3月30日、千葉・幕張メッセで開催された『Hello! Project 20th Anniversary!! Hello! Project ひなフェス 2019』で、辻希美と加護亜依が13年ぶりに同じステージに立った。オープニングからいきなり『ロボキッス』を熱唱した2人は、「リーダーの辻希美と!」「サブリーダーの加護亜依!」「2人合わせてW(ダブルユー)で~す!」とお決まりの挨拶を披露。会場からは割れんばかりの大歓声と、「うぅ……ここまで長かったよう」とむせび泣く嗚咽が交錯した。
2人は黄金期のモーニング娘。を牽引し、ミニモニ。では全国のちびっ子たちの憧れとなった。グループ卒業後もユニット・W(ダブルユー)を結成し、現在のアイドルブームの礎を築いたことは今さら説明の必要もないかもしれない。
だが、この日の共演は単に“伝説的ユニットの復活劇”というだけではなかった。
だからこそ──。辻にとっても、加護にとっても、この日の共演は感無量だったはず。決して開かれないはずのドアが開いた。絶対に戻らないはずの時計の針が戻った。これは一種の“事件”なのである。
この日、2人は計5曲をパフォーマンスした。クライマックスはモーニング娘。’19の現役メンバーと一緒に披露した『I WISH』。
≪人生って すばらしい ほら 誰かと 出会ったり 恋をしてみたり≫
≪晴れの日があるから そのうち雨も降る 全ていつか納得できるさ!≫
『I WISH』がリリースされた00年9月の時点で辻は13歳、加護は12歳だった。驚くべきことに、プロデューサーであり作曲家でもあるつんく♂もまだ31歳に過ぎない。それゆえ、当時は壮大なスケールの歌詞が「綺麗事すぎる」と熱心なファンからも揶揄されたものだった。
それが今となってはどうだろう。辻の、加護の、つんく♂の歩んできた人生が歌詞のメッセージ性に独特の深みを与え、唯一無二の説得力を持つに至ったのである。逆に言うと、もし加護のスキャンダルがなかったら、ここまで『I WISH』の歌詞は当日の観客に響かなかったかもしれない。
ここでポイントとなるのは以下の2点だ。ひとつは「人生は長期戦である」という絶対的真理。そしてもうひとつは「取り返しのつかない失敗なんて、そうそうない」という生きる上での希望である。
たとえば政治家の汚職や不倫を糾弾している雑誌社の記者も、私生活では叩けば埃のひとつやふたつは出てくるかもしれない。逆にどんなにまっすぐ正直に生きていても、リストラ、破算、病気、離婚、親の痴呆などのトラブルは予想もしない角度から襲ってくる。それが人生というものである。生きるということは、そういった邪魔くさい諸々と向き合うことに他ならない。『I WISH』が主張しているのは、まさにそういうことなのだ。
加護の生き様は、間違いなく『I WISH』にブルージーな味わいを与えた。 「I=亜依。WISH=希美。つまり『I WISH』とは辻・加護の曲である」とは当時からファンの間で囁かれていた噂。その真贋はつんく♂に聞かないとわからないが、この3月30日に『I WISH』が完成形となったのはたしかだろう。
当日の加護はビジュアルもパフォーマンスも完全に“仕上げて”きており、ハロプロ現役メンバーにも大きな刺激を与えただろう。対する辻も第4子を昨年12月に産んだとは思えないほどの“現役アイドルぶり”を発揮し、その本気度を露わにした。
「クビにしたタレントを自社の公演で復活させる」という通常では考えられない決断を下した事務所の度量にはファンからも称賛の声が上がったが、今後のこととなると、まったく予想がつかないと当の事務所関係者が語っている。私たちにできることは、辻・加護という物語を最後まで見守ることだけなのかもしれない。