現在公開中のホラー映画『忌怪島/きかいじま』は、「恐怖の村」シリーズに続く清水崇監督の最新作。清水監督といえば、ジャパニーズホラーの名作『呪怨』のメガホンを取った人物としてもお馴染みだ。
公開から20年以上経過した今もなお、その恐怖は脈々と語り継がれているが、果たして『呪怨』は他のJホラーと何が違ったのだろうか。

【関連写真】橋本環奈が魅せる恐怖の表情、『カラダ探し』場面カット

同作は劇場版のイメージが強いものの、もともとはJホラー黎明期にVシネマとして登場した作品である。あまりの恐ろしさから口コミで瞬く間に話題となり、やがて劇場版『呪怨』と『呪怨2』が制作された。

物語の舞台は、かつて陰惨な殺人事件が起きたとある一軒家。家を訪れた人々を、現世に深い呪いを残した伽椰子が呪い殺していくという、オムニバス形式のホラー作品だ。

同じくJホラーの金字塔と名高い『リング』を振り返ってみると、怪奇の元凶である貞子の登場シーンは要所にしかない。
しかし『呪怨』では伽椰子や彼女の息子・俊雄の見せ場がかなり多く用意されており、もはや幽霊というより神出鬼没なモンスターばりに画面内を暴れ回る。

仮に『リング』の貞子を「静」と例えるならば、『呪怨』の伽椰子は「動」。相手を呪い殺すために率先して行動していくタイプの霊と言えるだろう。

従来のホラー映画はいつ幽霊が出てくるかわからない怖さが観客を支配していたが、『呪怨』はその真逆を行く。清水監督もそれをわかっていながらあえて“幽霊を出しまくる”ことに重きを置いていたようで、そういった意味でも同作は今までのJホラーの常識を覆した作品といっても過言ではないのだ。

とはいえ、ただ単に幽霊が頻繁に出てくるだけならば、『呪怨』はここまでヒットしていなかったかもしれない。
幽霊がこう何度も登場してしまうと、怖さが半減してギャグになりかねないからだ。

同作が本当に凄いのは、伽椰子たちの見せ場が多くありながらも、観る者に圧倒的な恐怖を与えた点にあるだろう。

そもそも伽椰子が頻繁に登場するといっても、登場のタイミングや現れ方は絶妙。その好例といえるのが、伊東美咲演じる仁美が伽椰子にさらわれる場面だ。

恐怖に怯えた仁美は明るい部屋の中で布団を被り、テレビを点けて“怖い”という気持ちを紛らわせようとする。だが突如としてテレビにノイズが走り、画面に映っている女性の顔が少しずつ不気味に変化していく。
そして思わず目をそらした仁美がおそるおそる布団の中を確認すると、伽椰子がこちらを覗いており、そのまま仁美を引きずり込むのだった――。

もし自分が仁美と同じ状況に立たされたら、恐らく多くの人が彼女と同じ行動をとっていただろう。明るい部屋の中でテレビを点け、なおかつ布団をかぶる……。これほど安心できる場所は他にないはずだ。

だが伽椰子はそんな安全圏すらも飛び越え、観客に逃げ場のない恐怖心を植えつけた。こうした卓越した演出によって、幽霊が何度出てきても変わらず恐怖心を掻き立てられる作品に仕上がっているのだろう。


ちなみにそんな『呪怨』の精神は、国内のみならず、海外にも大きな影響を与えているようだ。2019年に公開された映画『アナベル 死霊博物館』の監督を務めたゲイリー・ドーベルマン氏は、「『呪怨』から影響を受けていないと言ったら嘘になる。多いに影響を受けている」とコメントを寄せていた。実際に劇中には、伽椰子の布団のシーンをオマージュした演出が見受けられる。

また来年には日本ホラー映画大賞初大賞作『みなに幸あれ』が、清水監督総合プロデュースで映画化される予定。6月23日に公開された予告動画には『呪怨』ばりの不気味な演出が随所に見られるものの、同作とはまた違うホラーとなりそうな雰囲気が感じられる。


『呪怨』という金字塔を打ち立ててもなお、ホラー映画を作り続ける鬼才・清水監督。Jホラーの新時代が幕を開ける日が待ち遠しい。

【あわせて読む】実写化成功のさらなる高みへ…“原作超え”と謳われた実写映画4選