日本では法律により、亡くなってから24時間以内に埋葬、火葬することは禁止されています。通常、葬儀後にご遺体は火葬場で荼毘に付されますので、葬儀日程は法制度に合わせ、丸1日経過した後に執り行われるのが一般的です。

しかし亡くなってからお葬式が執り行われるまでの平均日数のデータをみると、季節ごと、都道府県ごとに違っています。なぜこのような差異が生じるのでしょうか?今回はこの点について深く掘り下げて解説します。


亡くなってからお葬式までにかかる時間は?

鎌倉新書で運営しているお葬式紹介サイト「いい葬儀」にお問い合わせいただいた方のデータをもとに、お亡くなりになってからお葬式までにかかる平均日数をまとめたのが次のグラフです。これを参考にまずは季節における亡くなってから葬儀までの日数の違いについてご紹介しましょう。なお、以下の数値は「いい葬儀」にご連絡があった日は含まれていません。


冬は葬儀までの日数が長い

1カ月単位で亡くなってから葬儀までの平均日数をみると、2017~2019年はどの年も冬場における日数が長いです。


亡くなってから葬儀までの平均日数(2017年)

亡くなってからお葬式までにかかる日数は?【おそうしき研究室】...の画像はこちら >>
鎌倉新書「いい葬儀」2017年1月~2017年12月成約データより

2017年は2月が3.64日で最も日数が長く、2番目が1月の3.62日。


亡くなってから葬儀までの平均日数(2018年)

亡くなってからお葬式までにかかる日数は?【おそうしき研究室】
鎌倉新書「いい葬儀」2018年1月~2018年12月成約データより

2018年は1月が3.85日で最も長く、2番目が2月の3.62日です。


亡くなってから葬儀までの平均日数(2019年1月~2020年1月)

亡くなってからお葬式までにかかる日数は?【おそうしき研究室】
鎌倉新書「いい葬儀」2019年1月~2020年1月成約データより

そして2019年も1月が3.58日で最長となり2番目は11月の3.49日となっていました。さらに、2020年の1月は3.75日と前年の1月よりも増えています。

このように棒グラフで見た場合、どの年も1月、2月を頂点として山を作り、その前後の月も春や夏の月に比べて長めです。数値からは「冬は葬儀までの日数は長い」という傾向がはっきりと読み取れます。


夏は葬儀までの日数が短い

一方で、どの年においても6~8月の夏場は亡くなってから葬儀までの日数が短めです。2017年は6月が3.12日、7月が3.09日、8月が3.49日。2018年は6月が3.16日、7月が3.22日、8月が2.97日となり、8月だけ3日を下回っています。そして2019年は、6月が2.85日、7月が2.75日、8月が2.97日で、夏場はずっと平均3日以内で葬儀が執り行われていました。

2017~2019年のデータをみると、どの年も7月もしくは8月が年間最短日数です。先に挙げた冬場(12~2月)の平均日数に比べると、明らかに短いことがデータから分かります。なぜこれほど明確な差が生まれるのでしょうか。


2018年の月ごとの死亡者数と葬儀までの平均日数

亡くなってから葬儀までの日数が季節によって違う理由の1つとして、冬場よりも夏場の方がご遺体は傷みやすいため、夏場は早めに葬儀を執り行う傾向がある点を挙げられるでしょう。夏場だとドライアイスも多く必要となり、ご安置により費用がかかるとも考えられます。

しかし各種データから判断すると、最も大きな理由のひとつとして季節ごとの死亡者数の違いも関連がありそうです。


死亡者数と葬儀までの平均日数の月別の推移

亡くなってからお葬式までにかかる日数は?【おそうしき研究室】
厚生労働省「人口動態調査」と 鎌倉新書「いい葬儀」2018年1月~2018年12月成約データより /作図は鎌倉新書

厚生労働省の『人口動態調査』によると、日本における2018年の月ごとの死亡者数と、亡くなってから葬儀までの月単位の平均日数をグラフで表示すると、推移の仕方がほぼ一致します。両者の間には正の相関関係があり、亡くなってから葬儀までの日数は、死亡者数が多い12~2月になると長くなり、死亡者数の少ない6~8月になると目に見えて短くなるのです。

では、死亡者数の増減と亡くなってから葬儀までの日数の長短に、これほど明確な関係性があるのはなぜでしょうか。

その要因として考えられるのが、火葬場の稼働状況です。亡くなった方が多い月だと、その地域を管轄している火葬場に利用者が殺到し、混雑により希望した日よりも利用が大きく遅れるケースも起こりえます。

葬儀の日に火葬も執り行うのであれば、火葬場を使用できる日まで葬儀の日程を後にずらす必要があるのではないでしょうか。

一方、夏場は日本全体の死亡者数が少なめになるため、たとえ希望する日に先約が入っていても、早めに火葬の順番が回ってきます。その分、冬場に比べて早期に葬儀を執り行うことができるといえるでしょう。


葬儀までの日数が長い都道府県は?

そこで、「いい葬儀」にて収集したデータをもとに、亡くなってから葬儀までの平均日数の長さを都道府県別にみていきましょう。以下で紹介する数値は、2017年1月~2019年12月までのデータを平均化したものです。


葬儀まで日数のかかる都道府県ランキング

亡くなってからお葬式までにかかる日数は?【おそうしき研究室】
鎌倉新書「いい葬儀」2017年1月~2019年12月成約データより

最も日数がかかる都道府県を順にみていくと、最も長いのは「神奈川県」の4.60日であり、2位以下は「島根県」の4.50日、「千葉県」の4.42日、「東京都」の4.34日、「埼玉県」の4.07日と続きます。島根県以外はすべて首都圏に位置する人口の多い都県です。


死亡者に対する、都道府県ごとの火葬場の数を比べてみたら

次に、都道府県別の火葬場の数を死亡者数で割った数値を見ていきましょう。死亡者数に占める火葬場数が少ない都道府県ほど火葬場は混雑していると考えられ、それだけ亡くなってから葬儀までの平均日数が長くなると予想されます。


死亡者数に対する火葬場の数が少ない都道府県ランキング

亡くなってからお葬式までにかかる日数は?【おそうしき研究室】
厚生労働省「全国火葬場データベース」(令和元年6月1日現在) より/作表は鎌倉新書

実際に計算してみると、「火葬場の数÷死亡者数」の値が最も低かった都道府県は「東京都」で、割合は0.022%(火葬場数26÷死亡者数11万9,253人)でした。

以下、2位は「神奈川県」の0.024%(火葬場数20÷死亡者数8万2,336人)、3位は「埼玉県」の0.032%(火葬場数22÷6万7,726人)、4位が「京都府」の0.045%(火葬場数12÷死亡者数2万6,654人)、5位は「千葉県」の0.047%(火葬場数28÷死亡者数5万9,561人)です。

こうしてみると、亡くなってから葬儀までの平均日数が長い都道府県トップ5のうち、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の4都県が、火葬場数を死亡者数で割った値のトップ5にもランクインしていることが分かります。

都道府県別のデータをみた場合、火葬場の多さと、亡くなってから葬儀を執り行うまでの日数の長さには一定の関係性が見て取れるでしょう。


火葬場の役割

各都道府県に設置されている火葬場は、施設ごとに1日に火葬する数(回転数)に違いがあります。そのため、死亡者数に占める火葬場数の割合だけでは、伺い知れない部分もあるでしょう。

しかしデータ全体をみると、やはり死亡者数に対する火葬場の割合が少ないほど、亡くなってから葬儀を執り行うまでの期間が長くなってくる傾向が明確にみて取れます。

火葬場の割合が少ない都道府県だと1つの火葬場に火葬依頼が殺到し、その分希望の日時に火葬を行いにくく、後日に日程をずらす必要性が生じやすいです。そうなると、葬儀までの日数はどうしても長くなってきます。

日本では火葬率がほぼ100%です。通常はお通夜、葬儀の後、斎場から火葬場に霊きゅう車で故人をお運びし、火葬を行います。ただ、もし火葬場をすぐに利用できないのであれば、亡くなってから早々にお通夜、葬儀を執り行い、火葬場を使用できる日まで自宅や安置施設でご安置し、順番が来たときに火葬を行うという方法もあり得るでしょう。

ところが実際には、そうした「火葬を別日にして、葬儀だけ先に執り行う」という方式が取られることは少なく、多くの場合「同日」に執り行われます。その理由の1つとしては、葬儀と火葬を同日にするのが慣例だから、ということを挙げられるでしょう。

また、火葬場には葬儀式場も併設されていることが多く、それを利用する人が多いという点も挙げられます。

火葬場の多くは公共施設であるため、地域の方が利用する場合、併設されている葬儀式場の利用料金が民間事業者よりもかなり安めです。しかも、葬儀の後に敷地内の火葬施設でそのまま火葬もできるので、斎場から火葬場に移動するための手段(霊きゅう車や参列者が乗るマイクロバスなど)の手配も必要ありません*。火葬場に併設する式場で葬儀を行うことは、コスト面でメリットも大きいのです。火葬場併設の葬儀式場を利用するのであれば、そうすることの利点を生かすためにも、葬儀と火葬は同日に執り行われます。

*場合によっては短い距離であっても、葬儀式場から火葬場への移動に霊きゅう車を利用することもあります。


まとめ

「いい葬儀」で集めたデータを解析すると、亡くなってからお葬式を執り行うまでの期間は、冬が長く、夏は短いという特徴をみて取れます。その原因として考えられるのが、「夏場=亡くなる人が少ない、冬場=亡くなる人が多い」という日本における傾向です。亡くなる人が多い冬場は火葬場を利用する人が多く、使用したい日に先約が入り、後日にずれ込みやすくなってきます。

都道府県別にみた場合、「亡くなってから葬儀までの平均日数」のトップ5と、「火葬場数を総死亡者数で割った値」が低かったトップ5を見比べると、首都圏の4都県(東京、神奈川、埼玉、千葉)がどちらにもランクインしていました。死亡者数に対して火葬場数が少ない都道府県は、亡くなってから葬儀までの時間もかかる傾向が見て取れます。


火葬までの時間をどう過ごすかも大切

最後に、最近の葬儀の傾向のひとつに、お別れまでの時間をいかに過ごすかによって、遺族の気持ちにも違いがあるのではないか?ということが言われています。火葬にする前、まだ故人が生前の姿でいる間に、故人のことをゆっくりと偲んだり、親しかった方たちの間で思い出話を語りあったり。いわゆる、昔のお通夜のような時間を過ごすことの良さを感じている方も多くいらっしゃいます。

ご逝去から葬儀、火葬までの時間が長すぎると遺族の負担も増えるかもしれませんが、待つ時間をただ短くすれば良いというのではなく、いかに過ごすかということも大切なのではないでしょうか。

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