2023シーズンも残り僅かとなった明治安田生命J1リーグ。8月18日~20日の第24節を終えた時点で、前評判と実際の順位が乖離しているチームの1つがアビスパ福岡だろう。

昨2022シーズンは最終節までもつれ14位でなんとか残留を決めたため、有識者たちの順位予想では常に下位でJ2への降格候補に挙げられるケースも少なくなかった。ところが、いざ蓋を開けてみると現時点で勝ち点35の8位とトップハーフに位置しており、今シーズン10試合を残して早くも残留争いとの縁を断ち切ることに成功している。

8月30日には現在ベスト8まで進出している天皇杯(JFA全日本サッカー選手権大会)の準々決勝を控えており、9月6日からはYBCルヴァンカップ(ルヴァン杯)でベスト4を懸けた連戦が始まる。躍進する福岡が目指すのは、まだ見ぬ頂への到達だ。

初タイトル獲得を目指す、アビスパ福岡の現在地

最も長い期間3大タイトルを獲っていない福岡

J1リーグ、天皇杯、ルヴァン杯は、国内3大タイトルと呼ばれている。「オリジナル10」と呼ばれるJリーグ創設時の10クラブ(※)は、全ていずれかのタイトルを獲得済みだ。それ以降に加盟した湘南ベルマーレジュビロ磐田柏レイソルセレッソ大阪、京都サンガも全ていずれかのタイトルを制した経歴がある。

しかし、福岡は京都と同じ1996年に加盟しながらも、いまだ3大タイトルに縁がない。つまり現在のJリーグにおいて「最も長い期間3大タイトルを獲っていないクラブ」なのだ。残念なことに、優勝どころか2位や決勝戦進出など、あと1歩まで進んだ経験もない。2002年以降はJ2で過ごした期間が長く、3大タイトルの獲得は憧れでありながらも、福岡にとって現実的な目標とはならなかった。

タイトルを獲得したクラブのユニフォームには王者の証である黄金の星が輝いているが、従って福岡のユニフォームに星はまだひとつもない。

※オリジナル10:鹿島アントラーズジェフユナイテッド千葉浦和レッズ東京ヴェルディ横浜F・マリノス(横浜マリノス、横浜フリューゲルスが1999年に統合)、清水エスパルス名古屋グランパスガンバ大阪、サンフレッチェ広島

初タイトル獲得を目指す、アビスパ福岡の現在地

エレベータークラブからJ1定着へ

1部リーグと2部リーグを何度も行き来するクラブのことを「エレベータークラブ」、英語圏では「ヨーヨークラブ」と呼ぶ。福岡は、2023年時点でJ1とJ2の昇降格合計が8回。

これはJクラブにおいて北海道コンサドーレ札幌、湘南、京都と並び1位タイの回数であり、まさにエレベータークラブそのものだ。

しかし、2021シーズンにJ1に戻って以降は同シーズン8位、翌2022シーズンは14位、そして今2023シーズンは現時点で8位と安定したJ1生活を送っている福岡。2022シーズンはチーム内に新型コロナウイルスが蔓延し、大きく順位を落としながらも14位に留まった経緯を考慮すれば、しっかりとJ1クラブに変貌を遂げたと言っても過言ではないだろう。

天皇杯、ルヴァン杯ともにベスト8まで進出している今シーズン、両カップ戦を制する可能性があるのは福岡と名古屋のみである。どの大会でも安定した戦いができているのは、メンバーが入れ替わってもプレースタイルが変わらないことが大きな要因だろう。

キャプテンのDF奈良竜樹とDFドウグラス・グローリを中心としたセンターバック、MF前寛之と今季新加入のMF井手口陽介らによるボランチを中心とした守備ブロックは強固で、相手にボールを持たれる時間が長くても、ひずみや動揺が一切見られない。

実際、リーグ戦で5連勝を挙げた第19節から第23節までの試合は、支配率で相手を下回っていた。

初タイトル獲得を目指す、アビスパ福岡の現在地

ミスター福岡にトロフィーを!

福岡がJ1に定着したことで、次なる目標としてタイトル獲得を目指すのは自然なこと。ただし、福岡のサポーターにとってタイトルを切望する理由はそれだけではない。どうしてもトロフィーを掲げて欲しい選手がいるのだ。それは、チームのバンディエラにして背番号10を背負うFW城後寿だ。

長崎県立国見高等学校を卒業後の2005年に加入して以来、19年間にわたって福岡一筋。人生の半分以上をこのクラブで過ごしており、積み重ねてきた結果も凄まじい。

クラブの通算出場記録では、第3位のMF田中佑昌(2004-2011)が263試合、第2位のMF鈴木惇(2008-2012)が294試合、第1位が城後で484試合をも記録している。

クラブの通算得点記録は、第3位のFW大久保哲哉(2008-2010)が39得点、第2位のFW石津大介(2012-2021)が42得点、そして第1位の城後が83得点でこちらも1位。2位の石津と比較して約2倍の数字を残している。

J1だけで見ると、2011シーズンに7得点、2016シーズンに6得点と、それぞれチームは降格した年だが城後は安定した成績を残してきた。そのため、J1上位で予算規模の大きいクラブからのオファーが届いたことも1度や2度ではない。福岡の経営危機により、城後が移籍しても仕方ないと思われるタイミングもあった。

それでも最終的に残留を選び、後輩を背中で引っ張る存在であり続けている城後は、クラブがJ2に所属していた当時から「J1で優勝してシャーレを掲げたい」とタイトル獲得を目指していた。

初タイトル獲得を目指す、アビスパ福岡の現在地

適度な自信と共に星の獲得へ

城後の他にも、今季リーグ戦7得点を挙げているFW山岸祐也を筆頭に、選手たちからはタイトルを意識したコメントが増えている。適度な自信と明確な目標は、チーム力をもう1段階引き上げるカギとなり得るに違いない。

J1第24節のアルビレックス新潟戦は0-1で敗れ公式戦の連勝こそ7で止まったが、失点後にもゴールの匂いを漂わせ続けた福岡。敗戦を糧に細部の戦略を詰め、8月26日以降続くリーグ戦、天皇杯、ルヴァン杯の5連戦で勝利し、ユニフォームに輝く星の獲得へと1歩近付いて欲しい。