2023明治安田生命J1リーグ第25節の全9試合が、8月25日と26日に各地で行われた。
同リーグ最下位の湘南ベルマーレは25日、本拠地レモンガススタジアム平塚で浦和レッズと対戦。
今節もリーグ戦最下位からの脱出を逃し、J2リーグ降格の危機に瀕する湘南の根本的な問題は何か。ここでは浦和戦を振り返るとともに、この点について解説する。

開始早々に湘南の守備を攻略
基本布陣[4-2-3-1]の浦和は、隊形変化を駆使しつつ自陣後方からパスを回す。湘南のハイプレスを掻い潜る方法を探った。
この日の湘南の守備は、[3-1-4-2]の布陣の2トップ(大橋祐紀とタリクの両FW)が、浦和の2センターバックからボランチへのパスコースを塞ぐというもの。このうえで浦和のパス回しをサイドへ追いやろうとする意図が窺えた。
キックオフ直後こそ、DF酒井宏樹(右サイドバック)とMF大久保智明(右サイドハーフ)がタッチライン際で共存してしまい、パスコースが無くなるという現象が見られたものの、この浦和の攻撃配置の悪さは徐々に改善されていく。

アレクサンダー・ショルツと岩波拓也の両DF(浦和の2センターバック)がボールを保持するやいなや、ボランチの岩尾がタリクや大橋の斜め後ろに立ち、中央へのパスコースを確保しようとする。タリクと大橋は岩尾へのパスコースを塞ぐのに精一杯で、しだいにショルツや岩波への寄せが緩くなった。
前半2分にショルツと岩波がパス交換を行った際も、ボランチの岩尾がタリクや大橋の斜め後ろに立ったため、浦和の2センターバックとしては縦パスを出せる状況に。
最終的には大橋の寄せが遅れた隙を岩波が突き、攻め上がった右サイドバックの酒井へ正確なロングパスを送っている。キックオフ直後にして、浦和は湘南のハイプレスを攻略してみせた。
岩尾は湘南の2トップの斜め後ろのみならず、適宜味方の2センターバック間へ移動。一時的に3バックが形成され、湘南の2トップとの数的優位(3対2)も生まれたことで、浦和のビルドアップが安定した。

浦和のミスに助けられただけの湘南
前半5分には、MF伊藤敦樹(ボランチ)がセンターバックの岩波と右サイドバックの酒井の間へ降り、湘南のMF平岡(インサイドハーフ)をサイドへおびき寄せる。これにより空いたセンターサークル付近へ浦和の右サイドハーフ大久保が立ち、岩波からの縦パスを捌いた。
大久保からFWホセ・カンテへのヒールパスは惜しくも繋がらず、ここから湘南の速攻が始まったものの、このホームチームの攻撃は浦和陣営のパスが僅かにずれたことによる現象。ゆえにハイプレスの成果ではない。大久保に対する湘南DF大野和成(センターバック)の寄せも遅れており、チーム全体としてのハイプレスの連動性は決して高くなかった。

湘南がハイプレスでボールを奪えたのは、相手選手が技術的なミスを犯したとき、もしくは浦和の両サイドバックが自陣後方のタッチライン際でボールを受けるなど、相手の攻撃配置が悪かった場面のみ。浦和の隊形変化への準備ができていたわけではなく、時折見られた相手のミスに助けられていたにすぎなかった。
見方を変えれば、湘南がハイプレスを仕掛けてくるのを想定し、隊形変化のパターンを複数用意していた浦和の試合巧者ぶりが光った一戦と言えるだろう。

改善されない湘南の悪癖
GKや最終ラインからのパス回しの際、ウイングバックが自陣後方のタッチライン際や味方センターバックとほぼ横並びの位置へ降りてしまい、相手のハイプレスの的となってしまうのが湘南が長きに渡り改善できていない悪癖。この試合の序盤こそ、杉岡大暉と畑大雅の両DF(両ウイングバック)から高い位置をとろうとする意識は窺えたが、前半の飲水タイム終了後からポジショニングが悪くなってしまった。
前半27分の湘南の攻撃シーンが、この典型例。ここではDF岡本拓也(センターバック)がボールを保持した際、右ウイングバックの畑が自陣後方のタッチライン際に降りてきてしまっている。ゆえに浦和のMF明本考浩(左サイドバック)のプレスに晒されてしまった。
MF田中聡(中盤の底)が浦和のMF安居海渡に捕捉されているにも関わらず、湘南の2インサイドハーフ(平岡とMF池田昌生)によるサポートが無かったことが、畑が自陣後方へ下がらざるを得なくなった原因。縦に速く攻める意識が強すぎたのか、ここでは湘南の陣形が前後に間延びしていた。
自陣後方でボールを受けた畑は、右サイドに流れてきた池田とのパス交換を試みたものの、岩尾にボールを回収されてしまう。その後岩波に縦パスを繰り出されてしまい、逆にホームチームが浦和の速攻を浴びた。
相手の隊形変化への準備不足と、2インサイドハーフがビルドアップに関与しないことに起因する、ウイングバックの自陣後方でのパス受け取り。この2点が改善されない限り、湘南のJ1残留は覚束ない。