脚本:宮藤官九郎、主演:阿部サダヲによるTVドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)の第3話が、2月9日に放送された。

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今回のエピソードには、サカエ(吉田羊)の夫であり、キヨシ(坂元愛登)の父であり、市郎(阿部サダヲ)の教え子でもある井上昌和教授(三宅弘城)が登場(第2話では写真のみの登場だった)。
タイムマシンの開発者の彼は、タイムパラドックスによって引き起こされる未来への影響を渚(仲里依紗)と睦実(磯村勇斗)に薄ぼんやり語るが、本当に薄ぼんやりとしているので、どんな問題が発生するのか、さっぱりよく分からない。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場するデロリアンに影響されてバス型タイムマシンを作ったくらいだから、写真に写っている人物がタイムパラドックスの影響でどんどん薄くなっていって、この世界から消滅してしまう…みたいな展開は、今後あり得そうだ。なにしろ2024年から1986年にタイムスリップしたキヨシと、その時代に生きている中学生時代の父・井上が親友になってしまうという、タイムパラドックス確定の事態が発生しているのだから。

だが、第3話の実質的なメイン・キャラクターは、八嶋智人だろう。第2話では渚に、「あの人(飛行機の)エコノミーでも文句言わなそうじゃん。でもビジネスだと喜びそうじゃん」と名指しで言われていた出オチキャラだったが、今回は八面六臂の活躍。情報番組「プレサタ」のMC堤ケンゴ(ロバート 山本博)の代理として、突然の要請にも関わらず華麗な進行を務める。

立て板に水を流すようなマスター・オブ・セレモニーっぷりは、まさに八嶋無双。思い返してみれば、彼が全国区の知名度を得たのはバラエティ番組『トリビアの泉 ~素晴らしきムダ知識~』だった。俳優なのに「番組を何とか成立させてやる」というスピリットは、そこから育まれたものなのだろう。いや、知らんけど。

八嶋智人が八嶋智人を演じるというのも面白い発想だが、実はドラマで彼が宣伝していた劇団カムカムミニキーナ の「かむやらい」という舞台も、実際に2月12日まで公演していた本当のお芝居(大阪公演は2月17日~18日)。
本人もX(旧Twitter)で宮藤官九郎に謝辞を述べていたが、こういう遊び心がクドカン・ドラマの魅力。『不適切にもほどがある!』、とにかくエンタメ精神が満載で楽しい。

八嶋智人のやる気はそっちのけで、番組のプロデューサー栗田(山本耕史)は堤ケンゴの四つ股報道(本当は六つ股)に頭を悩ませており、とにかく差し障りのない進行に努めている。だがだんだんとパニックに陥って、「カニクリームコロッケの中身がトロトロ」「稲庭うどんの食感がシコシコ」という感想コメントすらも「何かエロい」と気になってしまい、SNSで炎上する前に謝罪コメントでお茶を濁そうとする。コンプラにがんじがらめなのだ。

一方、昭和の人気番組「早く寝ナイトチョメチョメしちゃうぞ」のMCを務めるのは、女性のスカートのなかから登場することでお馴染み、Dr.ズッキー(秋山竜次)。もっこり青年隊とポロリっ子倶楽部による「勝ち抜き食い込み相撲」など(クドカン、よくこんな名前思いつくな…)、とにかく下らないお色気ショウが繰り広げられる。

昭和と令和の価値観を相対化させるのが、このドラマの鉄板テンプレート。今回もミュージカル仕立てで、「セクハラのガイドラインはどこ?」という疑問が投げかけられ、思いっきりクイーンの『Somebody to Love』をパロった曲に乗せて、市郎が「相手を自分の子供だと思えばいいんじゃないか?」とひとつの提案を示す。

だが、この問題に対して明確な解答を指し示すことが、宮藤官九郎の狙いではないだろう。残念ながら自分の子供であっても、強権的なふるまいはあり得るからだ。その狙いは、睦実が第1話で「だから話し合いましょう、今日は話し合いましょう」と歌ったように、異なる価値観を持つ者同士が徹底的に対話を重ねることで(古い=悪、新しい=善という二元論を飛び越えることで)、より良い未来が築けるのではないかとする提言なのだ。


ちなみにこのドラマ、第1話のタイトルが「頑張れって言っちゃダメですか?」、第2話が「一人で抱えちゃダメですか?」、第3話が「可愛いって言っちゃダメですか?」と、最後が疑問符で終わっている。この感じ、明らかに山田太一による名作ドラマ『ふぞろいの林檎たち』を意識したものだろう。「XXXはダメですか?」という疑問を投げかけ、市郎というキャラクターを触媒にしてひとつの方向性を指し示す。そのスタイルは、第4話目以降でも引き継がれることだろう。

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