パソコンやスマホの普及によって、手書きの文字を書くことが少なくなった現代。そんな中、『20日で驚くほど上達-美文字練習帳』(ブティック社)などの美文字に関する数多くの著書を持つ書道家の涼風花(りょう ふうか)。
今回はそんな彼女に、東京・高円寺のコワーキングスペース・小杉湯となりの和室を借りて実際に一筆書いてもらいながら、文字が上手くなるコツを聞いた。(前後編の後編)

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【写真】美しき書道家・涼風花、凛とした撮りおろしカット【10点】

──書道家として、ドラマ等での書道指導のほかにはどのような仕事があるのでしょうか?

涼 今は書道展の審査員をしたり、企業イベントなどで書道パフォーマンスをしたりもしています。

──書道パフォーマンスというと、大きな筆を持って書くようなことも?

涼 あります。ただ、あれは墨汁を含んだ筆がすごく重いんです。10キロぐらいある筈です。墨が滴って衣装も凄いことになりますし、1つのイベントみたいなものに近いですよね(笑)。
あとは羽田空港のロビーにステージを組んでいただき、これから帰国される人に好きな文字を選んでもらい、その文字を書いてプレゼント、みたいなパフォーマンス企画とか。印象的だったのは、アパレルメーカーのモンクレールや化粧品会社のロレアルのパーティーに呼んでいただいたりとか、フランクミュラーさんに書道の指導したこともあります。

──パーティーでもパフォーマンスを?

涼 そうです。ロレアルの社長さんは、ご自宅に私の文字飾ってくださっているんですよ。壁一面くらいある大きな文字だったんですけれど。

──本当に気に入ったんでしょうね。
大きい文字を書くときに気を付けていることはありますか?

涼 たとえ作品が大きくても、床に置いて書く場合は筆と紙の距離が取れるのでそんなに難しくないのですが、壁に留めた紙に書く場合だと全体像が見えにくくて難しいんです。なので一画書くごとに壁から離れて、また戻る……みたいなことをしなくてはいけないので、かなり書きにくいです。でも慣れてしまえば、このあたりに書けば全体としてバランスが取れるなって分かるようになってきます。

──そういうものなんですね。涼さん自身、字が上手かったことで得したことはありますか?

涼 そうですね、テストで名前を綺麗に書いたらそこに丸がついいて1点プラスされていたり(笑)。学生のときとかは「字が上手いんだから」とポスター係にされたり、書記に任命されたりしていました。
ただ、書記になったときは役員にはならないで済んだので、私にとっては得でしたね(笑)。

──書道家になった当初は「題字を書きたい」という夢を抱いていたと話されていましたが、それも叶いました。今後はどのようなことをやりたいと思っていますか?

涼 もっと地元に貢献していきたいなと思っています。たとえばお店の名前を書いたり、地域の商品に携わらせてもらえればうれしいですね。あと今は、ペン字にも力を入れていて、「どうやったら字が上手くなれるか」という即効性のある方法を研究中です。

──美文字にはペンの選び方も大事になってくるのでしょうか?

涼 ゲルインクのペンだと、黒が濃いので綺麗に見えます。
最近はペンの種類も沢山出ているので、自分の手に合った太さだったり、書き味もカリカリやヌルヌルといろいろあるので、その中から書きやすいものを選んでいただけたらと思います。今は100円ショップでも良いものがあるので、そこで選んでもいいと思います。

──今日はせっかくなので、涼さんに夏らしく「風鈴」という字を書いていただきましたが、
スタッフが想像していた以上に素早く書かれていたので驚きました。真っ白な紙を前に、迷わずに書くにはどうすればよいでしょう?

涼 習字はやはりバランスですから、2文字でしたら、上の文字の方を大きすぎないようにするとかポイントはいろいろあります。きっちりとした楷書ではなく、今回のように崩そうと思ったら、角をちょっとずつ柔らかくしてみるとか、線を続けすぎないようにしてみるといいかもしれません。続けすぎて線だらけになると読みづらいので、区切るところ区切ってみてください!

──まさにアートですね。
涼さんは昔からこういう崩し字を書けたんですか?

涼 いえいえ、もちろんできなかったです(笑)。最初はやはり基本系、楷書で綺麗に書けるようになることが大事。筆を上手く動かせる技術を身に付けて、そこからようやく崩せるようになります。

──最初からかっこつけて崩そうとすると上手にできないわけですね(笑)。書道といえば、利き手の問題もたまに耳にします。左利きの人は右手で書くように指導されることもあれば、利き手のままでいいと指導されるとか。
涼さんはどうお考えでしょう?

涼 無理に利き手じゃない方で書くことで、書道が苦手になってほしくないです。私は書くことが好きになって欲しいので、書きやすい方で書いてほしいなと思います。書くのが得意になってきたら、右手でも書いてみる……そういう挑戦型でいいんじゃないでしょうか。やはり書道は、楽しむっていうのが一番だと思います。

──なるほど。お話をお聞きしていると、書道やペン字への苦手意識も消えてきました。

涼 良かった! ただ指導される先生がいらっしゃるのは、文字が右利き用に作られているために左手だと書きにくいからなんです。それは頭の片隅に入れておいた方がいいかもしれないですね。意外と書き順が間違ったままの方も多いのですが、書き順どおりに線を収めていった方が、全体像が綺麗に仕上がります。書き順が違うと、やはり形でばれちゃうんですよね(笑)。

──最近はパソコンやスマホが主流なので、久しぶりに文字を書くと下手になっていると感じることがあります。

涼 今は60代や70代のような大人になってから書道を始める人も多いんですよ。生涯学習みたいな感じで、これから一生を通じて勉強していくものにしようと思っているという方もいて。だから今からでもまったく遅くはありません。

──最後に、涼さんから美文字を目指したいと思う方にメッセージをお願いいたします!

涼 字が上手くなりたかったら、「こういう字になりたい」というお手本を見つけるのが一番! でも最初からすごくハードルの高い文字は挫折しやすいので、親しみがあって真似しやすい綺麗な字を見つけてみてくださいね。

(取材・文/池守りぜね)
▽涼風花(りょう・ふうか)
1985年10月12日生まれ、栃木県出身。2010年に「美人過ぎる書道家」として注目を集め、NHK大河『直虎』『西郷どん』等で書道指導と書状書きの手元吹き替えを行うほか、商品ロゴや番組タイトルなども手掛けている。主な著書は『美文字練習帖』『美の書道』『20日で驚くほど上達、美文字練習帳』。
Twitter:@ryo_official