【前編はこちら】スターダム・中野たむが後輩上谷沙弥へ愛の喝!「プロレスは技の綺麗さだけじゃなく“感情”と“命”」
【写真】“宇宙一カワイイアイドルレスラー”中野たむ、“元バイトAKB”上谷沙弥
7月4日、横浜武道館。初夏を彩るビッグマッチのセミファイナルで組まれた中野たむvs上谷沙弥のワンダー・オブ・スターダム選手権。元アイドル同士、しかも師弟関係にある2人のタイトルマッチ。そこはもう清く正しく美しい闘いが大正義なのかもしれないが、中野たむは上谷が痛めているアバラのあたりを徹底的に攻め続けた。上谷の動きが完全に止まってしまうほど、激しく、ねちっこく。それはすべて上谷の感情を引き出すための戦略であった。
そして、ついに上谷が覚醒する。ニヤリと笑みを浮かべると非情なまでの顔面攻撃で逆襲。かつての恩師の顔面を張りまくる、という光景は「元アイドル」というフィルターを通してしまうと異様な光景でもあり、たしかに感情はダダ漏れだが、おそらく上谷はこれまでの人生で人の顔面をビンタしたことないんだろうな、と思わせる不格好なフォーム(そもそも張り手は道場で練習するような性格のものではない)。
これで上谷がベルトを奪取すれば、最高のシンデレラストーリーが完成するところだったが、中野たむは感情を超えたところにある技で上谷沙弥をねじ伏せた。
「私の顔面、変形してませんか?」
試合を終えて、バックステージに戻ってきた中野たむはそう言って笑った。数えきれないほど張られたから、当然、痛みは残っている。ただ、そういう攻めを見せてくれた上谷の成長がとにかくうれしかった。
「ただ、私もここで負けるわけにはいかないんですよ。このベルトを巻いて、まだまだやりたいことがたくさんあるので。上谷に私を超えさせるわけにはいかなかった。別に私が上谷の新境地を引き出したわけじゃないと思います。ああやって感情的になって向かってきて、私を圧倒してみせたのも、もともと彼女が持っていたものだし、まだまだ奥底にはいろんなものが隠れていると思う。そういうものが開眼したら、きっと私を追い越すときがやってくる。まだまだ私たちの『執念のドラマ』は終わりませんよ」
試合後、リング上で中野たむは「また一緒に夢、見ない?」と上谷に握手を求めた。
これで上谷が握手に応じれば、アイドル時代から紡いできた物語が大団円を迎えるハッピーエンドになる。逆に上谷がパシーンと中野たむの手を弾き返せば、文字通り『執念のドラマ』に大きな「つづく」が刻まれる。
しかし、上谷はどちらのアクションも起こさなかった。首を横に振って、握手はできないと拒絶しただけだった。
「私はいま進んでいる道は間違っていない、と確信している。あそこで握手をしてしまったら、それを否定することになるじゃないですか? 私が決めた道が正しいと証明するには、たむさんから白いベルトを奪って、もっともっと先に進むしかないんですよ。もう師匠と弟子みたいな関係性じゃなくて、次は1人のプロレスラーとして闘って勝ちたい!」
あのままアイドルを続けていたら、上谷沙弥は「絶対的センター」の中野たむを一生、追い抜くことができなかった。それが闘いの場をリングに移したことで、あと一歩で追い抜けそうなところまで到達することができた。壮大な大河ドラマ。中野たむは「プロレスには人生を変える不思議な力がある」と語り、上谷沙弥も「あの試合では技も感情も私の『内から出るすべて』を見せられた。
普通であれば再戦にはそれなりの時間がかかるものだが、意外な展開が待っていた。
7月31日と8月1日の横浜武道館2連戦で幕を開ける、真夏のシングル最強女王決定戦『5★STAR GP』(ファイブスター・グランプリ)。ふたつのブロックに分かれてリーグ戦を繰り広げるのだが、中野たむと上谷沙弥は同じブルースターズにエントリーされた。2人の公式戦が組まれたのは8月8日(日)エディオンアリーナ大阪第2競技場。東京でオリンピックの閉会式が行なわれるその日、大阪で新しい運命が幕を開けるかもしれない闘いのゴングが打ち鳴らされる。