【写真】放送の度にSNSでも大きな話題を呼んでいる『対岸の家事』【4点】
本作は朱野帰子氏の同名小説を原作としており、専業主婦の主人公・村上詩穂(多部未華子)が、詩穂同様に家事や育児に悩む登場人物とともに、自身に合ったライフスタイルを見つけていく姿を描いたヒューマンドラマだ。
家事や育児をテーマにしたドラマは多く放送されてきたが、“理解のない登場人物”を悪者扱いして正論を振りかざすケースが目立つため、どこか説教臭さを感じてしまう。ただ、本作は各登場人物の心情や状況が丁寧に描かれており、押しつけがましさは皆無。各登場人物に共感しやすいだけではなく、どのような葛藤を抱えているのかを理解でき、いろいろな立場の人に寄り添いたくなる。だからこそ、配信でも多くの支持を集めているのだろう。改めて本作の魅力を語っていきたい。
とにもかくにもキャスティングが完璧すぎる。まず、詩穂役の多部がはまり役。家事という私たちの生活に切っても切れない営みを題材にしているため、主人公がキラキラしていると見にくくなる。可愛らしさを残しつつも、「どこかにいそう」と思わせ、ついつい自分自身と詩穂を重ねやすくさせる演技力はすごい。そのおかげで本作で描かれている光景が、いかに“日常”であるのかを実感できる。
また、詩穂はのほほんとした雰囲気を持ちながらも、3話で専業主婦としてのプライドを口にするなど芯のあるキャラでもある。
さらには、詩穂の夫・虎朗役を務めるのが一ノ瀬ワタルということは特に触れたい。『サンクチュアリ -聖域-』(Netflix)の主人公・猿桜(小瀬清)を演じて一躍知名度を獲得した一ノ瀬。その後も強面キャラを演じることが多かった一ノ瀬が、家族のために懸命に働く子煩悩の父親を演じているのだから、そのギャップに心を掴まれないわけがない。
他にも、合理的な考え方を持つ厚労省勤務のパパ友・中谷達也を演じるディーン・フジオカも、「言っていることは一理あるけど…」と鼻につきつつも、「根は良いやつそう」と思わせる絶妙な塩梅で演じているのが最高。当然、江口も安定感のある演技を見せており、キャスティングの巧みさが大きく下支えされているドラマと言える。
キャスト陣の演技力に加え、モヤモヤさせないストーリー内容であることも本作の魅力だ。3話では礼子が自身の子供を詩穂に預けることになり、そのことを知った達也は、礼子に会った際に「赤の他人に仕事と家事の両立を手伝わせるのはどうなんでしょうね」「主婦にタダで家事をやらせて自分はキャリアを築く、良心の呵責はないんですか?」という。
詩穂に無償労働を強いたことを責められた礼子は、再び子供を預かってもらうことをお願いした時に「タダでお願いしようなんて思ってない、ちゃんと対価は払う」と言って困惑する詩穂に半ば強引にお金を渡す。
この一連のやり取りに唸ってしまったが、その理由の一つは達也が礼子に厳しい言葉をかけたことだ。礼子のやっていることは詩穂の善意を“搾取”しているように見えかねない。ただ、そこで良くも悪くも空気が読めない達也が無償労働を強いていることへの疑問を投げかけることにより、礼子の気持ちを考えると不憫に思いつつも、どこか納得感を得ている自分もいた。
そして、詩穂が自身の考えをしっかり示すことで、「他人の子供を預かることに対して報酬を支払うべきかどうかは個人間の決め事」と思わせられる。仮に礼子が達也に子供を預ける場合には報酬は発生していたかもしれない。ただ、今回は詩穂だったから無償で引き受けてもらっただけで、「子供を預かったのだから報酬を支払うのは当然」とはせず、家事や育児における絶対的な正解を提示しない展開には好感が持てた。
また、演出も面白く、2話で詩穂が初めて達也と接する際にRPGゲーム風のやりとりになるなど、遊び心が垣間見える。こういったユーモアを散りばめることで、堅苦しくなりすぎずに、気軽に家事や育児について考えることができる。いろいろな工夫が凝らされた本作に今後も注目したい。
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