【写真】溢れる映画愛…『エンドロールのつづき』場面写真【13点】
チャイ売りの少年が映画と出会い、やがて世界で活躍する映画監督になる…。そんな監督自身の驚くべき物語を映画化した本作。ナリン監督の少年時代の出会いや体験を元に、監督の信念と映画愛が込められている。
また、ナリン監督は『怒れる女神たち』(2015)や『花の谷 -時空のエロス-』(2005)といった、過去作品を観ても、インド映画における「ステレオタイプ」と戦い続けてきたことがわかる映画人である。
インドという国を世界からの視点で俯瞰的に見ているからこそ、インドの他の映画人とは、また違った意見を持っているのかもしれない。
──『エンドロールのつづき』は、日本で初めて一般公開されるグジャラート語映画です。監督はインドのグジャラート州出身ですが、グジャラート語映画は年間どれくらい制作されているのでしょうか?また今回、『エンドロールのつづき』はインド国内ではどういった上映形態で、一般の人は主にどういったかたちで作品にアクセスすることが多いのでしょうか?
パン・ナリン監督 現在は100本も制作されておらず、60~80本程度といったところで、超低予算や助成金目当ての作品も含めてこの数字です。(インド国内の)ヒンドゥーやタミル、テルグなどのように映画の製作、配給システムができ上がっていないため都市部と比べれば制作本数は少ないです。
また今回はグジャラート映画としては初めての試みともいえることに挑戦しました。グジャラート州はもちろん、ムンバイやチェンナイ、ハイデラバード、ケーララまでインドの各地で先行上映を行ったのです。
ディール・モーマーヤー(プロデューサー) 実は今回、インドよりも先に、世界中で配給公開が先行したという奇妙な状況でした。スペイン、ドイツ、台湾、イスラエルといった国で買い付けがされました。というのもインド国内の映画市場というのが、同じインド映画であっても地域を跨いでの公開となると、どうしても大スターものでないと受け入れてくれません。まず『エンドロールのつづき』が、大スターは出演していなくても良い作品であるということを証明しなければなりませんでした。海外で買い付けされていて、注目されている作品だという後ろ盾が必要だったのです。
──本作は「歌や踊り」のないインド映画として、珍しく思われていると思うのですが、もともと、東インドのベンガル語映画などは、「歌や踊り」があまりない印象があります。配信サービスの普及で、ストーリーテリングの在り方が変化していて、ここ5~6年ほどで北や南の商業的映画においても「歌や踊り」が減ってきたと思いますが、グジャラート語映画はどちらかというと、もともと「歌や踊り」というよりもドラマ性重視な作品が多かったのではないでしょうか?
パン・ナリン監督 歌やダンスの映画がないわけではないのですが、ヒンディー語映画などと比べれば規模はかなり小さいです。そのためどちらかというと、社会派やドラマ性の強いもの、そしてコメディ作品が得意。さらに、グジャラート州では演劇界が盛り上がっていて、優れたコメディライターがたくさんいることからも、演劇を映画に脚色するというスタイルも多くなってきています。
今回、『エンドロールのつづき』は、日本で初めて一般公開されるグジャラート語映画ですが、アメリカやイタリアでも初めて。私は言語というものは、音色みたいなものだと思っていて、作品によってふさわしい言語を常に選んでいます。長編デビュー作の『性の曼荼羅』(2001)は、チベット語でも少数の人しか話さない方言の言語を使用しましたし、『花の谷 -時空のエロス-』(2005)では東京で撮影していることもあって、45分ぐらいは日本語が使用されています。
とくに『エンドロールのつづき』の場合は、グジャラートのカーティヤワールが舞台になっていて、物語自体がそこに根付いたものになっていることからグジャラート語であることは欠かせない要素であり、またカティアバルには独特の訛りがあるので、そこも徹底しました。つまりカーティヤワール弁映画としては世界初ではないかと思っています。
──今作にはリティク・ローシャン主演の『Jodhaa Akbar』やアムパム・カーの『アパートメント』など、数々の映画のシーンやポスターなどが使用されていますが、その中でプラティチー・モハパトラの曲、「Dil Dola Re」が流れていたので気づいたのですが、パン・ナリン監督自身の『怒れる女神たち(Angry Indian Goddesses)』の映像も使われていたと思います。他にもお遊び的に自身の作品を使用されているシーンはありますか?
パン・ナリン監督 そのシーンで使われていたのは『怒れる女神たち』で間違いありません。そしてもう1つあります。子どもたちがガラクタで作った映写機で映画を上映しようするシーンの中で使用されているのは、『花の谷 -時空のエロス-』(2005)という作品です。(ちなみにこの作品には、まだ無名時代の綾野剛が出演している)
──ナリン監督はかなりの映画マニアだと聞きました。インド映画以外の最近観たもので良かった作品があれば教えていただきたいです。
パン・ナリン監督 まずスティーヴン・スピルバーグの『フェイブルマンズ』、そして『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』と『UTAMA~私たちの家~』です。また俳優ですが、キアヌ・リーブスとアダム・ドライバーとは仕事をしてみたいです。そして日本の役者も起用してみたいと思います。実は、すでにハリウッド映画の企画が進行中なんです。(その作品にキアヌ・リーブスやアダム・ドライバーが出演するかは不明)楽しみにしていてください。
以上がナリン監督とプロデューサーのディールによる貴重なインタビューだ。『エンドロールのつづき』は、ボリウッドの北インド映画でもトリウッドやコリウッドの南インド映画でもなく、西インド映画。インタビューかららもわかるように、インドと言っても地域によって映画業界の発展と成長の仕方が全く異なっている。日本ではどうしても、全てをひっくるめて「インド映画」と言ってしまうが、そもそも一括りにできるようなものではないのだ。
日本においての「インド映画」のイメージを良い意味で更新してくれる作品である。これをきっかけにもっとインドという国に興味を持ってもらいたい。そして間違っても「インドらしくない映画」とは言わないでもらいたい。
▽『エンドロールのつづき』作品情報
【ストーリー】
9歳のサマイはインドの田舎町で、学校に通いながら父のチャイ店を手伝っている。厳格な父は映画を低劣なものだと思っているが、信仰するカーリー女神の映画は特別と、家族で街に映画を観に行くことに。人で溢れ返った映画館、席に着くと、目に飛び込んだのは後方からスクリーンへと伸びる一筋の光…そこにはサマイが初めて見る世界が広がっていた。映画にすっかり魅了されたサマイは、再び映画館に忍び込むが、チケット代が払えずつまみ出されてしまう。それを見た映写技師のファザルがある提案をする。料理上手なサマイの母が作る弁当と引換えに、映写室から映画をみせてくれるというのだ。サマイは映写窓から観る色とりどりの映画の数々に圧倒され、いつしか「映画を作りたい」という夢を抱きはじめるが……。
【クレジット】
監督・脚本:パン・ナリン
出演:バヴィン・ラバリ
2021年/インド・フランス/グジャラート語/112分/スコープ/カラー/5.1ch
英題:Last Film Show
日本語字幕:福永詩乃 G 応援:インド大使館
配給:松竹 協賛:スズキ株式会社
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