「栃木県生まれの眉毛ガール」井上咲楽の政治家対談、今回は防衛大臣や農林水産大臣、文部科学大臣など数多の役職を歴任してきた自民党・林芳正議員が登場。プライベートではGi!nz(ギインズ)というバンドを結成するほどの音楽好きの一面が明らかに。

井上 Gi!nz(ギインズ/林議員が参加する自由民主党所属の国会議員による音楽ユニット)のアルバム、聴きました。

林 そうですか。うれしいな。

井上 『東京卒業』という曲がすごく印象的で。というのも、私も栃木県益子町という田舎町の出身なので、歌詞に励まされたんです。

林 あれはGi!nzで最初に作った曲なんですよ。
私は下関で育ったんだけど、30歳のとき、高校の同窓会の幹事をやったんだよね。同級生は238人いて、でも、地元には30人程度しか残っていなかった。進学校だったから、みんな九州や広島、大阪、東京に行っていてね。それぞれの場所で頑張っているんだろうな。でも、そのうち地元に戻る日もあるんだろうな、と。そんな着想で作った曲。


井上 私も今は東京ですが、その東京を離れる日もくるのかも……。でも、それまで頑張ろうと思いました。

林 私が大学生の頃、ユーミンの『SURF&SNOW』というアルバムがヒットしていてね。『恋人はサンタクロース』や『サーフ天国、スキー天国』といった曲が入っているんだけど、まさにその歌の世界みたいに東京で楽しく過ごす地方出身者はたくさんいました。でも、就職や結婚を機に東京生活を卒業して地元に帰る。そんな人生もあるよね……というイメージです。


井上 「エモい」という感情がすごく合う歌詞でした。

林 エモい! 最初に聞いたとき、「キモい」の類語かと思ったけど、ずいぶんいい意味なんだよね。ありがとうございます。

井上 そもそもバンドを始めたきっかけは、ビートルズだったと聞きました。

林 そう。自分で初めて買ったレコードは、アイドル時代の麻丘めぐみさんだったんですけどね。
中学生当時、ヒットしていたのが、『学生街の喫茶店』でね。ガロの。

井上 雑誌の『ガロ』ですか?

林 そうか。知らないよね。確かに、漫画雑誌の『ガロ』もあったけど、こっちのガロは3人組のフォークグループ。彼らが好きでアルバムを買ったら、B面に……。


井上 B面?

林 昔はレコードの表をA面、裏をB面と言って、僕の買ったガロのアルバムの場合、A面に彼らの曲、B面に洋楽のカバーが収録されていたんですよ。そのうちの1曲がビートルズの『レット・イット・ビー』をカバーした音源だった。それを聴いて、「いいな」とクラスメートに話していたら、「おまえ、それ、ビートルズだぜ」と教えてくれただけじゃなく、自分の持っているビートルズのレコードを貸してくれたんですよ。そこでようやく本物を聴いて、ストーンっと胸を撃ち抜かれて。ポール・マッカートニーが好きだから高校の入学祝いにベースを買ってもらって、バンドを始めてね。それからずっとビートルズ好きです。


井上 今もですか?

林 もちろん今も聴いていますし、ライブでもカバーしています。

井上 最近のアーティストも聴くんですか?

林 自分ではジャズやクラシックが多いけど、この間、下の娘がApple Musicにオススメを入れてくれて。

井上 どんな曲を?

林 今、高3でダンスをやっているので、ブルーノ・マーズ、ペンタトニックス、リトル・ミックス。メーガン・トレイナー……。いろいろオススメしてくれました。

井上 娘さんと趣味を共有できるのはすごくいいですね。

林 彼女は自分で曲を編集してダンス用のBGMを作って、振り付けして、やっていますよ。EDMっていうのかな。音楽の話ができるのは楽しいよね。

井上 林さんは、お父様(林義郎元大蔵大臣)が衆議院議員。政治家になりたいと思ったのは、いつ頃なんですか?

林 大学を出て、会社に入ってからですね。私が小学校3年のとき、通産省に勤めていた父親が引退する議員の後継指名を受けて選挙に出て、当選。家族で東京から選挙区のある山口県下関に引っ越しました。その後も選挙は身近なものでしたけど、政治家の仕事は自分に関係のないことと思っていました。

井上 どうしてですか?

林 父親は週末になると地元に戻ってくるんですが、皆さんに応援してもらうため、会合に出たり、頭を下げたり……。いわゆる「ドブ板」活動をしているところしか見ていないわけです。後援会の集まりで酔っ払っている大人はいるし、到底、かっこいい仕事には見えなかった。そこで、自分は親父と違うことがやりたい、海外で仕事がしたい、と。運良く商社に入社できて、上司にも「父を継いで政治家になることはありません」と言っていたんですよ。

井上 そうなんですか。

林 ところが、タバコ課に配属になり、原材料の葉たばこの産地であるグアテマラ、ブラジル、アルゼンチンへ出張に行くようになって、考えが変わったんですね。グアテマラの隣のニカラグアは内戦の真っ只中で、その様子がテレビで連日流れ、人が死んでいく。ブラジルでも訪ねたオフィスのスタッフから、「今朝、銀行強盗があったけど大丈夫だったか?」と聞かれる。アルゼンチンは資源もあり、国土も広く、かつては世界五指に入る大国だったのに、経済が破綻し、停滞していた。一方で、日本は資源もなく、国土も小さいのに世界で1位2位を争う経済大国になっている。何でだろう? と考えたとき、人の力だと気づいたわけです。教育制度を作り、科学技術を進歩させる仕組みを用意し、国を成長させてきた背景には、政治の力もあったんだろうな、と。

井上 そこから政治家を目指すようになったのでしょうか?

林 東京での父親の仕事を意識的に見せてもらうようにし、だんだんと政治の世界に惹かれるようになっていきました。会社に入って3年目くらいでしたね。

井上 社会に出て、問題意識を持ってから政治家になったのは大きなことですよね?

林 そうですね。議員になるのがゴールという発想はなく、日本が繁栄すること。豊かさや安全を守るために政治家になりたい、と。議員になるのは、やるべきことを実現するための手段。その考えがブレたことはありません。

井上 中選挙区制時代、山口県でお父様と、安倍首相のお父さんの安倍晋太郎さんは同じ選挙区だったんですよね。

林 地元では安倍派、林派で激しく競争していましたね。それが小選挙区制になってから、参議院と衆議院に分かれ、協力していろんな仕事ができるようになりました。それは地元としては良かったなと思います。

井上 地元としては……ということは、小選挙区制そのものにはデメリットも感じられているんですか?

林 この選挙区に自民党からはこの人、他の政党からはこの人と出馬するわけですが、有権者から見ると中選挙区制に比べて選択肢が少なくなりました。昔は自民党の中でも、政策の異なる候補者が複数出馬し、違いを比べて選ぶことができた。でも、今は候補を絞り込みますから、自民党を支持するなら、「ちょっと意見は違うけど、この人しかいないしな……」と。消極的な賛成といった応援になっている有権者の方も少なくないと思います。その結果、何か大きな出来事があり、全国レベルのブームが起きると一気に政権交代ということも起きてしまうわけです。

井上 「風が吹く」んですね。

林 すると、各党も政策の話よりも、「ブームをどうやって作るか」に目が行き、実際、行き過ぎてしまっているところがあると思います。これは日本よりも先に他の国で起きていて、政治がポピュリズム的になっているな、と。

井上 小選挙区制以前の方が政策論争や自民党内の派閥間の争いも激しかったんですか?

林 5人区に同じ党から2人、3人と出馬すれば、当然、政策論争は活発になりますよね。また、党内には派閥間での競争原理が働き、いい刺激がありました。政権交代が起きる前まで自民党政権があれだけ長く続いたのは、内部で抑制と均衡が働いたからです。各派閥が切磋琢磨し、次の世代を育てていたから新しいリーダーが出て、さまざまな政策を実現することができた。言わば、「疑似政権交代」と呼べる状態だったので、自民党政権が長続きしたんです。

井上 今、林さんは自民党で最も歴史がある派閥の宏池会の座長を務めています。派閥があることのメリットってどこにあるんでしょうか?

林 自民党には現在、衆参合わせて約700人を超える国会議員がいます。そこに初当選を果たした新人が加わったとき、派閥では30人、40人の先輩議員がマンツーマンでさまざまなことを教えていきます。それは大学で言えば、ゼミに入るようなもの。気軽に相談もできますし、国政や政策について親身になって教えてもらえる。こうした教育機能が派閥メリットですね。

井上 宏池会の会長は岸田文雄さんです。これは私の個人的なイメージなんですが、去年の総裁選での出馬か不出馬で揺れる姿を見ていて、少し優柔不断でリーダーとしてはやさしい方なのかなと。近くでご覧になっていてどうですか?

林 確かに、そういうふうに言う人は多いですし、印象を聞かれることもあります。ただ、宏池会の座長としてずっと一緒にいて感じるのは、岸田さんが本当に考え抜く人だということ。歩みは非常にゆったりしています。パパパっとは行動に移さない。じっくり考えながら進む。だからこそ、「こうだ」と決めたことは必ず実現します。

井上 冷静で、丁寧で、信頼できる方なんですね。

林 公の場で話す内容も書き起こしてみると、きちんとした文章になるんですよ。それだけ言葉を選んで話している。失言もないですが、メディア的にはあまり面白くはないでしょう。ただ、今後の日本にはさらなる高齢化と、経済が大きくは成長しない時代がやってきます。国民の皆さんに負担の分担をお願いする局面もあるでしょう。そのとき、「岸田さんが言うのなら、公平にやっているんだろうな」と。そんな信頼を得られるリーダーであることは間違いありません。

井上 ぶっちゃけ、次の総裁選には出馬されますか?

林 う~ん、ここまで着実に歩いてきましたから、次は下がることはないでしょう。

井上 では、林さん自身は?

林 座長になる前の時代は、総裁選にも出馬していますから、そういう気持ちはずっと持ち続けています。まずは岸田政権を実現し、そこで経験を積ませてもらい、いつかは、と。岸田さんの次に続けるよう努力していきたいですね。

「取材を終えて」~井上咲楽の感想~
『ViVi』と#自民党2019のコラボ問題や麻生さんの老後資金は30年で約2000万必要発言など、最近はいろんな世代の気持ちが食い違っているように感じます。でも、その幅のある間を結ぶことができるのが、若者の感覚も大切にできる林さんのような世代の議員さんだと思います。少子化、格差、外国人労働者…… 変わりゆく日本のリーダーになる人は、果たしてどんな人がよいのでしょうか?

(『月刊エンタメ』2019年8月号掲載)
林議員が <新たに選挙権を得た若い世代> に読んでほしい1冊
井上咲楽が林芳正 元・文部科学大臣に聞く「宏池会会長・岸田文雄さんは優柔不断じゃないですか?」

『新編 百朝集』(安岡正篤 著/関西師友協會 刊)
安岡正篤先生は、佐藤栄作さんから中曽根康弘さんに至るまで、昭和の歴代首相の指南役を勤めた思想家です。『新編百朝集』は、「我」「人間」「忍耐」など、そんな安岡先生の語録を集めた本。「初めて手にしたのは20年くらい前のことです。もちろん一度は通して読みました。1つひとつは短いので、以来はいつも手近なところに置いておいて、考えごとがあるときなんかに、『どんなことが書かれていたかな……』と読み返している1冊です」
▽井上咲楽(いのうえ・さくら)
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。A型。
Twitter:@bling2sakura

▽林芳正(はやし・よしまさ)
1961年1月19日生まれ、山口県下関市出身。東京大学法学部卒業後、三井物産に入社。1994年にハーバード大学ケネディ行政大学院修了後、1995年に初当選。防衛大臣、内閣府経済財政政策担当大臣、農林水産大臣、文部科学大臣を歴任。