朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第1週「1925-1939」

第5回〈11月5日(金)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第5回 皆が同じ気持ちになる幸福 本来の「朝ドラの15分」が今作にある
写真提供/NHK
※本文にネタバレを含みます

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なぜこんなに展開が早いのか

第1週からここまで恋愛ドラマだった朝ドラはこれまでなかっただろう。こんなに早い展開になった理由は……。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜5回掲載中)

『カムカムエヴリバディ』は朝ドラ初の3大ヒロインで100年間を半年で描くため、さくさく話を進行しないといけないからではないだろうか。
半年間でひとりの半生ないし人生を描いてきた今までとは違う。

そこで子役時代もわずか2話で切り上げ、14歳の安子(上白石萌音)の恋からはじめたのでは……。あわただしいといえばあわただしいが、安子の淡い恋が丁寧に描かれていて、見ごたえがある。

安子と雉真稔(松村北斗)の関係性は順調に進展しているかに見えた。自転車の特訓も順調。稔の使っていた英語の辞書までもらう安子。

特訓のあと、安子の店に来た稔はお礼におはぎをごちそうになって「絶品じゃ」と喜ぶ。たまたま店番していたきぬ(小野花梨)はふたりがいい雰囲気であることを察して、安子とふたりで行くことになっていた夏祭りに行けなくなったと言い出す。そこで稔は一緒に行こうと誘う。この時のきぬの策を巡らす顔が絶品である。

夏の終わりは恋の終わり?

夏祭り当日。活気ある祭り。日中は神輿を担いだ人たちが商店街を練り歩き、夜は出店の数々が、ぼんぼりに照らされる。
安子は稔から少し後ろをついて歩く。至福の時。

だが、幸せとは一瞬に壊れてしまうもの。「EPISODE 005 連続テレビ小説」は豆腐屋の四角い布巾の上に乗っていた。これまで丸いイメージで来たからちょっと不安……と思っていたら、やはり。幸せはお豆腐のように脆く、取り扱いに注意しないといけない。そしてお菓子屋のショーケースの角を隅々まできれいに磨く職人・丹原茂(中村凛太郎)のように気を使わないといけないものなのだ。

観ている人に等しくわかることばかり

祭りの夜、一瞬、稔が席を外した時、稔の弟の勇(村上虹郎)が現れて、稔と安子は似合わないと突きつける。次期雉真繊維の社長である稔と「あんころ屋」(勇にとっては精一杯の蔑称なのだろう)の娘では身分違いであると意地悪を言う勇の心だって複雑だった。安子と稔が仲の良いことが彼の心を暴れさせる。

うちひしがれた勢いで早計に自ら身を引く安子だったが、それでも朝は英語講座の時間に目が覚めてしまう。べそべそと泣いている様子のおかしい安子を心配する小しず(西田尚美)に、ひさ(鷲尾真知子)は「もう14じゃ。泣きたいこともあろうえ」とすべてわかっている度量の広さを見せる。
これは第4話の「もう14じゃ。急になにかに熱中することもあろうえ」と対になっている。

夏の終わり。恋の終わり。勇はすぐに反省し、兄が夏休みを終えて大阪に戻ると伝える。安子は稔に教わった自転車を不器用に走らせて追いかける。稔に追いついた安子の自転車が倒れ、稔が安子を抱きしめる形に。

「メイ アイ ライト ア レター トゥー ユー?」と英語で訊ねる安子。「オフコース」と応える稔。藤本有紀の脚本は楽譜のように美しい。

恋も嫉妬も友情も構成の妙も観ている人に等しくわかることばかりである。まちがいようのない感情と展開。
初等英語の教科書のようであるとか、誰もが同じことを感じることなんて面白くないと思う人もいるかもしれない。とりわけ今は多様性の時代だから。でもこういう時代だからこそ、たまに誰もが同じ気持ちになる幸福もあるのではないかと『カムカム』を観て感じている。

「甘うておいしいお菓子を怖え顔して食べる人はおらんでしょう。怒りおってもくたびれとっても悩みょうおっても自然と明るい顔になる。それが嬉しいんです」と言う安子の想いは『カムカムエヴリバディ』を象徴しているように感じる。

安子の姿を見ているとふわりと柔らかなタオルに触れたような気持ちになるし、稔を見ているとおろしたての白いシャツを着た時のような気持ちになる。勇を見ているとちょっと泥だらけになって遊んでいる時のような気持ちになる。このドラマを観ていると自然と顔の緊張が解けていく。



『あさイチ』の博多華丸大吉、鈴木アナの表情も今週はずっと優しい。とくに感想がたくさんなくても表情だけでも十分、朝ドラを観たあとの満たされた感じが伝わってきて、それを視聴者は共有できる。この優しさは、猛スピードで言葉にして消費していく今の時代には骨董品かもしれない。


朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第5回 皆が同じ気持ちになる幸福 本来の「朝ドラの15分」が今作にある
写真提供/NHK

観た人の数だけいろんな見方のできる表現はすばらしい。けれど言葉ではなく心で感じる明るさや優しさは誰もが共通であっていいと思う。物語から感じる幸福の感情を観た人がそれぞれ自分の幸福の物語を思い起こす。そんなコール&レスポンスも多様性のひとつのはずで、『カムカム』の多様性はそれである。

安子の恋を見て、自分の恋を想う。少女の頃の思い出を想う。あるいはまだ見ぬ恋を想う。私にはこの感情はないと思うのでもいい。『あさイチ』でゲストの加賀まりこが、自分は若い頃、こういう役をやれなかったと思い返していた。ちゃんとこの回の核を受け止めた上で、自分の物語で返す。まさにこういうこと。物語が観た人の記憶を駆動する。


とくに今、皆が同じほっとした気持ちになることは、誰もが疲れてささくれだっている時には必要だ。朝ドラの15分とは本来そういう時間ではないだろうか。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪



番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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