
ソロからロックバンドへと進化したASH DA HEROが、その始動ライヴとなる公演『ASH DA HERO THREE DAYS LIVE 2021”NEW STARTING OVER”』を11月18日から3日間連続で東京・TSUTAYA O-WESTにて開催した。ここでは、その最終日のレポートをお届けする。

「俺言ったよな? 明けない夜はないって」
ライヴの中盤、ASH(Vo)はフロアに向かってそう叫んだ。そして、椅子席から白線で立ち位置が指定された「スタンディング」仕様に変わったフロアを指し、「その白線は君がいろんな制約を守って勝ち取った場所。俺たちなりの戦いで、未来こじ開けていこうぜ」と続けた。
20年前、「未来は僕らの手の中」と歌ったのはブルーハーツだった。この日、背中に”the future is now HERE”と書かれたジャケットを着て、何度も未来をこじ開けろと叫んだASH。声は出せない、モッシュもできない。それでも“ここ”には確実に未来が、希望があった。


生で見るロックバンド“ASH DA HERO”は凄まじい瞬発力でオーディエンスに迫り、そんなロックバンドのダイナミズムに引っ張られるようにフロアは泣いて笑って飛び跳ね、熱狂。このままASH DA HEROとなら昔のようなライヴが取り戻せるかもしれない。そう、心底思えたライヴだった。未来は自分たちの手で変えていける。そんな希望をどこまでも抱かせてくれる、とんでもなく説得力のあるパフォーマンス。
ロックバンド“ASH DA HERO”、その幕開けは意気込みがたっぷり感じられるO-WEST3連チャンというインパクトあるライヴからスタート。ここはソロ時代、いちばんライヴをやった思い出深いライヴハウス。そこを3日間とも見事にソールドさせ、迎えた最終公演。ステージの幕が開き、最新SE「NEW STARTING OVER」にのせてNarukaze(Gt)、Dhalsim(Dj)、WANI(Dr)、Sato(Ba)に続いてASHが赤いフラッグを掲げ登場。拍手とタンバリンを鳴らして迎えるオーディエンスにのっけから新曲「Merry Go Round」を投げ込み、どうだ、5人になったASH DA HEROは最強だろ? といわんばかりの鬼気迫るアクトでフロアを煽る。





間髪入れずに「BREAK THE CHAIN」につなげ、フロント3人が一斉にお立ち台に上がってフロアにクラップを求めると、観客たちも負けじと愛の鳴る景色を即座に作ってみせる。お互い、コンディションは上々だ。だが、次の「DAIDARA」のアクトでバンドはさらに上へ。DJが鳴らすヒップホップトラックからWANIのパワフルなドラムでバンドサウンドへと切り替わる曲構成に、2番でASHが繰り出すロック界随一のマシンガンラップ、ラスサビでブレイクしていくときにバンドサウンドが生み出す緊張感。ここでは、いまのASH DA HEROならではのスリリングなパフォーマンスがどこまでも躍動。カッコよすぎだろと、心の声がこぼれるほどのアクトを見せつけたあとは「SOCIAL DIS DANCE」でフロア一面を楽しくバウンスさせていく。
ダンスチューン繋がりで続けて披露した「YELLOW FEVER DANCE」はDhalsimのスクラッチプレイが加わったことでカッコよさが倍増。観客のテンションはもちろん爆上がり。そんなオーディエンスを曲中ASHがその場にしゃがみこませ、「3,2,1」の合図でジャンプさせていった場面は、ライヴ前半最大のハイライトシーンとなった。


Narukazeのオールドスタイルのロックンロールギターとヒップホップが混ざり合ったハイブリッドな「Avengers」、タオルを回して踊っていると自然とみんながSatoのような笑顔になる「WARAWARA」という新曲2曲でバンドの未来を見せたあと、彼らとフロアが“Okey!! Okey!!”とサインを送りあう「XIMERA」でいま弾けよう、いま始めようぜと心を通わせた後、ライヴは「NEW ERA(skit)」からロックバラード「Rockstar」へと展開。天井からスポットライトに照らされ、ASHはソウルフルな歌声を使って、この曲を歌い上げていった。
曲が終わると、WANIとDhalsimがドラムとスクラッチでセッションを繰り広げていく。ASHとNarukazeはさっそくDJブースに近づき、Dhalsimのホーンを楽しそうに鳴らし、セッションを盛り上げる。続いて、マイクを手に持ったASHはフリースタイルのラップでそのセッションに参加。「俺のルーツ〜」という滑り出しからNarukaze,Satoという相棒たちとの出会いをラップで聞かせたあと、「全員手を上げろ」とフロアを煽り「上がってんの?下がってんの?」とKICK THE CAN CREWの「マルシェ」のあまりにも有名なパンチラインをぶち込んでから始まったのは「Nonfiction」だった。さっき出会いを語られたSatoとNarukazeはASHの後方で向かい合って、嬉しそうにプレイしている。それに気づいたASHは即興で歌詞を替え、「さあいこうか。もうコロナなんて聞き飽きた」「もう待つのはやめて未来こじ開けにいこうか」「ここから新しいステージが始まる」とストーリーを展開してみせた。


このあとのMCではソロで活動していた時代、デビューが決まるまでは対バンをやってもなかなかO-WESTのキャパをフロアをうめきれなかった時代のことを感慨深そうに振り返ったASH。「そんなところから、気づけば一人、また一人と俺の横には最高の仲間が増え、ソロでZeppTOKYOをやったあとロックバンドを始動。チケットは3日間ソールドアウトです」と和かな表情を浮かべたあと、「ただいま、O-WEST。そして、この先の未来に行ってきます、O-WEST」と続けた。
Narukazeが静かにギターでアルペジオを奏でだす。左の胸には未来に向かうという誓い、それでも右の胸にはいまでも疼く傷があって、そういう思いを抱えているのは「君だけじゃない」と語りかけるASH。「そしてその思いは、まだ生きたいと叫んでいるんだ」「ここにいる一人ひとりに捧げます」というドラマティックな流れから始まったのは「Gatekeeper」だった。眼圧強めの視線で観客と次々と目を合わせ、「君の人生や生命を必要としているヤツもいる」「君は一人じゃない」とASHがメッセージを伝えていくと、感情が堰を切ったように溢れ出し、涙を流したり鼻をすする人たちがフロアでは続出。その感情をNarukazeが爪弾くギターにASHがフェイクを絡ませていったムーディーなジャムセッションで、優しく癒していった対応は実にエレガント。




そこから、バンドは壮大なロックシンフォニーで巨大なグルーヴを生み出す「Everything」の熱演へ。フロアじゅうのすべての人々に溢れんばかりの希望を注ぎ込みながら、それをプレイする本人たちも泣きそうになりながらこの曲を届けていくステージは胸に残る傷を忘れるほどとてつもなく感動的で、眩いほど美しく尊かった。
「ロックバンド“ASH DA HERO”、幸先のいいスタートがきれたのはアナタのお陰です」。
Narukazeは「3日間、たった3本だけど濃いツアーを回ってきた気分」とライブの感想を述べ、「こんな気持ちになれたのはみなさんのお陰。この借りは何100倍にして返す。なので、世界一カッコいいギタリストがいる世界一カッコいいバンドになります。」と伝えた。
Satoは自身にとってこれが8年ぶりのバンドだと明かしたあと「ASHに拾ってもらって船に乗って、みんなで次のフェーズに行こうぜ」と話し、その後、恒例の“ASH DA””HERO”のコール&レスポンスを拍手スタイルで楽しんだ。


ここからライヴもいよいよ後半戦。SatoとNarukazeのポジションチェンジにさえワクワクした「反抗声明」、「お前ら全員、俺たちについてこい」とASHが叫び、パンキッシュなサウンドが観客を熱狂へと巻き込み、スパートをかけていく「HERO」。楽器隊がせめぎあい、ジャケットを脱いだASHとWANIの縦ラインが激しいヘドヴァンを繰り返す「HERO IS BACK2」で場内にさらなる熱気を撒き散らしたところで、そのとどめとして「PARADE」を送り込むASH DA HERO。生のシンガロングはできないのに、照明がフロアを照らすと、みんなの歌声がいまにも聴こえてきそうな気がした。この世界の闇を光に変えて、未来をこじ開けていこう。
「本当はここまでだったんです。ライヴは。でも最後に2曲、リアルな気持ちをのせた新曲をみんなにプレゼントします」。ASHがそう言い、“諦めることを諦めて、何度だって始めよう”と書いた「Just do it」、いつだってあの大好きだったライヴに戻れるんだというファンを思いを書いた「Remember」を爽快なバンドサウンドにのせて届けて、ASH DA HEROは3日に渡る始動ライブをフィニッシュさせた。


ここから仲間となるみんなを引き連れ、ロックの未来をどんどんこじ開けていくという彼ら。今後は、2022年2月、3月、4月と3カ月連続でさらなる未来をこじ開けてくのにふさわしい対バンイベントが用意されているということなので、その情報を楽しみに待っていてほしい。次はあなたもASH DA HEROと一緒に、ロックの、ライブの未来をこじ開けてみませんか?
(取材・文/東條祥恵)