M-1グランプリ2023は令和ロマンがトップバッターとして優勝を果たし、歴史に残る大会となった。しかし、その直前に行われた敗者復活戦の熱狂を忘れることはできない。


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当初は屋内開催も注目を集めていたが、やはり最大の変化は大幅なルール改正だ。会場による観客票、そして5人の芸人審査員という2つの“関門”を設けた新ルールはSNSでも概ね好評で、審査員の野田クリスタルも「今までの敗者復活戦のルールは何だったんだ」と冗談めかしながら、今大会からの新ルールを評価した。

勝敗のカギを握ったのは言わずもがな、東京・新宿住友ビルの三角広場で1600人集まったとされる観客の反応だ。実際にはランダムに選ばれた500人の投票で1対1(現勝者と挑戦者のような形式)の勝敗が決するが、当然会場で笑いを“爆発”させれば、票は集まりやすい。その結果、ハゲネタで爆笑を巻き起こしたシシガシラが決勝への切符を土壇場で手にしている。

その一方で、にわかに注目を集め始めているのが敗者復活戦の“環境”だ。屋内開催でハプニングや過酷な外的要因を排除することに成功したが、「プラスの存在」は意外にまだあまり知られていないように思う。

それが会場にあったモニターの存在。あまりに会場が巨大であるため、後方にいる観客のために大きなモニターが用意された。そこにはテレビで流されている映像と同じものが流れていた様子だが、その恩恵を大きく受けていたのがシシガシラだ。

名曲をハゲについて歌ったように扱うというシシガシラのネタは、浜中英昌がツッコミというよりお客さんと同じ感情を共有する共感者として機能することで、会場の全員が同じことを考えるという“異空間”を作り上げた。そして、その笑いが爆発した瞬間こそモニターに脇田越しの浜中が映し出された瞬間。
浜中がツッコむのではなく、うなずいてお客さんに寄り添うことで笑いを誘い、さらには何も気づかず歌を歌う脇田に浜中が笑いをこらえるという「画」は美しささえあった。

山里亮太は自身のラジオ番組『不毛な議論』の中で「もはやあれはカメラマンさんとのトリオ」と評した。ただ一方で、敗者復活戦だけの特別な措置であるだけに、不公平と見ることもできる。実際、敗者復活戦で惜しくも敗れたラストイヤーのヘンダーソンはABCラジオ「ミルクボーイの火曜日やないか!」の中でカメラワークについて「正直あれはズルいですよ。ゆっくりズームで“おもしろバラエティ”になった」と漏らしている。

だが、今後も同様の環境で行われるのであれば、それも要素のひとつとして受け入れるほかない。王者であり、生粋の“お笑いオタク”である高比良くるまも『令和ロマンのご様子』の中でその環境について言及し、画についてもこだわるべきとの発言をしている。

また、審査員の石田明(NON STYLE)はいち早くモニターによる影響の大きさを理解していたと山里は明かし、モニターとの相性がいい「間を使ったネタ」の重要性を話していたという。

目の前にいる観客を笑わせる。当たり前のことだが、そこには周囲の環境も大きく作用することは間違いない。来年もモニターが導入されるのであれば、「画」や「間」が敗者復活戦における勝利のカギとなるのかもしれない。

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