1993年に開幕したJリーグも、今年で30周年。歴代の選手や監督はもちろんのこと、多くのクラブスタッフの尽力により津々浦々のJクラブが発展してきた。
ここでスポットを当てるのは、1996年ベルマーレ平塚(2000年に湘南ベルマーレに改名)に入社し、現在もJ1湘南ベルマーレの広報として活躍する遠藤さちえ氏。Jリーグの歴史と共に遠藤氏が何を大切にし、ベルマーレに関わる全ての人々と接してきたのか。また、同氏が考えるJクラブとファンの理想の関係性とは。これらについて存分に語ってもらった。
ここでは、インタビューの後編を紹介する(インタビュアー:今﨑新也)。
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支えてくれている地域への貢献
ー(親会社の撤退で)ベルマーレ平塚が存続危機に陥った、1999年についてお伺いします。遠藤さんのなかで存続危機になる前に「本当に地域貢献できているんだろうか」という葛藤があったそうですが、そう思うようになった具体的な理由やきっかけは何でしたか?
遠藤氏:決定的な何かがあったわけではなく(地域に対して)「特に何も活動ができていないな」「(表面的な)言葉が先行しているな」と感じていました。サッカーに関してはしっかり見せていたと思うんですけど、それ以外のことをもっとやれば、地域の方が喜んで下さるのにという思いは抱えていましたね。
ー湘南ベルマーレに改名した2000年以降、ホームタウンに向けた活動のなかで反響が大きかったものは何でしたか?
遠藤氏:2000年に眞壁さんが「小学校体育巡回授業をやろう」と提案しました。(親会社の)フジタ撤退からフロントスタッフが減って、一人何役みたいな感じでしたし、お金もない状況だったんですけど、そんななかで人件費をかけ、当然ですけど収入にはならない巡回授業を始めると聞いた時には「今やるの!?」「そんな余裕あります?!」と最初はみんな驚きました(笑)
だけど、眞壁さんの信念が強くて。「時間がかかることだからこそ、早く始めないといけない。今こそやるんだ」と。ベルマーレは地域の皆さんの支えによって存続できた。

多くの小学校は教科担任制ではないので、体育の授業をクラス担任の先生が受け持ちますよね。それで困っている先生が多いと伺いまして。子どもたちには、スポーツを好きになってもらいたい。そこでまずサッカーは二の次で、ボール運動をみんなで楽しくやろうと。全員が体育の授業を楽しむというコンセプトで、ベルマーレのコーチが各学校に赴くようになりました。この活動は今年で23年目を迎えています。いまは授業にさらなる工夫がされていて、子どもたちが楽しそうに身体を動かす様子が見れるのは嬉しいことですね。
ホームタウンが広がって、続けて訪問する学校も増えていきました。小学生時代にうちの巡回授業を受けた子が、成長してベルマーレのインターンに来てくれたケースもあります。それこそ、「小学校巡回授業がきっかけでベルマーレを好きになりました」と言ってくれて。
ー湘南ベルマーレが、既にたくさんの人の人生に彩りを与えていますよね。
遠藤氏:私たちの知らないところで、ベルマーレという存在が何かの力になっているかもしれない。そう考えると、可能性は無限大ですね。藤和不動産サッカー部(ベルマーレの前身)時代から50周年のときに、いろいろな方からベルマーレとの出会いや思い出を伺う企画がありました。「ベルマーレによって人生が変わりました」「ベルマーレに助けられました」という声をたくさん頂いて。
これは選手ともよく話すんですけど、自分の知らないところで、自分のプレーや言葉、行動が誰かの人生の役に立っているかもしれない。こんな嬉しい仕事無いじゃないですか。「ありがたい仕事をさせてもらっているよね」という話をよくしますし、私自身も感じていることです。

「日本一、応援したいと思ってもらえるクラブに」
ー新スタジアム建設の件などで、湘南ベルマーレは今転換期を迎えています。サポーター、ホームタウンの住民の理解や納得を得るために、遠藤さんは何を心がけますか?
遠藤氏:新スタジアムに関しては、サポーターの方々を含めた皆さんの、10年、20年来の悲願です。
ベルマーレのアグレッシブなサッカーを、より臨場感のあるスタジアムで皆さんに見て頂きたい。新スタジアムが現実になれば、新しい景色が見えると思うのでこれを叶えたいです。そのためには「やっぱりベルマーレが必要だよね」と、皆さんが納得して下さることが重要だと思います。
ベルマーレの試合に行ったことがない人にも、「このクラブがあるから地域が活性化してるよね」、「スポーツ教室に行ったら、ベルマーレのコーチが教えてくれたよ」と思って頂けるように、タッチポイントを多くする。これによって地域の皆さんの理解も得られやすいと思います。試合の結果だけじゃなく、これも重要かなと考えています。
ー遠藤さんが考える、Jクラブとファンの理想の関係性を教えて下さい。
遠藤氏:ずっと思っているのが、日本一、応援したいと思ってもらえるクラブにするということですね。「なんか応援したくなっちゃうんだよね」「あいつら頑張っているから応援してやろう」という存在にしたい。
強いクラブと、地域を大切にするクラブを別々に考えるんじゃなくて、ベルマーレはこの両方を持ち合わせるクラブでありたいですね。

ーこれまでベルマーレを愛してきた人、まだ見ぬベルマーレサポーターになり得る人たちへのメッセージをお願いします。
遠藤氏:(優勝を成し遂げた)2018年のルヴァンカップ決勝が終わった後にピッチ上で選手対応をしていたのですが、そのときにベルマーレのサポーターがいるスタンドを見たんです。サポーターの笑顔がはじける姿を想像していたんですけど、皆さん、涙を流されていました。私、それに圧倒されちゃって。
クラブの存続危機があり、J2に落ち、J1に上がり、またJ2に落ち、またJ1に上がる。本当にいろいろなことがあったクラブを見続けてくれた方や、一緒に乗り越えてくれた方がいらっしゃいます。喜びのときばかりじゃない。悔しかったり、悲しかったりすることのほうが多かったと思うんですけど、(それでも)一緒に歩んで下さったからこその姿だったと感じています。
存続危機のときには想像できなかった景色が(2018年のルヴァン杯決勝には)あって、ベルマーレのルヴァン優勝が本当に“我がこと”として喜んでもらえた。
ベルマーレをずっと応援して下さっている皆さんとは、この思いを何度でも一緒に味わいたいですね。これから応援して下さる可能性がある方には、本当にこの輪に入ってもらいたい。私たちはいつも扉を開けて待っていますし、自分たちも地域にもっと深く入っていきたい。ベルマーレらしく、地域と共に歩んでいきたいです。
(了)