
シンガーソングライターの宇多田ヒカルが今月28日に6thアルバム「Fantome」をリリースする予定だ。オリジナルアルバムとしては前作「HEART STATION」から8年半ぶりの作品となる。
2010年に「人間活動」に専念するため、アーティストとしての活動を無期限に休止すると発表してからおよそ6年、その間に結婚、出産を経て母親になった宇多田が音楽シーンに満を持してカムバックしようとするこのタイミングで彼女の代表曲を、各時代にそって今一度振り返りたい。
<ミリオンセールスを記録したデビュー曲“Automatic”(1998)>
1998年12月、シングル「Automatic/time will tell」でデビューした宇多田。1作目からシングルはミリオンセールスを記録し、翌99年に発売した1stアルバム「First Love」はオリコン集計によると累積売上765万枚を記録し、日本国内のアルバムセールス歴代1位の記録を誇っている。
当時若干15歳とは思えぬ歌声や楽曲の完成度、大人びた作詞センスも話題となり、宇多田は瞬く間に世間の人々の心を捉えていった。
この当時の心境を宇多田は自身への質問をTwitterで募集した企画「#ヒカルパイセンに聞け」への回答として「一生懸命作った作品が受け入れられてることを嬉しく思いつつも、急に注目されてそれまで当たり前だった自由がなくなって、戸惑いと『ああもう後戻りできない』感が大きかったぜ」と公式サイトで語っている。
<ドラマ主題歌でも話題になった“Can You Keep A Secret?”(2001)>
SMAP・木村拓哉主演のフジテレビ系「HERO」の主題歌としても話題になった7thシングル「Can You Keep A Secret?」は、2ndアルバム「Distance」からの先行シングルとして発売された。月9ドラマの主題歌でミリオンセールスを記録した楽曲はこの曲を最後にいまだ出ていない。ちなみに宇多田は「HERO」の第8位でカメオ出演も果たしている(ウェイトレス役)。
また、同アルバムも2001年オリコン・アルバムチャートで年間1位を記録し、宇多田の人気は揺るぎないものとなった。
<カラフルな世界観のPVが印象的な“traveling”(2001)>
紀里谷和明が制作を担当したPVは、独特のアニメーションやCGが話題となった。第16回日本ゴールドディスク大賞「ソング・オブ・ザ・イヤー」「ミュージック・ビデオ・オブ・ザ・イヤー」をダブル受賞するなど、楽曲だけでなくそのカラフルでポップな世界観を表現したPVは映像作品としても評価されている。
文学作品から歌詞のインスピレーションを受けることがあるとインタビューなどで公表している宇多田だが、この曲でもアップテンポで未来的なサウンドの中に「平家物語」の言葉を歌詞として引用している。
<明るいメッセージが込められた“Keep Tryin’”(2006)>
それまで編曲は外部の人間が行うこともあった宇多田の楽曲だが、3rdアルバム「DEEP RIVER」以降、編曲を含めほぼすべての楽曲を単独で制作するようになった。
ほとんどの楽曲をセルフプロデュースした5thアルバム「ULTRA BLUE」で、実質的な先行シングルとして発表された「Keep Tryin’」は、宇多田の得意とする打ち込みのサウンドにポジティブな歌詞がマッチしている。同楽曲は2006年のiTunes Store累計年間ダウンロードランキングで1位を獲得した。
<活動休止前に発表された“Goodbye Happiness”(2010)>
2010年、宇多田は自身のサイトを通じてアーティスト活動を無期限に休止し、「人間活動」に専念すると発表した。「一回り大きくなって帰ってくるので待ってて欲しい」とファンにメッセージを送った宇多田は、活動休止を前にベストアルバム「Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.2」を発売し、配信限定のリードシングル「Goodbye Happiness」では初めてPVの監督も務めた。
1カメラ1発撮りで作られたと言う同楽曲のPV中では自身の代表曲でもある「Automatic」や「traveling」のPVのセルフパロディを行うなど、デビュー当時からの総集編とも言えるような世界がコミカルに描かれている。
単発的にアニメ映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」に楽曲「桜流し」を提供するなどの動きはあったが、この曲を収録したアルバムを最後に宇多田はアーティストとしての活動を完全に休止し、近況をTwitterや自身のサイトを通じてのみ報告するようになった。
<「人間活動」を経て発表した最新シングル“花束を君に”(2016)>
2016年に入り、NHK朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の主題歌を担当することを明かし、同ドラマ放送初回日の4月4日をもって音楽活動を再開すると所属レコード会社を通じて発表した。
それまでの打ち込みでのサウンド作りから一転し、生楽器をメインに使ったサウンドが目立つ同楽曲。その理由を宇多田は自身のサイトで「機械音を綿密にプログラミングして足し算、引き算、掛け算していく作業はすごく面白いんだ。でもテンポも音程もブレない、計算外のことが起きない世界に物足りさを感じる(中略)生楽器を使うと自然な振り幅や余裕が生まれるし、なにより『空気の音』が加わるのが最高」と語っている。
プライベートでは結婚、出産を経験し、母となって音楽シーンに戻ってきた宇多田だが、人間活動を経て、どのような歌声を聴かせてくれるのだろうか。
そんな宇多田はアルバムリリースを前にした19日にテレビ朝日系「30周年記念特別番組 MUSIC STATION ウルトラFES 2016」の第2弾出演アーティストにその名前がクレジットされている。宇多田にとってはこの番組が活動再開後初のテレビ出演となる。