そんな彼女は10年間というアイドル人生をどう過ごしてきたのか? その道のりを辿る。
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2011年8月に1期生として乃木坂46に加入した高山一実。10月に開催されたグループ初めてのイベント「お見立て会」では、その「いいヤツ」感で早くもキャラを確立させる。『乃木坂って、どこ?』(テレ東系・『乃木坂工事中』前身番組)で発表された「お見立て会」のランキングで、白石麻衣と同率1位になった。生来の明るさから番組内で笑いのポイントゲッターとなり、外番組に出演する機会も増えるようになる。
順風満帆に見えたアイドル活動だが、高山は次第に理想とのギャップに悩むようになる。
高校生の頃、テレビで観たライブ映像に衝撃を受けてからハロー!プロジェクトに憧れていた高山は、「自分みたいなアイドルを応援したいのかな」「お笑い担当みたいな子よりかわいくてスター性のある子のほうがいいんじゃないか」と思ったこともあったという。さらに、7thシングル『バレッタ』(2013年11月リリース)あたりからは、選抜のポジションも3列目が定位置となり、葛藤を抱えるようになっていた。
そんな彼女にとって、ひとつのターニングポイントとなったのが、2015年2月18日に放送された『AKB48のオールナイトニッポン~乃木坂46・西野七瀬SP~』(ニッポン放送)だった。西野が1人しゃべりに不安を隠せないまま進行していると、高山がサプライズゲストとして登場。安堵した西野は、高山との和やかなトークで放送をやり遂げた。
この放送がきっかけでドラマ『初森べマーズ』で西野演じる主人公・ななまるの親友・コテ役に選ばれた高山は、2015年7月に発売された12枚目シングル『太陽ノック』で2列目の福神メンバーに返り咲いた。
この頃には、他のメンバーもバラエティ番組に出演する機会が増えたことで、高山は心が軽くなり、「自分らしさ」を出せるようになったという。2016年11月に発売された16枚目シングル『サヨナラの意味』で初フロントに選ばれたときは、『乃木坂工事中』で素直に喜びを表した。
3期生が加入すると、「アイドル」をより客観視できるようなった高山。2018年11月には、アイドルを目指す女の子を主人公にした『トラペジウム』を出版した。『トラペジウム』は25万部を突破し、文庫化もされた。
「『有田哲平の夢なら醒めないで』(TBS)に『女性作家』として出演したとき、アイドルとしてではなく作家として発言したことで何かが解放された気がしたんです。アイドルの固定観念を崩すことができたかなって」(『日経エンタテインメント』2019年2月号)
そして、4期生の加入や同期の卒業など、グループが変化していくと、自身が愛してやまない宝塚を例に出して、こう語るようになった。
「どんなに愛されているスターでも、いつかは辞める時が来るんですよ。だけど、宝塚自体の人気が衰えることはなく、100年以上続いてるなんてすごいじゃないですか。宝塚ファンの方は変化も楽しんでいるんだろうなと思います」「自分たちのグループだから変化に寂しさを感じてしまうこともあるけど、観る側に立てば変化は楽しいことだと思うんです」(『EX大衆』2019年5月号)
2021年になっても高山の「いいヤツ」感は健在だった。1月20日放送の『乃木坂46のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)では、「皮膚科の女性と連絡先を交換した」「イヤホンを買いに行った先の店員と友達になりたかった」といった話を披露する。
もちろん誰彼かまわず連絡先を交換するわけではないが、コロナ禍の状況をマイナスにだけ捉えることはなく、希少になった人との交流から「温かさ」に改めて気づく時間に変えていた。
最近は「さすがにポジションに対するこだわりはなくなった」という高山だが、「3列目でも歌番組でカメラに抜かれる人になりたくて。たとえば数年前のHKT48は少し後ろにいる指原さんがカメラに抜かれていたじゃないですか。それってすごいことだと思うんです。私も『この人を映したら視聴者が乃木坂46と認識してもらえる』という存在になりたい」と語っていた。(『EX大衆』2021年3月号)
同誌で「10年やったのに、特技を聞かれても『剣道』とはハッキリ言えなくて。じゃあ、『アイドルを極めましたか?』と聞かれたとき、10年以上やっていないと『はい』と言えないと思ったんです」と話してくれた高山は、乃木坂46で10年間アイドルを全うして、今年9月末にグループを卒業する。
卒業コンサートを「千葉の市民会館の一角でやりたい」(『EX大衆』2019年5月号)と冗談めかして話していた高山。「卒業コンサート」と銘打たれてはいないが、最後のステージは東京ドームになった(9月8日9日)。すべてのシングルで選抜メンバーに入った功労者にふさわしい舞台だ。
卒業を公表した配信番組(『乃木坂配信中』)の場で、大園桃子(9月4日卒業予定)は「こういう場面を見ると、乃木坂46って温かいグループなんだなって」「みんなが優しくて素敵なグループなんだなって実感します」と語った。高山の「温かさ」は後輩を通して、現在募集中の新メンバーにも伝播することだろう。
7月31日、高山はインスタライブで今後について語った。
そして、ファンから「人付き合いで大事なこと」を聞かれると、父と「人って温かいよね」と話したばかりという高山は、「見返りを求めず、好きな人の幸せを喜んで、悲しい時は寄り添って。それが人間の良さなのかなと思います」と答えた。
そのインスタライブで高山が何度も口にしたのが、「アイドル以上の職業はない」という言葉。それが、高山が10年間、乃木坂46でアイドルとしてすごした結論だった。その10年間を見てきた者たちは、これからの高山一実が幸せになることを祈り続けるだろう。
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