストラクション・ベイビーズ（2016年）
セーラー服と機関銃 -卒業-（2015年）
天使のナイフ（2015年）
陽だまりの彼女（2013年）
重力ピエロ（2009年）
土曜ドラマ　外事警察（2009年）

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FAKE MOTION -卓球の王将-（2020年）
十二人の死にたい子どもたち（2019年）
グッドワイフ（2019年）
OVER DRIVE（2018年）
君の膵臓をたべたい（2017年）
あやしい彼女（2016年）
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