最も古いファッションドールとして知られるバービーが初めて実写映画化される。日本で今も商品展開されている人気シリーズで、一時期ジェニーという名前でも販売されていた。


【写真】マーゴット・ロビー演じる映画『バービー』場面写真

「トランスフォーマー」の映画化が成功して以来、おもちゃの映画化企画は急増。「レゴ」や「プレイモービル」に続き「ミクロマン」「ファービー」「ホットウィール」「ベイブレード」などといった映画化企画も進行中であるなかで、「バービー」の映画化というのも注目されてきた企画のひとつだ。

2000年以降から定期的に『バービーのくるみ割り人形』(2001)や『バービーと人魚の国マーメディア』(2006)などといった、ビデオストレート(劇場公開ではなく、DVDやVHSでの販売を目的とした長編作品)もしくは配信用の長編アニメ映画は制作されてきているし、パロディ的なものでいうと『スーパードール/パパが人形に恋をした』(2000)といった作品もあるが、実写映画化というのは今作が初めてだ。

そのまま映画化すると、過去に同じファッションドールの映画化『ブラッツ』(2007・日本未公開)のように、おしゃれな女の子の日常生活を描くだけになってしまうところを、グレタ・ガーウィグがかなりとがった作品に仕上げてきた。

主演を務めているのはマーゴット・ロビーであるが、当初はコメディエンヌのエイミー・シューマーがバービーを演じる予定だったことからも、ストレートなガールズムービーとして描くつもりなど、毛頭なかったということだ。

そんな今作の元となったバービーを誕生させたのは、「ホットウィール」や「マスター・オブ・ユニバース」などを販売するアメリカの大手玩具メーカー、マテル社であり、マテル社とバービーは常に共に歩んできた同士のような存在。バービーが存在していなければ、今のマテル社もなかったかもしれない。

もともとマテル社は、ハロルド・マトソンとエリオット・ハンドラーが1945年代に創設した企業であるが、そこにエリオットの妻であるルース・ハンドラー(ちなみにルースの自伝映画も製作予定)も加わることとなった。

初期のマテル社もモデルガンやミニカーなどの男の子向けおもちゃを製造していたが、ルースが自分の娘のバーバラが遊ぶおもちゃが少ないことに着目。実際に当時は、女の子が遊べるおもちゃというと、映画の冒頭にも登場する赤ちゃんドール、もしくはペーパードールに紙の衣装を着せ替えするものしかなかったのだ。

ルース夫妻がスイス旅行に行った際に、ドイツの新聞「ビルド」の一コマ漫画でドイツ人を相手にするコールガール「リリ」をモデルとした男性向けのコレクションドールと出会う。そこでルースはリリドールを女の子が遊べるファッションドールにしてしまおうと思い立ったことが、バービー誕生のきっかけである。
50年代は、女性の社会進出が珍しかった時代にルースが舵をきって進め、成功させたのがバービーなのだ。

つまりマテル社という企業自体が女性の社会進出の象徴ともいえる企業なのだが、現在はどうなのだろうか……。

現在もバービーの新作は発売され続けており、スタンダードなシリーズから、低年齢向けの「キュートアップ!」シリーズや、逆に大人向けのコレクタードールとして展開される「シグネチャー」、そして今作とのタイアップ商品など、幅広く展開されている状況ではある。

今年の4月にはダウン症のバービーが発表されるなど、常に時代、時代の価値観や概念と闘い続けていたバービーではあるが、人々のなかで、またマテル社という企業のなかでバービーという存在が現代において、どう変化したのだろうか……。

それをバービー側とケン側、そして人間側からメタ的に描いた画期的な作品であるのと同時に、男女平等の難しさを描いている。

バービーの世界はバービーたち、つまり女性が主導権を握り、男は無能なお飾りのように扱われていて女性至上主義で決して男女平等ではない。一方で人間の世界はそれが真逆になっていて、男性が主導権を握っている。環境が違うことで男女の立場が逆転することはあっても、本当の意味で男女平等を保つことがいかに難しいかということを描いていて、かなり哲学的な作品だ。

『レディ・バード』(2017)や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)など、今までにもフェミニズム色の強い作品を手掛けてきたグレタ・ガーウィグだからこその回答というべきだろうか、フェミニズムが進み過ぎても、そこには平等が直結しない、人間が”平等”というものを見つけ切れていない現実を描いていながら、グレタ自身の語り口としての模索点も大きく反映されているようにも感じられた。

また気になるところでいえば、バービーやケン以外にもミッジやスキッパー、アランは登場するが、チェルシーやクリッシーは登場しない。現代かと思えば、2002年に亡くなったルース・ハンドラーも登場し、粉飾決算で逮捕された過去もネタにしているなど、独特の時代感と世界観が混ざり合って、アニメシリーズなどで描くものとは全く違った、唯一無二のバービーワールド、良い意味で「変な世界」が展開されていて、かなり中毒性のある作品といえるだろう。

【ストーリー】
どんな自分にでもなれる完璧で<夢>のような毎日が続く“バービーランド”で暮らすバービーとボーイフレンド(?)のケン。
ある日突然身体に異変を感じたバービーは、原因を探るためケンと共に〈悩みのつきない〉人間の世界へ!そこでの出会いを通して気づいた、”完璧”より大切なものとは?そして、バービーの最後の選択とはー?

【クレジット】
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
脚本:ノア・バームバック
出演者:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、シム・リウ、デュア・リパ、ヘレン・ミレン、アレクサンドラ・シップ、ウィル・フェレルほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
クレジット:(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
公式サイト: barbie-movie.jp
8月11日(金)全国ロードショー

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