社会の暗部を浮き彫りにする作風が特徴的な劇作家・三浦大輔。映画監督としても注目され、『愛の渦』や『娼年』などの衝撃作を生み出している。
今回、自身が手掛けた舞台『そして僕は途方に暮れる』を、舞台版でも主演を務めた藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)を起用して映画化。1月13日(金)より公開されている。

【写真】藤ヶ谷太輔主演『そして僕は途方に暮れる』場面写真

本作品は、藤ヶ谷太輔演じる主人公の現実逃避劇。夢を抱いて上京したものの、大学卒業後は鳴かず飛ばず。気づけば歳もそれほど若くない…。バイトで食いつなぐ日々がいつしか日常になってしまい、振り返ってみれば、何も成し遂げていない。
そんなうだつの上がらない主人公が、ある出来事をきっかけに、逃げて、逃げて、逃げまくる。

世間のせいだ、環境のせいだ、親のせいだと八つ当たりしたところで現実が変わるわけでもない。そんな自分を受け入れるしかない。しかし、受け入れたくない。

葛藤し続ける人間の方が、現代社会においては圧倒的多数派。そして結局受け入れるしかいかなくなり、どこかに落ち着いてしまう。


現実逃避といえば、映画やドラマを観るという行為もそうなってくるのだが、
とことん現実逃避するとなると、それはまた事情が変わってくる。なにしろ仕事や人間関係を切り捨てていくのだから、それなりの勇気がいる。だからこそ普通は、家族や恋人、友人など、社会システムの中で構築された関係性で縛られた環境下で現実逃避するなんて怖くてできないし、ましてや携帯電話の電源を切るなんて、社会との繋がりを遮断するような恐怖感がある。

本作品では、そんなものさえも断ち切って主人公は逃げる。その姿は、逆に清々しいというべきか、人々のもつ「逃げたい」という感情を全て背負っているようで、その行く着く先がどうなるのか、待っているのは希望か破滅か…。ぜひ劇場で、現実逃避疑似体験をしてみてほしい。


また主演の藤ヶ谷は、舞台版で演じ慣れたキャラクターをそのまま演じている分、すでにキャラクターの内面までも熟知しており、その演技と発するセリフのひとつひとつから緊張感が伝わってくるほどの妙な信憑性を纏っているのが印象的だ。

共演には『もっと超越えした所へ。』(2022)や『そばかす』(2022)など、演技の幅が広がりつつある前田敦子や毎熊克哉、野村周平といった、それぞれ日常の延長線上に存在していそうなキャラクターが登場。現実逃避劇に説得力をもたせている。さらに豊川悦司が現実から逃げた象徴でもあり、境界線としても機能している主人公の父親を演じており、その異質感も見所のひとつだ。

【ストーリー】
自堕落な日々を過ごすフリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、長年同棲している恋人・里美(前田敦子)と、些細なことで言い合いになり、話し合うことから逃げ、家を飛び出してしまう。
その夜から、親友・伸二(中尾明慶)、バイト先の先輩・田村(毎熊克哉)や大学の後輩・加藤(野村周平)、姉・香(香里奈)のもとを渡り歩くが、ばつが悪くなるとその場から逃げ出し、ついには、母・智子(原田美枝子)が1人で暮らす苫小牧の実家へ戻る。だが、母ともなぜか気まずくなり、雪降る街へ。行き場を無くし、途方に暮れる裕一は最果ての地で、思いがけず、かつて家族から逃げていった父・浩二(豊川悦司)と10年ぶりに再会する。「俺の家に来るか?」、父の誘いを受けた裕一は、ついにスマホの電源を切ってすべての人間関係を断つのだが……。


脚本・監督:三浦大輔
出演:藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、毎熊克哉、野村周平、香里奈、原田美枝子、豊川悦司ほか
原作:シアターコクーン「そして僕は途方に暮れる」(作・演出 三浦大輔)
(C)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
1月13日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

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