2023年末に放送された『全力! 脱力タイムズ』(フジテレビ系)にて、覆面姿でありながらも約3年半ぶりに地上波全国放送への復帰を果たしたアンジャッシュの渡部健。そこに映し出されたのは、かつて一世を風靡した美食家芸人の姿ではなく、プライドをかなぐり捨てて生まれ変わった“猛省芸人”の姿だった。


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2022年3月に芸能活動を再開させた渡部は、『白黒アンジャッシュ』(千葉テレビ)への出演を皮切りに、ローカル番組やネット番組、YouTube上の動画などで地道に活動を続けてきた。そこで注目したいのが、芸風の大きな変化だ。

芸能活動自粛前の渡部といえば、インテリジェンスあふれるツッコミと、グルメに関する圧倒的な知識などによって人気を博していた。しかし現在ではとことん謙虚で低姿勢、なおかつあらゆるイジリを受け止めるスタンスとなっており、番組内での立ち位置が大きく変わっている。

この芸風の確立に至るまでには、さまざまな芸人との“ガチンコ”の絡みがあった。たとえばABEMAのバラエティ番組『チャンスの時間』では、千鳥の2人が渡部を徹底的にイジる流れが恒例となっている。


2022年11月の『チャンスの時間 #203』では、ノブが別室にいる大悟から指示を受けながら渡部にインタビューを行う企画を実施。千鳥は「あの事件の3日後くらいの顔」で出迎えた渡部に感心しつつ、その衣装を「何のためのオシャレ?」とイジり始めると、奇抜なデザインの靴に「ナイキのタン2枚重ね」「ぼく見たことないんですよ。反省している人が靴のタン2枚重ねてる人」とツッコミを入れていった。

すると渡部は反省した顔で、「これも言い訳になっちゃうんだけど、今日2足(靴を)用意していただいていたのだけど、両方このタイプ」と真面目に弁解。理不尽すぎるツッコミに、1つひとつ律儀に反省しながら答える姿が、独特な笑いを生んでいた。

それ以降も『チャンスの時間』ではしばしば活躍しており、1月14日の回では渡部が調子に乗って失敗しないよう、「やっていいはしゃぎ」と「やってはいけないはしゃぎ」のラインを見極めるという企画に登場し、とんでもない理不尽を押し付けられていた。
同番組での扱いは“元テレビスター”というフリが前提となっているのだが、そこで求められた役柄を完璧にこなす渡部の姿には、コント職人としての確かな実力も感じられる。

さらに渡部の新たな芸を開拓しているのは千鳥だけではない。YouTubeの「さまぁ~ずチャンネル」にもしばしば出演しているのだが、先輩のさまぁ~ずだけでなく、後輩芸人であるみなみかわからも容赦ないイジリを受けている。

初めて2人がセットで登場した回では、みなみかわが「ゴイゴイスー」をやってほしいと無茶ぶりすると、渡部はしっかり要求に応え、スベらされた感じになっていた。プライドが高そうだったかつての姿とのギャップに、驚いた人も多かったのではないだろうか。

さらにABEMA SPECIALチャンネルの『有田哲平の引退TV』に至っては、くりぃむしちゅーの有田哲平が復帰したての渡部に対して、“一緒に芸能界を引退しよう”と執拗に迫るという衝撃の内容。
ほかにもYouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」で名物となっている、ギャルタレント“みりちゃむ”こと大木美里亜による罵倒企画にも出演し、駆け出しの若手芸人のように身体を張っている。

一時期はお笑いから食レポ、ドラマまで“なんでもできる”芸人として腕を鳴らした渡部だが、今ではむしろ“なんでもやる”芸人としての役回りを確立している。つねに申し訳なさそうな表情を浮かべ、誰からのどんな角度からのイジリでも受け止める姿を見ると、少なくとも芸人としては別人に生まれ変わったことを確信せざるを得ない。

もちろんただ受け身なだけでなく、新たな芸風ならではの笑いを生み出すことも多い。『愛のハイエナ』(ABEMA)にて、結婚式でサプライズスピーチをやる企画に挑戦した時は、自虐をふんだんに盛り込んだスピーチで会場が大盛り上がり。新郎新婦に向けた「3つのアドバイス」を伝えるくだりでは、「奥さんに絶対ウソをつかない」「奥さんに絶対隠し事をしない」「奥さんを絶対に泣かせない」という説得力がありすぎるアドバイスを挙げていた。


他方で、元々定評があった食レポはいい意味で変化を遂げており、YouTubeで始めた食レポ番組も好評を博しているようだ。街の飲食店に飛び込みで訪れ、店員や客と交流しながら食を満喫する様子は、昔“鼻につく”とよく言われていた食レポ芸とは大違いの親しみやすさだ。

世間からの風当たりはまだまだ強く、全国地上波への復帰には時間がかかるかもしれないが、真摯な“猛省”に心を動かされる人もいずれ増えていくのではないだろうか。

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