マンションやアパートなどの集合住宅では「ベランダでの喫煙」をめぐる近隣トラブルが後を絶ちません。
 厚生労働省は受動喫煙による健康への影響について継続的に注意喚起を行っており、2020年に全面施行された改正健康増進法では、多くの人が利用する施設での受動喫煙防止対策が強化されました。


 一方で、集合住宅の専有部分やベランダについては、それぞれの管理規約や使用細則によってルールが定められているケースも多く、喫煙をめぐる苦情は管理組合や管理会社へ寄せられる代表的な相談の一つとなっています。

 今回ご紹介するのは、マンションのベランダから毎日のように流れてくるタバコの煙に悩まされた男性の実録エピソードです。

 注意を促す手紙を書いても改善されず、我慢の限界を迎えた男性は、誰も思いつかないような”奥の手”を試すことになりました。

ベランダ喫煙者からの「煙害」に苦しむ住民が実行した“容赦ない...の画像はこちら >>

快適だったマイホームの環境を変えた階下からの「煙害」

 ごく普通の分譲マンションで平穏な暮らしを送る加藤さん(仮名・38歳)。

 結婚と同時に思い切って購入したというこの物件の7階が、彼の大切なマイホームでした。

 周辺のご近所付き合いも非常に良好で、環境もよく通勤にも便利とあって、これまでは何不自由のない生活に大満足していたといいます。

 しかし最近になって、そんな穏やかな暮らしを脅かす出来事が起きました。階下の部屋に、新しく引っ越してきた住人が原因だったそうです。

「とにかく、ベランダから漂ってくるタバコの煙に耐えられなかったんです」と、加藤さんは厳しい表情で語ります。

 風向きにもよりますが、階下で火をつけられたタバコの煙は、容赦なく上階へと立ち上ってきました。

 元々タバコの臭いが大嫌いだった加藤さんにとって、それは苦痛以外の何物でもありません。窓を閉め切る冬場ならまだしも、心地よい風を通したい網戸の時期になると、部屋に充満する臭いはまさに耐え難いものがあったといいます。

我慢の限界を迎え秘策を行使

 実は、加藤さんが暮らすマンションでは、かなり前に自治会の話し合いによって「ベランダでの喫煙は一律禁止」という明確なルールが定められていました。

 にもかかわらず、階下の新住人はそんな規約などどこ吹く風で、毎日のようにベランダに出てはスパスパとタバコを吸い続けていたそうです。


 見かねた加藤さんは、ある日、角が立たないように配慮しながら「タバコの煙で大変困っています」という旨を丁寧に記した手紙を作成し、階下のポストへ直接投函したことがあったといいます。

 匿名でのささやかな訴えでした。しかし、期待していた効果はまったく現れなかったとのことです。

「手紙を読んだはずなのに、その後も一切悪びれる様子もなく煙が上がってきました。これ以上、管理会社を挟むだけの生ぬるい対応ではラチが明かないと、我慢の限界を感じたんです」

 加藤さんは当時の憤りを振り返ります。こうして彼は、自らの手で状況を打破するための”奥の手”を考案することになりました。

「煙」には「煙」で対抗するしかない

 加藤さんが考え出した対抗策は、「煙には煙を」という驚くべき発想でした。だからといって、自分がタバコを吸うわけにはいきません。そこで彼は、少し手の込んだ専用の排気システムを自作することにしたのです。

 用意したのは、ホームセンターで購入した蛇腹状の太いアルミ製ダクトでした。

 これをベランダ上部にある部屋の換気口へしっかりと接続し、地面を這わせるようにして、その先端をあえて階下のベランダ方向へと真っ直ぐ向けたといいます。

 そして、そのダクトから流し込む秘密兵器に選んだのが、なんと”お香”だったのです。

「できるだけ煙の量が多いものを探して、仏壇店をハシゴして買い求めました。
線香にもいろんな種類があるもんですね」

 作戦のインパクトを高めるため、通常の10倍ほどに相当する、ゴルフボールの直径くらいのお香の束を一気にまとめて点火したそうです。

 部屋の中でお香から凄まじい量の煙が立ち上った瞬間、部屋の換気扇を「強」モードに設定して一気に吸い込ませました。

 ちょうど階下の住人がベランダに出てタバコを吸い始めた気配を察知したのを見計らって、加藤さんはこの迎撃システムを起動させたのです。

効果は的面、ようやく訪れた平穏

 加藤さんの部屋がちょうどマンションの角部屋にあたったことも影響し、ダクトの先端から勢いよく排出された濃密な線香の煙は、風に乗って狙い通りに階下のベランダへとダイレクトに流れていきました。

 下からは一瞬、戸惑うような気配が伝わってきたといいます。加藤さんは相手がタバコに火をつけるたび、このお香の煙を送り込む作戦を根気強く何度も繰り返しました。

「向こうにしてみれば、タバコを吸おうと外に出るたびに、どこからともなく大量の線香の煙と強烈な匂いが降ってくるわけですから、気味が悪かったんだと思います」

 この奇妙な煙の攻防戦を数回ほど重ねていくうちに、あきらかな変化が現れたといいます。階下から漂ってきていたあの不快なタバコの煙が、目に見えて徐々に減っていったのです。

 そして作戦開始から1か月ほどが経過した頃には、ベランダからの煙は完全に途絶えたとのことです。

 お香を使った奇策は見事に効果覿面となり、加藤さんのマイホームには、かつての静かで快適な平穏がようやく戻ってきたそうです。

 今回の方法によって結果的に喫煙は収まったようですが、近隣トラブルは一歩対応を誤ると感情的な対立へ発展し、長期間にわたる深刻な問題になることも少なくありません。

 相手に仕返しをするつもりが、逆に新たなトラブルを招いてしまう可能性もあるため、慎重な対応が求められます。


 国土交通省では、マンションでの共同生活では管理規約や使用細則を守ることに加え、居住者同士がお互いに生活環境へ配慮することが円滑なコミュニティ形成につながるとしています。

 また、ベランダ喫煙など管理規約に関わる問題については、当事者同士で解決しようとするのではなく、管理会社や管理組合へ相談し、適切な手続きを通じて改善を図ることが望ましいとされています。

 加藤さんの工夫は功を奏したようですが、同じ方法がすべてのケースで良い結果につながるとは限りません。

 特に煙や臭いを利用した対抗措置は、新たな苦情の原因になる可能性もあります。快適な住環境を維持するためには、「やり返す」ことよりも、ルールに基づいて冷静に対応し、第三者を交えながら解決を目指すことが、結果的に双方にとって最善の方法なのかもしれません。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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