ラ・リーガ1部のSDウエスカに所属する元日本代表FW岡崎慎司が苦境に陥っている。岡崎自身は怪我もあってコンディション不良な状態が続き、1得点。
チームも36試合消化地点で勝点33の17位。2部降格圏を脱出したとはいえ、残り2試合で最下位のエイバルまで勝点差が僅かに3。1部残留に向けて緊迫した状況にある。

ラファ・ミルが覚醒、現在の岡崎の立場
昨季2部で優勝したウエスカにあって12ゴールを挙げてチームのMVPに選出された岡崎は、1部昇格で迎えた今季も2月頃までは先発起用が多かった。ところが、3月に入った辺りから急に先発から外れた。
2月27日の第25節・敵地でのエイバル戦から、第33節(前倒し開催)敵地でのアラベス戦までの7試合は、5試合連続ベンチで90分間を過ごす時間も続き、出場したのは途中出場の僅か1分間のみ。
その後、4月22日に開催された第32節・敵地でのアトレティコ・マドリード戦で9試合ぶりに先発復帰して以降は徐々に出場時間も延びて来たが、岡崎が起用されるのはチームが負けている状況に限られている印象だ。
ウエスカのフォワード(FW)陣には昨季途中にイングランドのウルヴァーハンプトン・ワンダラーズから期限付きで加入した23歳のスペイン人FWラファ・ミルがいる。昨季2部の半年で9ゴールを挙げ、今季は1部でもここまでチーム最多13ゴールを記録。チーム総得点33の約4割を占める。
191cmの長身でスピードも兼備するラファ・ミルは後半戦に入ってハットトリックも記録するなど好調をキープ。誰もが認めるチームのエースである。
ただ、ウエスカは昇格組であり、現在も18位。相手がボールを持つ時間が長くなるチームなのは間違いない。ラファ・ミルとコンビを組む選手には黒子となって自身の得点よりもチームの勝点を優先させられる選手が必要である。岡崎だ。

レスターで「バーディとマフレズに負けた」
岡崎はイングランド・プレミアリーグのレスター・シティに所属していた2015-2016シーズン、「奇跡」と言われたプレミアリーグ優勝に貢献したFWだ。しかし、FWとして年間通してレギュラーとして起用された岡崎は36試合に出場して5得点に終わっていた。
当時の岡崎は、11試合連続得点というプレミアリーグ記録を樹立するなどし24得点を挙げたイングランド代表FWジェイミー・バーディと、同18得点を記録してリーグのMVPに選出されたアルジェリア代表MFリヤド・マフレズ(現マンチェスター・シティ)に「負けた」という。
当時レスターの戦術自体が爆発的なスピードを持つバーディありきのカウンタースタイルだったこともあったが、特に個人技に走る傾向が強かったマフレズに対しては「彼はスタメンから外れた時はチームプレーや守備を優先していたのに、スタメンに戻った途端に自己中心的なスタイルに戻って、しかもそれで結果を残しちゃった」と言う。
だからこそ、岡崎は献身的な運動量や守備力で彼等を支え、中盤と前線を繋ぐ潤滑油のような重要な役割を担ったのだ。日本でもプレーした元イングランド代表FWギャリー・リネカー氏からも「あのターンの技術は素晴らしい」と技術的な部分も評価された。
そう言えば、イタリアのASローマが2000-2001シーズンに18年ぶりとなる悲願のスクデット(セリエAのリーグ優勝)を獲得した際のイタリア代表FWは岡崎以上に得点が少なかった。マルコ・デルベッキオである。

ローマ悲願のスクデットに導いたデルベッキオは31試合3得点
当時のローマを率いたのは「優勝請負人」の異名をとるファビオ・カペッロ。どんなに退屈なサッカーをしてでも結果を最優先させる監督だ。
そのカペッロ監督が就任して2年目を迎えた2001年夏のローマは、フィオレンティーナからクラブの象徴だったアルゼンチン代表FWガブリエル・バティストゥータを獲得。時速100km越えの豪快な右足シュートで“バティゴール”と鳴らすバティストゥ―タは、それまでリーグ20得点以上を4度も記録。しっかりとした土台が出来上がったチームに、「優勝を買った」と表現されるピンポイントかつ強力な補強だった。
主に[3-4-1-2]システムを使っていた当時、単独トップ下に君臨していたのは、エースナンバー10番を着る地元ローマ出身の“王子”フランチェスコ・トッティ。トッティは完全に守備を免除され、大金を叩いて獲得した31歳のバティストゥータにも無理はさせられない。しかもカペッロは世界中見渡しても最も守備にうるさい監督だ。
そこで主力を担うイタリア代表FWマルコ・デルベッキオが彼ら2人の守備の負担役を担った。前年までは同じくイタリア代表FWのヴィンツェンツァオ・モンテッラと2トップを組んでいたデルベッキオは、バティストゥータの加入によりサブ降格が噂されていた。モンテッラは前年18得点を挙げたものの、デルベッキオは11得点に終わっていたからだ。
ただ、すでに前年からトッティの守備の負担を任されていたうえでの11得点は希少価値が高い。指揮官からも高く評価されていた。
その結果、バティストゥータは期待通りに20得点を挙げてスクデット獲得に貢献。トッティもそれまでのウイングではなく、トップ下として本格的にプレーしたシーズンで13得点。それだけでなく、スーパーサブに降格したモンテッラも勝負所で投入されて13得点を挙げていた。
デルベッキオ自身は31試合に出場しながら3得点のみに終わった。ユニフォームを汚し、相手を掻きまわす役割もこなしたことで彼等にスペースや時間を提供していた。勝負所となる時間帯でモンテッラと交代するまでハードワークを続けた。カペッロ監督もそれを高く評価していたからこそ、デルベッキオを先発要員として起用し続けたのである。

得点よりも勝点を量産できるFW
岡崎もデルベッキオもその役割に納得はしていないだろう。しかし、彼等は自分にやるべきことをこなし、地位を確立した。
彼等の名誉のために後述しておくが、デルベッキオはセリエAで3度の2桁得点を記録し、岡崎もドイツ・ブンデスリーガのマインツ所属時は2年連続2桁得点を記録している。
また、デルベッキオにオーバーヘッドキックのようなアクロバチックなゴールが多かっように、岡崎もレスターを「奇跡の優勝」に導いた見事なオーバーヘッドゴールなど、勝負所でゴールを期待できるストライカーである。
岡崎はレスターでもがき、スペイン2部へ移籍してストライカーとしてリスタートを図り、実際にそれが実ってリーガ1部でプレーする機会を得た。
そしてトーマストゥヘル監督か。
— Shinji Okazaki (@okazakiofficial) May 5, 2021
やっぱり寝れないな。 https://t.co/YuALBoqbCu
しかし、レスターの奇跡から5年が経った今季、欧州ナンバーワンを決めるUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝はマンチェスター・シティとチェルシーの対戦だ。シティにはマフレズがいて、チェルシーにはエンゴロ・カンテとベン・チルウェルというレスター時代のチームメートが在籍。さらにチェルシーの指揮官トーマス・トゥヘルは岡崎のマインツ時代の監督である。
サッカーという競技自体は急速に進化し、得点源は必ずしもFWである必要はなくなった。今こそ、岡崎には潤滑油のような役割を担ってもらいたい。時代は岡崎&デルベッキオ型FWに味方している。
岡崎もデルベッキオも得点よりも勝点を量産できるFWである。