元バイトAKBという肩書を持ち、現在スターダムで活躍中の、第16代 現ワンダー・オブ・スターダムチャンピオン上谷沙弥。2月23日に新潟・アオーレ長岡で開催された「Cinderella Journey 2022 in NAGAOKA」では、見事に防衛に成功した。
そんな上谷、じつはこのアオーレ長岡という会場に深い縁があった。かつて、この場所でNGT48のオーディションに挑戦していたのだ。思い出の地にチャンピオンとして戻り、メインイベントを務めた彼女が語る、アイドル志望時代の苦悩と、レスラーとしての “覚醒”。(前後編の前編)

【写真】アオーレ長岡の花道をチャンピオンベルトを巻いて堂々と歩く上谷沙弥

昨年11月、スターダムの女子プロレスラー・上谷沙弥はHKT48・松岡はなと対談をおこなった。

まったく接点などなさそうな二人だが、じつはかつて『バイトAKB』というプロジェクトに参加していた“同期”。その後、HKT48に加入した松岡はなはセンターの座を掴み、上谷はアイドルのオーディションを受けては落ちまくる、という地獄のような日々を送るようになる。

紆余曲折の末、プロレスラーになった上谷はメインイベンターとなり、やっと松岡はなと対談できるだけのポジションに立った。じつに6年9カ月ぶりの再会を喜ぶ二人。対談は非常に和やかなムードで進んだが、突然、上谷の表情が変わった。

それは松岡はながHKT48のセンターになったときの話をしていたとき。心から応援していた、と前置きをしながら「でも、悔しくってテレビの歌番組は見れなかった」といきなり本音をぶちまけた。一瞬、場の空気は凍てついたが、上谷はどうしても本音を吐露したかった、と後述した。


「いままではそういう悔しい気持ちとかを心に仕舞いこんで我慢してきたけど、それでは私は変われない。悔しかった過去をしっかりと受け止めて、それを乗り切ることで自分を変えたいし、未来も変えられると思ったんです」

対談の途中で、いきなりの覚醒。

そして、そこから本当に上谷は大きく変貌する。自分からぐいぐいチャンスを掴みにいくようになり、対談から2か月も経たないうちに中野たむを撃破して白いベルトを奪取。それまでのどこか自信なさげで、ちょっとしたことで「どうしよう……」と頭を抱えてしまう、弱い上谷沙弥はもういなくなっていた。

ちょっとしたきっかけで内面が変わる人間は、これまでも何人か間近で見てきたが、ここまで短期間でガラッと変わったケースはちょっと記憶にない。面白いもので、そうやって自信がついてくると、立ち居振る舞いも変わってくる。なによりリングに立っているだけで貫録みたいなものが際立つようになってきた。

だが、それは単なる気のせいではなかった。実際に彼女の体はひとまわり、いや、それ以上に大きくなっていたのだ。

「チャンピオンになった以上、弱そうというか、細く見えてしまうのはよくないな、と思って練習メニューを変えたんです。走り込みもしっかりするようにして、全体的に体が大きくなってきたと思います」

ちなみに試合前のコールでは「55㎏」とアナウンスされているが、現在、59㎏はあるという。
もともと手足が長いので、ちょっとひょろっとした感じに映ってしまうシルエットではあったのだが、そういう見え方はかなり改善された。チャンピオンになってから、まだ2か月も経っていないのに、まさに激変である。

そんな上谷に、思わぬドラマが待ち構えていた。

「スタッフさんから『次の新潟大会のポスターは上谷選手が大きく載っているんですよ』と見せていただいたんですけど、そのポスターに書かれた会場名を見て『あれっ、私、なにかでここに来ている』って。スターダムでははじめて試合をする会場なので、プロレス以外なんですよ。それで検索してみたら、すぐにわかったんです。この会場、私がNGT48のオーディションを受けにきたところだ!って」

バイトAKBの活動を終えたあと、上谷はちょうどそのタイミングで立ちあがった新潟を本拠地とするNGT48への加入を目指してオーディションに応募。5850人もの応募者の中から、上谷は74人しか残れない最終審査まで勝ち残り、ファイナルジャッジが下される最終審査が行われたのは2015年7月25日、アオーレ長岡でのことだった。

「もう、本当にすべてを賭けていたんです。ちょうど大学進学のタイミングだったんですけど、進学の道を諦めて、NGT48のオーディション1本に絞りました。だから、本当の意味で人生を賭けていたんですよね。オーディションにむけて、めちゃくちゃダイエットもがんばって。
自信ですか? なんか、根拠のない自信だけはありましたね、アハハハ」

とはいえ、少なからず手応えを感じずにはいられないシチュエーションだった。

オーディションに先立って行われた48グループのドラフト会議では、バイトAKBの仲間が2人も指名されていた(上谷はドラフトにエントリーしていなかったので指名されず)。さらにバイトAKBからもNGT48のオーディションを受けるメンバーが複数人おり、実際、そこから2名が合格している。上谷沙弥がその流れに乗っていたとしても、けっして不思議ではなかったのだ。(後編へ続く)

【後編はこちら】スターダム・上谷沙弥が涙で向き合った人生最大の黒歴史、変えるのは過去ではなく未来
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