アイドルグループを3年前に卒業し、得意の文筆業の他にもイベント出演やSNSの更新を続けている宮田愛萌。作家・タレント・さらには短歌研究員などの顔を持ち、このほど自作の短歌とグラビアによる“写真短歌集”『わたしのをとめ』を刊行した。
大学でも研究し、愛好してきた文学を仕事にできた実感や、ペンにとどまらない活動を続けている思いを聞いた(前後編の前編)。

【写真】歌の良さについて語る、宮田愛萌の撮り下ろしカット【4点】

4月21日に刊行した『わたしのをとめ』(短歌研究社)では自身の書き下ろし短歌50首に加え、レトロな和装・洋装を着て撮り下ろした写真で、宮田が考える理想の美少女が主人公になった。

宮田 母が『私の着物の写真を見たい』と言ってくれたのがきっかけでした。レトロなもの好きだったので世界観を作っていって、私が考える理想の女の子を短歌と写真で表現してみました。

――レトロな衣装も着こなしていましたが、撮影の時はどんな意識でいたのでしょうか。

宮田 被写体でいる時は、ひとつの作品でいる、と思っています。プロのカメラマンさんやメイクさんなど、多くの人と作り上げて撮っていただいた写真なので、宮田愛萌としてではなく、別個の芸術品として写真に残っているような…そう考えるとリラックスしてカメラにも向かえるんです。

――そして、短歌のコンセプトは?

宮田 私にそっくりの、現代に生きる女性が主人公で、彼女が理想の美少女を想像して『こんな性格かな?どんなことを考えるんだろうか?』と色々な角度から彫り下げています。理想の女の子への憧れと、現代の現実を行き来するように読めるかなと思います。

――日向坂46時代から、アイドルが短歌を詠むイベント『アイドル歌会』にも参加してきましたが、今回50首を書き下ろしてみた感想は?

宮田 実はかなり締切に苦戦していました(笑)。短歌との縁は高校3年生で万葉集に触れてからで、進学した國學院大学でも最初は万葉集を専攻していたので、現代短歌を本格的に学び始めたのは学年が上がってからです。4年生の時に現代短歌の授業で『毎週短歌を詠む』という課題があり、必死で歌のアイデアをひねり出していました。
その時の経験がベースですね。

――創作って、もっと感情のおもむくままにできるイメージがありましたが、そうでもないと。

宮田 私もそんな先入観がありました。古典で読む昔の貴族の人とかも、風景を見てさらっと歌を詠んでいたり。でも現代短歌にもたくさん技巧があって、テクニカルな世界です。例えば『字余りになった方がリズミカルで面白いけど、その1字に意味は要らないから、どんな字を入れようか?』のように考えて推敲しています。

――なるほど。どんな時に短歌を詠みたくなるのでしょうか?

宮田 普段の生活の中でも『短歌にしたら面白いな』って思う瞬間が来るんです。ふと聞いた人の言葉や自分が見たもの、あるいは思い浮かんだ想像上の風景や感情なども。31文字しかない分、小説よりも世界観を自由に掘り下げられるのが短歌で、同じ歌でも人によって感想が変わってくるのも面白いです。だから私が歌にした情景から、皆さんが何を連想するのか想像するのも楽しみです。

――『アイドル歌会』は毎回、多彩なグループのアイドルが集まります。
アイドルと短歌は、意外と相性も良いのでしょうか?

宮田 どうでしょうか…アイドルとして詠むといった特別な感覚はなくて。日ごろ、なかなかストレートに出しづらいことも、短歌にすると柔らかく言えてしまうのが歌のよさです。アイドルって、『ここまで言っていいんだろうか?』と自分の言葉に気を使わざるを得ない時もあるかなと思っていて。そんな時に歌だと面白く受け取ってもらえるので、皆リアルなアイドル経験があるからこそハマる要素もあるのかなと。俵万智さんに笹公人さんと、プロの歌人の方も出演しているので、新しい解釈が聞けるので発見もあって、表現も鍛えられます。

――そして短歌研究員というプロフィールもユニークですね。

宮田 アイドルを辞めて初めていただいた肩書なので、大切にしています(笑)。もともとは日向坂46を卒業したら就職するつもりでした。でも卒業してからも『アイドル歌会』のお話をいただいて、卒業したのにアイドルと名乗るわけにもいかないし…と短歌研究員として参加させてもらいました。

――短歌に限らず『きらきらし』『あやふやで、不確かな』『春、出逢い』など、小説やエッセイの執筆も続いています。

宮田 でもまだ、良くも悪くも仕事という感覚がないんです。小説の執筆も、構想を練って整理して実際に書き上げていく…どの過程も楽しみながら進めていったら、気づいたら締切が迫っている(笑)、そんな感覚です。
だから『仕事なんだ』と重みを自覚することもあまりなくて、『書きたい!』という欲求のままに作品ができていきました。

――縁あって好きな文学を仕事にできている日々ですが、憧れる人も多いのではないでしょうか?

宮田 こんなフワフワとした感覚でいいのだろうかと思いつつ、宮田家では父も仕事が大好きで、全くきつくないようです。そういう身近な人を見ていると、好きなことを仕事にする日々ってこんなもんかな、という現実感も感じます。締切もあるし、思ったよりキラキラした日々でもないけれど、楽しいですね。

宮⽥愛萌(みやた・まなも)
作家・タレント。 1998 年 4 ⽉ 28 ⽇⽣まれ、東京都出⾝。
2023 年アイドル卒業時にデビュー作『きらきらし』を上梓。現在は⽂筆家として⼩説、エッセイ、短歌などジャンルを問わず活躍し、本に関連する TV/トークイベント/対談なども出演。現在、レギュラー番組にTV LIFE ラジオ番組『⽂化部特派員「宮⽥愛萌」』パーソナリティ、TBS ポッドキャスト 『ぶくぶくラジオ』。連載エッセイに小説現代『ねてもさめても本のなか』(講談社)、短歌研究エッセイ『猫には猫の・犬には犬の』(短歌研究社)を持つ。またスイーツブランド『バターの女王』アンバサダーも務める。

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