アマプラ『ジェームズ・メイの日本探訪』英国のフィルターを通して見る日本 「スイマセン」連呼は皮肉か

皮肉が得意なイギリス人が日本を紹介する『ジェームズ・メイの日本探訪』

東京オリンピックのすったもんだ(開会式、閉会式のあれこれ)を見ていると、「日本、すごい!」と強気で言えなくなってしまった。日本にはすごいところもあれば、そうでもないところもある。

Amazon Prime Videoで配信中の『ジェームズ・メイの日本探訪』は英国の人気司会者、ジェームズ・メイが北海道、東北、東京、京都、大阪、四国、九州と日本を縦断しながら我が国の文化を肌で体感した旅番組である。


イギリス人は皮肉が得意な国民性。「日本、すごい!」的なベタ褒めだけでなく、毒を込めたジョークで日本を腐したりもする。率直で人間味のある声、意見。それでいい。こういうのが見たかった。

「スミマセン」を連呼するイギリス人の皮肉

ジェームズは信用に足る人物だ。まず最初に彼が降り立ったのは、北海道だった。


「この島の開拓が始まり、北海道と名付けられたのはほんの150年前ほど前です」(ジェームズ)

いきなり、斬新な切り口! 渋谷のスクランブル交差点辺りではなく、まだ雪の多い時期(3月)の北海道から出発したのも好感が持てる。

ジェームズは「ただ有名な観光名所だけを巡って、お決まりの感想で終わらせる気はない」と断言した。メジャーなスポットばかりじゃなく、コアな場所にもドンドン足を運ぶということ。一行が向かったのは、北海道の地ビールメーカーだった。日本を代表するサッポロに行かないところが憎い。

「何だか心配だ。
気が進まない。実は、イギリスやアメリカにある地ビールメーカーのほとんどは……まずい」(ジェームズ)

食リポに臨む姿勢としては、完全に不正解。信用できる男じゃないか。本音しか言ってない。

歯に衣着せないだけじゃなく、皮肉だって止まらない。小樽でタコを捕まえるべく大海原に出ようかというときには、乗船前に漁師と律儀に名刺交換したり。
言うまでもなく、日本のビジネスマン名物の所作だ。あと、あらゆる場面で必要以上に「スミマセン」と口にするのも何かのメッセージとしか思えない。

イギリス人を大雑把に見ている日本人

ひょっとして、名刺交換のくだりは問題提起だったのか? 

この旅は、日本人通訳が各地でジェームズをサポートするシステムだ。「英国紳士」というワードの耳馴染みだけで、ある女性通訳はジェームズをジェントルマンだと思い込んでいた。しかし、ただ優しいだけじゃないジェームズの素性を知り、彼女は落胆する。一方、ジェームズは自らを「ロールキャベツ系」と自嘲した。見かけはソフトだけど内面は攻撃的な男性ということ。
ロールキャベツ系は日本人に多いタイプである。

通訳 「そういう男性に会うと、女性はこう思うの。『うわー、なんて感じがいい人! すごく優しいわ。そして親切ね。それにちょっとシャイ』って。でも、そう思って女性が家を訪ねてみると、彼はここぞとばかりに本性を表すの。
“ガオッ!”ってね」
ジェームズ 「女性に“貪欲なロールキャベツ”なんて呼ばれたがる大人の男はいません」

このやり取り、実は二重構造になっている。“ロールキャベツ男子”はある意味、日本の闇だ。それをあぶり出すための会話だということ。かなり深い部分にフォーカスしていると思う。

そして、もう1つ。同番組はなぜか、事あるごとに中華風のBGMを流す。
日本も中国もアジアという括りで一緒くたにしている? イギリス人って大雑把なんだな! ……と憤りそうになったが、もしかして確信犯だったかもしれない。だって、我々のほうも言えないから。イギリス人というスペックのみで、無条件に紳士だと決めてかかっていた女性通訳。けっきょく、日本人もイギリス人を大雑把に見ているのだ。

男根の神輿はステレオタイプな日本人像を覆す?

東京にたどり着いたジェームズは、すぐに川崎へ足を伸ばした。彼が向かったのは金山神社。当日行われていたのは、奇祭・かなまら祭り(ペニス祭り)である。

境内には多数の男根形が奉納されているし、男根を型どった飴は女性から大人気! 上向きで巨大なピンク色の男根神輿の市街練り歩きは、この祭りのメインイベントである。

「oh cock!(男根様を見てビックリ仰天)」(ジェームズ)

ジェームズ曰く、イギリスにこんな祭りはないらしい。彼は金山神社の神主にインタビューを敢行した。

ジェームズ 「街中を巨大なペニスの神輿がパレードすることを恥ずかしいと思う人はいませんか? ここの隣には幼稚園もあるみたいですが」
神主 「どちらかと言うと、それも必要であることと考えています」

堂々と開催される「かなまら祭り」。抑圧された社会で健全な性教育を施すチャンスと考えられているようだ。だから、全く隠さない。それどころか、さらしまくる。



続いて、一行が向かったのは東京・秋葉原。漫画やゲームなどが豊富に揃うオタク文化の中心地だ。

「“オタク”というのは相当なマニアのことを指します。同じマニアであるオタクとイギリスのマニアとの違いは、イギリスではバカにされますが、日本では社会に必要な存在として受け入れられてることです」(ジェームズ)

ジェームズは鉄道オタクとして名高い2名の人物と会い、インタビューを敢行した。ホリプロのマネージャー・南田裕介と、ラップ調のフレーズ「あ、あ、あ、秋葉原です」が話題を呼んだ楽曲「MOTER MAN(秋葉原〜南浦和)」を制作したSUPER BELL"Zの野月貴弘である。

ジェームズ 「鉄道オタクってことは(周囲に)秘密にしたほうがいい?」
南田 「ああ~、高校や中学の頃は女の子たちが……何て言ったらいいのかな?(苦笑)」
ジェームズ 「何となくわかったぞ(笑)」
通訳 「彼が言いたいのは、クラスの女の子たちのハートを掴めなかった」
ジェームズ 「鉄道が好きだから?」
南田 「そう。え~っと、電車に夢中で写真ばっかり撮ってると女子ウケしない」
ジェームズ 「女性との出会いはあった?」
南田 「え~……、え~……、NO!(笑)」

でも、もう違う。嗜好を隠すべき時代は過ぎ去った。どんな趣味も受け入れられ、尊敬さえされる今のオタクたち。そして、かなまら祭りは男根を隠さないイベント。どちらも堂々としているのだ。イギリス人が抱く日本人像を、果たして覆しただろうか?

禁断のパチンコ店換金シーンを堂々紹介

大阪にたどり着いたジェームズは、この地を“東洋のマンチェスター”と評した。なるほど、わかる。言い得て妙だ。

にぎやかな大阪。そんな街中で貼り出されたメイド喫茶の看板を目にし、露骨にジェームズは顔をしかめた。猫耳を付けた女の子が可愛らしくポーズしている、我々にはなんてことない看板だけども。ジェームズは「ありえない!」と言わんばかりのリアクション。「店内に入ろう」と促されても、頑なに拒否をした。

ジェームズ 「10代の女の子だ。メイド喫茶はまずい。変態だ」
通訳 「別にわいせつな店じゃない。あの子たちは女優みたいなもんだ。黒猫を演じてるだけ」
ジェームズ 「でも、そうは言っても、男の妄想をかき立てるフレンチメイドの恰好だ。ストリップクラブみたいなもんだろ?」
通訳 「知ってるかな、コスプレって言葉? コスプレの店だ」
ジェームズ 「変態っぽいよ」

けっきょくは、「まあまあまあ」となだめすかし強引にジェームズを入店させる展開へ……。これこそ、リアルな日本感だと思う。ガイドブックを読むだけじゃ知り得ない、剥き出しの日本人像。なんという生々しさか。

実は、生々しさのハイライトはこの次にあった。ジェームズはパチンコ店のサウンドに興味を惹かれた模様。一行は店に立ち寄り、無邪気にパチンコで遊んだ。いや、ただ遊ぶだけじゃない。パチンコ換金システムの解説を唐突にぶっ込んでくるのだ。三店方式についてである。パチンコ店に陳列される景品の数々(ぬいぐるみ等)が紹介された後、話題はいきなりシリアスな方向へ――。

「でも、どうせ交換するならもっといい物があります。ただし、詳しくは警察の耳に入らないところで……」(ジェームズ)

店の外に出たジェームズは道の隅っこへ行き、小声で話し始めた。

ジェームズ 「パチンコでお金を得てしまうと賭博罪に問われます。競馬場のような正規の賭博場以外で金銭を賭けるのは違法なのです。だから、代わりに景品と交換します。お金はもらえないんです。でも、実は秘密の裏技があります。撮影も慎重にしないとまずいけど……。パチンコの玉でぬいぐるみの代わりに特殊景品をもらい、お金に換えるんですが、店内ではできません。あからさますぎるからね。代わりにどこで換えるの?」
通訳 「あっちの換金所。行ってみる? 行こ」
ジェームズ 「ああ、君が行って。僕はガイジンだから……ガイジンだからというより、腰抜けだからだ。用心するに越したことはないからね。一応、違法かもしれない」

しばらくして、通訳の女性は現金2000円を換金所から持ち帰ってきた。日本のメディアは決して取り上げないであろう特殊景品の交換シーンを堂々と紹介したのだ。まさしく、禁断の場面! ヒリつく数秒間。すごい旅番組である。

しかし、ちょっと引っかかったのも事実。メイド喫茶もパチンコ店も、どちらも全国的なもの。なのに、そのどちらをも大阪編にぶち込む構成の意図は? ダーティなイメージを大阪に背負わせすぎでは? 現実以上にマンチェスター濃度の濃い紹介の仕方だと思う。

そう考えると、以下の会話内容だってすごい。

ジェームズ 「ところでなんで、東京の人は大阪を下に見てるのかなあ。僕が思うにちょっと見下してるんだろう?」
通訳 「わからない(笑)。なんでだろうね?」

イギリス人に皮肉を求めがちなステレオタイプ

番組冒頭、ジェームズは日本を「我がイギリスから最もかけ離れた国」と評した。ビートルズやモンティ・パイソンを輩出した憧れの英国人たちは、日本をどんな風に見ているのか? 異文化のフィルターを通して見る日本が興味深い。

期待は裏切られなかった。ジェームズは皮肉交じりのユーモアを発揮し、イギリス人らしく日本を紹介してくれたのだから。ステレオタイプな日本賛美じゃなかったのが逆に嬉しい。外国人から見た日本モノでいちばん面白い番組だったと思う。まあ、「イギリス人らしい」と口にした時点で、こちらもステレオタイプの沼にハマってしまっているのだけれど。


Writer

寺西ジャジューカ


1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。『証言UWF』シリーズ『証言1・4』、『証言「橋本真也34歳小川直也に負けたら即引退!」の真実』『証言 長州力』(いずれも宝島社)等に執筆。

関連サイト
Facebook