【写真】熱闘を繰り広げるSKE48荒井優希と伊藤麻希【4点】
【前編はこちら】プロレス大賞新人賞・SKE48荒井優希、レスラーとしての才覚と“アイドル人生”逆転劇
伊藤麻希と荒井優希によるインターナショナル・プリンセス選手権試合は16分を超える熱闘となった。好勝負だったか、といわれると、ちょっと即答しにくい部分がある。けっして華麗な技が飛び交いまくるような試合展開ではなかったからだ。
実際に荒井優希が繰り出したのは各種キック攻撃とサソリ固めぐらいのもの。逆にいえば、それぐらいしか出していないのに、16分以上も闘ったというのはすごいことでもある。
印象的だったのは、本来であれば狙いを定めてバシッと決めるべき荒井優希の必殺技・Finally(かかと落とし。SKE48のヒット曲『片想いFinally』に由来した技名)が、試合の流れの中でイレギュラーに飛び出したシーン。特にコーナーポスト最上段にいる伊藤に放った一発はクリーンヒットとはならなかったものの、観客の感情をも昂らせる気持ちの乗ったもの。その先につながる技がないことが、敗因にもつながってしまったのだが、同時に次なる挑戦への期待にもつながった。
現役アイドルがプロレス“も”やっている、という観点からなら百点満点だが、純然たるプロレスラーとして見たら、まだまだこれから。
その「謎かけ」を自力でクリアした伊藤麻希はプロレスラーとして一皮むけた。次は荒井優希がこの壁を超えていく番。超えられないと思ったら、伊藤はわざわざこんなコメントを残さない。自身が超えてきた壁だからこそ、その辛さも、乗り越えたときの痛快さもわかるし、それを荒井優希がやってのけたら、とんでもなく面白い展開になりそうである。
敗退してインタビュールームにやってきた荒井優希は、静かに、そして冷静に敗因を分析しはじめた。せっかく、こんなにたくさんのメディアに囲まれているんだから、もっと感情を爆発させたり、それこそ大泣きすればいいのに……と思いながら、彼女の言葉を聞いていたが、このあたりも伊藤が言う「料理人としてはまだまだ!」のひとつに入ってくるのだろう。
かつて48グループではマイクパフォーマンスが必要とされた時代があった。選抜総選挙でのスピーチがそれである。前田敦子の「私のことは嫌いでも、AKB48のことは嫌いにならないでください!」、高橋みなみの「努力は必ず報われる」。アイドルファンでなくても知っている名言が続々と生み出された。
荒井優希もかつて選抜総選挙に出馬し、ランクインしてステージに立った経験があるだけに、言葉の大事さは身に染みてわかっているだろう。そういう「48グループの遺伝子」がリングで爆発したら、プロレスラーとしてもっともっと面白い存在になるはずだ。
そんな彼女のコメントの中に「これでもっともっと(プロレスを)続けていく理由ができました」という文言があった。プロレスラーとして、まだまだ闘っていきたい、という意志表明。アイドルとの両立という苦しみを知り、3月9日にリリースされたSKE48の新曲『心にFlower』では選抜落ちの憂き目に遭う、という屈辱まで味わってしまったばかりだが、それでもプロレスを続けていくと誓ったのだ。ベルトを巻いてハッピーエンド、とならなくて、逆によかったのかもしれない。
正直な話、荒井優希がプロレスラーとして完成するのは、コロナ禍が去り、観客が声を出して応援することが解禁されてから、だと思っている。ファンの声援に後押しされてアイドル人生の荒波を乗り越えてきた荒井だが、コロナ禍の真っ只中でプロレスデビューしたので、まだリング上で声援を浴びたことは一度もないのだ。
ちなみにこの日は東京女子プロレス初の両国国技館大会ということで、OGもたくさん来場し、こんなに大きな会場まで到達したことに涙するシーンが随所で観られたが、荒井優希がSKE48の一員として、はじめてパフォーマンスを披露したのはナゴヤドームのステージ。大きな会場にも、大観衆にも慣れっこなのである。
もし、試合で劣勢に追い込まれたとき、大観衆から『アライ』コールが湧き起こったら……そんな日がやってくる日まで、プロレスラー・荒井優希の物語を追い続ける価値はある。