【写真】『ミステリと言う勿れ』主演の菅田将暉
ミステリー作品としては、ある程度、先の読める展開とはなっているし、犯人は前半で何となくわかるのだが、今作の魅力はタイトルの通り、ミステリーとは別のところに存在している。
つまり謎解き要素よりも、その事件のなかにいる人々の心を”説いて”いく作品となっているということ。幼少期の体験や、犯罪に巻き込まれたことによって、親世代が勝手に作り出した概念のなかで生きていくしかなかった人々のアフターケアを描いていることだ。
本作は、雑談から始まり、そもそもの疑問を投げかけ、そこから生まれる対話によって結果として事件解決が後に付いてくるという斬新なスタイル。脱力系主人公がつぶやく言葉が、ことごとく現代人に突き刺さるものとなっている。脱力系によって説教臭くなっていないというのも重要な点だ。
世の中に蔓延る「普通」「常識」「一般的」といったような、あやふや過ぎる固定概念に対してそもそもの疑問を投げかける重要性も教えてくれる。
誰もが感じ、常日頃思っている疑問なのに、いつしか「それが普通だから」「仕方ないから」という雰囲気や風潮のなかで処理されてしまい、勝手に納得してしまう。納得しなくてはならない環境に自分を追い込んでしまう。
そんな世の中の”変”な部分に「僕は常々思っているんですが~」と、場の空気に流されず、遠慮せずにツッコミを入れるスタイルは、もはや現代人の代弁者ともいえる存在でもあるのだ。
それでいて、「親の脛をかじって生きている」と言いながらも、自分自身も過去に何かトラウマを抱えている主人公の謎も断片的に明かされていく。そんな過程も、目が離せなくなる需要な要素のひとつだ。
映画版に先駆けて9月9日に放送された番外編となるスペシャルドラマ版でも相変わらずの整節が炸裂したのだが、気になるのはドラマのシーズン2がいつになるのかということ。シーズン2がありそうではっきりしない部分こそが今作の一番のミステリー要素なのかもしれない……。
また近年、フジテレビが映画に力を入れ始めていることを改めて感じさせるクオリティに仕上がっていることにも目を向けてもらいたい。
フジテレビ系ドラマは、『踊る!大捜査線』や『ナースのお仕事』などの90年代から、ドラマと映画のリンクを常に行ってきていたが、ここにきてその距離感がさらに近くなってきている。
ドラマの映画化作品が増えてくると、テレビドラマのような映画が増えている、といった印象にもなりかねない。もっと言うと、ドラマの映画化作品は、お祭り騒ぎのような中身の無い作品ではないか? という誤解を招く場合もある。
そういった負のイメージに対しては、フジテレビとしても深刻に捉えているのだろう。近年の作品はストーリーの”質”を重視していて、あくまで一本の独立した映画としてのクオリティを保つことに重点を置いている。
例えば今年の1月に公開された『イチケイのカラス』は、日本のラストベルト(寂れた工業地帯)が抱える闇を浮き彫りにした作品であったし、去年の『Dr.コトー診療所』は、地方医療逼迫の問題を真正面から描いたものであった。
さらに「ガリレオ」シリーズの『沈黙のパレード』も警察や法のあり方によって生まれてしまった犯罪を描き、警察の立ち位置について改めて考えさせられる内容となっていた。
ドラマの映画化ということが一種のハードルとなってしまうなかで、クオリティを追及してくるフジテレビ系ドラマの映画版は、今後も注目していくべきコンテンツといえるだろう。
【ストーリー】
天然パーマでおしゃべりな大学生・久能整(菅田将暉)は、美術展のために広島を訪れていた。
【クレジット】
■原作:田村由美「ミステリと言う勿れ」(小学館「月刊フラワーズ」連載中)
■監督:松山博昭
■脚本:相沢友子
■音楽:Ken Arai
■出演:菅田将暉、松下洸平、町田啓太、原菜乃華、萩原利久、鈴木保奈美 滝藤賢一、でんでん、野間口徹、松坂慶子、松嶋菜々子、伊藤沙莉、尾上松也、筒井道隆、永山瑛太、角野卓造、段田安則、柴咲コウほか
(C)田村由美/小学館 (C)2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社
9月15日(金)全国東宝系にて公開中
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