「再生医療」は今、メディカルのテクノロジーで最もホットな分野。安倍内閣の経済政策アベノミクスの「三本の矢」の一つ、成長戦略のコアと位置づけられる医療分野の、そのまたコアな部分を担っている。
再生医療の国内市場は2020年には950億円
今年2月に経済産業省の「再生医療の実用化・産業化に関する研究会」が最終とりまとめを行った「再生医療の実用化・産業化に関する報告書」によると、再生医療市場は日本国内に限っても、2020年に950億円、2030年に1兆円、2050年に2兆5000億円と、急速な拡大をみせると予測している。全世界規模では、2020年に1兆円、2030年に12兆円、2050年に38兆円という予測で、もし日本発のテクノロジーが世界で受け入れられれば相当な成長が見込まれる。成長戦略のコア中のコアと目されるゆえんがそこにある。
従来、再生医療に用いられる細胞の培養は医療機関に限定され、民間企業は原則として医療機関に細胞の加工を委託せざるを得なかったが、4月26日に成立した再生医療推進法ではこれが民間企業にも開放され、製薬メーカーやバイオベンチャーなどが自由に細胞の培養や研究に取り組めるようになった。今国会に提出する薬事法改正案では、再生医療の治療を行う際に医薬品としての利用を早期承認する手続の明確化が盛り込まれており、実用化に向けてさらに政策の後押しが加わることになる。
大衆薬メーカーでは初めて再生医療に進出
スキンケア分野に強みを持つロート製薬は以前から皮膚幹細胞を活性化して皮膚の健康を増進する研究を行ってきた。2011年には「先端技術研究室」を設立し、皮膚疾患の遺伝子研究を推進して、生体が本来持っている再生力を活かす方法を模索。研究テーマには話題のiPS細胞も入っている。
同社が着目したのは、病気などで損なわれた組織を修復する「体性幹細胞」。骨髄幹細胞のような体性幹細胞を抽出して行う細胞療法は、拒絶反応が起きにくく安全性が高いとされている。再生医療の数ある研究分野の中でもより実現性が高く、より実用化に近い。ノーベル賞を受賞して注目度が高いiPS細胞やES細胞による臓器再生技術はまだまだ解決すべき課題が多く、臨床応用まで時間がかかりそうなのが現状だが、体性幹細胞の医薬品化はそれよりも早く実現する可能性があり、また将来、予防医療にも役立てられる研究成果を生み出せるのではないかという期待もある。
この体性幹細胞の実用化を促進するためにロート製薬は5月17日付けで「再生医療研究企画部」(山田哲正部長)を新設する。すでに体性幹細胞の中でも「脂肪幹細胞」に注目しており、ウイルスなどの混入を防ぐなど安全性の高い細胞培養の技術を持つバイオベンチャー、シームス(本社・東京都)と共同研究を行って、主力研究所の「リサーチビレッジ京都」(京都府木津川市)内に細胞加工施設(CPC)を設置して培養技術の確立を急ぐ。脂肪幹細胞を用いた再生医療で国際的な開発競争をリードするための体制づくりは着々と進んでおり、早期の医薬品化が期待される。