オズワルド・伊藤俊介の初著書『一旦書かせて頂きます』が2023年4月3日に発売される。コロナ禍に始まったnoteへの投稿、「ダ・ヴィンチWeb」でスタートしたエッセイ連載の掲載作品などが収録される同作は、クスリと笑えるユーモアはもちろんながら、彼が周囲に向ける実直なまなざしと人情味溢れた書き口に、思わず心が温かくなるようなエッセイ集だ。
【前編はこちら】オズワルド伊藤が畠中について書き下ろし「嫌だった…。相方という存在は人間関係において特殊」
【写真】エッセイ本を書いたオズワルド伊藤俊介
2020年の自粛期間中、芸人仲間のカズレーザーに背中を押され、エッセイ執筆を始めたという伊藤。そのプラットフォームにnoteを選んだのは、「記事が収益化できるから、最速でお金になる方法を考えると、一番手っ取り早かった」からなのだそう。
「そもそもコロナ禍に書き始めていたので、毎日とりたてて何か出来事があるわけでもなく、過去まで遡ってテーマを考える必要があったんですよね。無料部分の文章がある程度続いて『ここから読むには課金してね』っていうのがnoteのシステムなんで、読んでいる人にお金を払ってもらうには、読み応えのあるものを書いて楽しんでもらわなきゃなと」
「家族」「地元の友達」「大学時代、キャバクラバイト時代」「仲間、先輩、恩師」「仕事、日常」そして「M-1グランプリ」をテーマに、伊藤の半生が赤裸々に綴られる本作。
「芸人なんで、テレビやラジオでエピソードトークをすることも多いですが、そういうときは他の人が話に参加してきたり、リアクションをとったりするじゃないですか。でも文章を書いていると、誰もいないところで一人喋り続けているような感覚になる。受け手の反応が返ってこないぶん、書き逃げできるところがエッセイの良いところですね。
常に締切に追われていたこともあり『これを書いたら、どう思われるだろう』と振り返って書き直すような余裕もなかったので、いま読み返すと恥ずかしいところもいっぱいあります。なので、身の回りの人間にはあまり読んでほしくないんですよ。でも、書くことで『自分はこんなことを感じていたんだな』という発見も多かったです」
これまで漠然と抱いていた感情が、執筆を通じ、言葉として認識できるようになった。それは彼にとって最も身近な存在である、家族に対する思いも例外ではなかったという。
「本の中で、沙莉(実妹の女優・伊藤沙莉)について僕が思っていたことを説明するところがあります。<いかんせん心を許さなければならないような状況を作ってくる人間に弱い。この、心を許さなければならないような状況を作ってくる人間ってのはかなりやっかいである>と。ここは、我ながら『言葉にできた!』という喜びを感じた部分ですね。
そんなに親密な関係じゃないけど、無下にできない理由を作ってくるヤツって結構いるんですよね。うちの妹は、特にそういう人に近寄られやすくて、人間関係のトラブルに巻き込まれやすいタイプなので、いつも心配していて。そういう思いを言葉に落とし込めて、スッキリしました」
家族をはじめ元ルームシェアメンバー、マネージャー、キャバクラバイト時代の同僚、そして相方らとのエピソードからは、その全員に対する伊藤の愛情や感謝が感じられる。こうした印象を読み手に与える内容になったゆえんについて、本人は「僕は口が悪いので、そういうところでプラマイゼロにしようと思ったんですかね(笑)」語ってから、このように続けた。
「基本的に、人のことを嫌いになれないんですよ。芸人になってから『アイツとは飲みたくない』と思ったのって、片手で数えられるくらいなんです。人の良いところを探すことが、もう癖になってるのかもしれませんね。母子家庭で、妹二人と一緒に育っていたり、10年くらいキャバクラで働いていてキャバ嬢の皆さんにご飯食べさせてもらっていたりもしていたので、特に女性に対しては褒めるのが当たり前の体になってくるというか。
あとはシンプルに、周りの人間を見ていて『凄いなあ』と感じることが多いんですよね。とにかく僕は、自分の人間性が話にならないくらい終わっていると思っているので(笑)、隣の芝が青く見えがちなんじゃないかと。なので、自分ができないことをできる人を見て『凄いなあ』と言っているだけです」
<『書く』という表現は、思いを綴ることによって自分自身をわかってあげることであると思えてならないのである>
2020年9月投稿の「書くということ」と題される記事内に、このような見解を明かしていた伊藤。最後に、初著書『一旦書かせて頂きます』を書き上げた現在の心境を聞いた。
「マジで率直に言うと『自分って、本を出すときこんなにも印税のことで頭が一杯になるんだ』って、ビックリしてます。これが一体何冊売れて、一体何%が入ってくるのか、いま一番気になるところです(笑)」